66.不穏な輩
「おい、兄貴達!ここいらは農しかできん者の集まりだ。勘弁してくれないか?」
何やら遠くから井兄の情けない声が聞こえてくるのだが、何かあったのだろうか?
「うるせぇぞ!井師弟!最近の雑役弟子共は本来の仕事を忘れて農にかまけて、更には大金稼いでるって話じゃねぇか!」
うん、何かチンピラとしか思えない連中の声も響いてきた。何か最後の金に五月蠅そうな感じが何とも、碌でもない雰囲気を醸し出している。
「そうは言うけど、兄貴達!ここの連中は皆訳アリだ。怪我だったり、もともと気弱だったり、兄貴達に付いて行って、狩りなんて出来ないって」
「あ~~~ん?そんなのやってみなきゃ分からんだろう?そもそもこの宗は魔物が多く出るから、一人でも多く狩りに出るのが当たり前だ!それをぬくぬくと安全な所で修行して、さも当然なんて顔してる事が、問題だろう!!」
ふむ、どうやら兄貴と呼ばれているチンピラ風の連中は、宗内の魔物を狩る事を仕事としているようだ。
何だかんだ自分は今まで内門にいたり、出てはこの外門の更に外にいたので、魔物という生き物とは無縁だが、どうやら狩人の手が足りなくて困ってるって事でいいのだろうか?
「井兄、どうしたの?何か騒いでいるみたいだけど?」
一先ず、井兄の元に向かい声を掛けると、ぎょっとした目でこっちを見返してくる。
「おい!百弟!お前はそれこそ農しかできないんだから、家に引っ込んでろ!」
何か今日の井兄はいつもに増して威圧的というか、横柄な感じがするのは、やっぱこの兄貴って呼ばれてる連中が相当質が悪いのか?それで何とか自分を引き離そうとしている?そんな風に思えるのだが。
「おうおう、兄ちゃんよ!百っつうのか?今より簡単に稼げる方法があるが乗らないか?」
そんな今どき詐欺師でも使わん文句に乗る訳もなく、冷たい視線を返す。
「労働は尊いものなので、楽するとかしないとか関係なく誰かの為に行えば、自分の価値を得られる。そういう物です」
つい、ブラックな企業の観点でものを言うと、凄く鼻白んだ様子の兄貴連中。
「面白い事言うな兄ちゃん……いや百師弟。それなら宗の為に魔物狩りをしないか?そうすりゃ多くの宗の者が助かる」
「どうやってですか?先程、井兄も言った通り自分には農しか取り柄がありませんけど」
「はっはっは!大丈夫さ!魔物は俺達外門弟子が殺るから、お前は素材の運搬とか、そこらの植物系の素材でも集めていればいい」
つまり、雑用全般を自分がやっている内に、この兄貴達が魔物を倒してくれるって寸法だ。
正直やってみたい!なぜなら丹薬の素材や食べる為の毒素材を手に入れられる可能性があるから!
「おい!百師弟!やめとけって!お前には才能があるんだから、あえて危険な事なんかしなくても……」
「うるせえぞ!井師弟よ、よく考えろ?この百師弟は自ら手を挙げて魔物狩りがしたいって言ってんだ。ここで幾ら兄貴分でも、百師弟が魔物狩りしたいってなら、そこに口出しはできねぇな?」
井兄が、何か嫌な顔をして、こっちを見てくるがどういう事だろうか?
折角の魔物狩りの機会、それもこの兄貴達が魔物は倒してくれるという。それならば山に入って素材採り放題じゃん?
それこそ、畑に植えてあるものの面倒見たり、ただただ使う予定もない符禄を書くよりはよっぽど有意義な時間のように思える。
「今度、魔物狩りに連れて行ってください。ただ井兄の面子も潰すつもりないので、ちょうどいい日程があればって事で、どうですか?」
「はっはっは!いいじゃねぇか!じゃあ、また連絡するわ」
散々騒いでいたチンピラ達はさっさと帰っていった。
「何やってんだ百弟!」
「どうしたんだ?井兄?」
「いや、何となく察しろよ!あの兄貴達は昔から評判が悪くてさ。俺達みたいな雑用弟子を連れて行っては、魔物を引っ張り出す囮に使ったりとか、魔物との戦いに参加してなかったとかで報酬を巻き上げたりとか、とかく評判が悪いんだよ」
「いや、でもそれでも風塵宗の弟子なんだから、そこはそれなりにちゃんとやってんじゃないの?」
「人が良すぎる!風塵宗なんてな!兎にも角にも人の出入りも多ければ怪我人も多いし、自分で自分を守れない奴はあっという間に消え去っちまうんだ」
なんとも井兄は真剣な表情で訴えてくるが、前の世界で散々いくらでも替えの利く部品の様な扱いを受けてきた自分には、いまいち説得力がない。
死ぬまで働け、壊れれば生活保護でもなんでも受ければいい。そんな風に扱われてきた自分達の世代に、今更そんなまともな事を言われてもな?
どう思う?システム的にはさ?
〔さぁな?どんな魔物が出てくるかも未確定だし、あまり勝手な事も言えないが、あの程度の連中が幅をきかせてるんだったら、お前の能力なら問題ないぞ〕
そうは言っても、自分はまだ練気6級のぺーぺーなんだけど?
〔逆に言えば、この宗の聖子候補ですらやっと築基なんだぞ?折角だしここはリスクを取って、魔物狩りってのもありだろう〕
「井兄さ?自分もいい歳だし、やばければすぐ逃げるから、そんなに心配しないでも大丈夫だってばよ」
「信じるぞ?百弟は俺が見てきた中でも一番才能が輝いてるんだ!ちゃんと戻って来いよ」




