65.王凡はやっぱりただ者じゃないみたい
「はい!確かに王凡は私の姉でございますが、面識がおありで?」
ある日、ちょっと時間が取れたので、偶々訪ねて来た王名月と話をする機会があった。
本来自分が迎える側なので、おもてなしをせねばならなかったのだが、新たな毒抜き料理を作ってる間に、それはもう、本場の人としか言えない手捌きでお茶を用意してもらい、試食ついでにちょっと話をする事になったって感じ。
「あっ、いえ王凡師姉と言えば丹薬の内門弟子ですし、自分の様な雑役弟子とは到底面識などある筈もなく」
「そうでしたか!もし、よろしければ一度会ってみてはいかがです?我が家と百様の関係を説明すれば、姉も快く応じると思いますが?」
うん、随分とぐいぐい来るんだよなこの王名月はさ。一応は内門弟子だぞ?姉に遠慮とかないのか?
「はっはっは!御冗談を!内門弟子になるなど到底簡単な事ではないのに、このような農しか取り柄のない雑役弟子にかかずらっている暇などございますまい」
「いえ!そのような事はございません!百様は今でこそ雑役弟子の身分でございますが、そう遠くない内に出世なさるでしょう。姉はどうしても控えめな性格ゆえに、私共が後押しせねば中々動こうとはしないのです」
まぁ、確かに王凡お姉さんは控えめで地味で優しいお姉さんだし、出来れば幸せになってほしいとは思うが、果たして家族ぐるみで何かと世話を焼く事が、本当に幸せにつながるのか?
「ふむ、しかし家族の意向で好きに動かせるほど内門弟子の地位は軽くないと思うのですが?」
「風塵宗のお弟子であらせられる百様には姉が軽く扱われているようで、不快に感じたかもしれないのですが、我が家族は姉をぞんざいに扱うような事はしておりません。寧ろ我が家ではそうそうに現れる事のない才覚の持ち主故に、王凡と名付けられているのですから、それこそ我が家の命運をかけて後押しをしております」
「え?凡って普通って意味じゃ?」
「その通りでございます。到底普通の域では収まらぬ大器故に両親が凡と名付けてございます。しかしその折角の才に似合わぬ消極的な性格でございますれば、家族ともども私も心を砕いているのでございます」
なるほどね~……何となくこっちの王名月が華やかだったから、もしかして虐められたかなんかで風塵宗に預けられたのかと思いきや、寧ろ才能あり過ぎて預けられたパターンだったのか。
まぁ、そうじゃなきゃあの控えめな性格で内門弟子なんかにはなってないのか。
今こうして雑役弟子の身分でちゃんと生活してみると、その身分差がよく分かる。
「実を言うと、面識がある訳じゃないんだけど王凡師姉の人柄には以前から敬意を抱いていてさ。世の中何かと自分の手柄を言い立てて、自分の凄さをアピールするけど、そんな事をせずともきちんと実力を示されるその姿を尊敬しているとでも言うか」
「そうでしたか!やはり大賢は賢者を知ると言うことでしょう!これは尚更面会を進めなければなりませんね!ええ、やはり百様の様な将来有望なお弟子様が姉の陣営についてくだされば、それはもう家族一同心強くございますし、そもそも百様の常に余裕があり、どこかすべてを見通す姿勢はいずれ大修士となる方の相であると私は確信しておりますれば!」
随分と高く見積もられているようだが、それはそれでちょっとこの潜伏生活には困った事かもしれない。
「お話はありがたいのですが、自分としては一旦地に足をつけ、自分に何が出来て何が出来ないのかを見つめ直す時間が必要なものですから、あまり性急に事を進めないで頂ける方が助かります」
「なんと、慎み深く遠慮深い修士様でしょうか、尚更姉とは気が合いそうでございますのに、いつでも姉との面会は私が請け負いますので、遠慮せずに仰ってくださいませ」
ふむ、どうやら王家は随分と自分を高く見積もてるんだな。それとも何か裏があるのか?
……考えた所で何も思いつかないので、ちょっと話題を変えて情報収集を試みる。
「そう言えば、井兄から聞いたんですけども、この宗に子供がいて、羊雲城と揉め事を起こしたとか?」
「白小青でございますね」
話を向けると、声のトーンを一段下げて返答してきた。
「そうそう、白師弟といいましたか。何でも行方不明であるとか」
「羊雲城では各家、各店に通達がなされて、もし見かければ一切手を出さずに、速やかに通報する事となっております」
「まるで罪人のような扱いですが、理由は分かっているのですか?」
「それが、表ざたにはなっていないのですけれども、我が家の独自の情報ルートによると、白という子供が羊雲城城主直属の護衛を不具にしたとかで、捜索中であるとか」
またそれぇ?だから子供の体の自分には無理だっつーの!
「でも、白師弟は子供なのですよね?どうやって護衛を傷つけるというのです?」
「それは私共にも分かりません。しかし城主自慢の護衛の一人である強様が腕一本無くされたのは、既に事実として受け入れられております。鸚鵡緑苑でその日何が起きたのか、それは聖子の秦様と丹薬谷門一番弟子の黄様しか知らぬ事となっております」
「二人だけ?」
「はい、もうお一方、羊雲城次期城主様と婚約関係にある沈様もその場にいたようなのですが、とても大きなショックを受けたとかで、最近ではそのお姿を確認されたという話も聞きません」
あの一件が、沈紅羽を少し大人しくしたのならそれはそれで、世の中にとっていい事なのだろうが、自分があのやたら怖い顔の護衛を不具にしたとか言う噂は何とか訂正したい。




