64.風刃
「はい!どいてどいて~」
そう言って、自分の畑で作業している雑役弟子達を一旦どかす。
一見すると調子こきな自分が勝手な指示を出しているように見えるかもしれないがそういう事ではない。
自分が術の実験をしたいので、ちょっと時間が欲しいというのは井兄が既に皆に伝えてくれてるので、要は野次馬が集まってきたのをちょっと離れてもらっただけって訳。
目の前にはやたら大きく成長した空心菜の畝が一直線に伸び、几帳面な兄弟弟子が作ってくれた畑だと一目で分かる。
「ね、ねぇ?何かまずい事したかな?百弟の畑は特に丹精込めて手入れしてると思うんだけど」
うん、ご本人様登場だ。かなり腰の低い人物の様だけど、そんなビビるなよ。
「いや、寧ろ素晴らしいとしか言いようがないから、ここに決めたんですよ。こんなに真っ直ぐ美しい畝を作れるなんて、兄貴の名前教えてくださいよ」
「え?ええ!あの我は薄小福です。小さい福を重ねて大きな福なる様にって!」
何とも薄幸そうな青年だが、頑張ってほしいね。それとなくさりげなく応援するからさ。
おもむろに一枚の風符を取り出し、神経を集中させる。
まぁ、集中せずとも思う現象は起こせると思うんだけども、加減がきかなかったり、他に犠牲を出したりしたくないので、符を人差し指と中指で挟んで眉間に持って行き、ゆっくりと呼吸を整えていく。
風符+【錬器】刃=風刃
頭の中で構築した謎の術式を展開していくと、目には見えないが自分の眼前にエネルギーが溜まるのを感じ、特に意識するでもなく立てた人差し指と中指を振るう。
一陣の風が巻き上げられ、周囲の土がめくれる。
そして、狙った空心菜の畝にとどまらず、周囲の畝の野菜が巻き上げられていく。
どの野菜も綺麗に根と葉を分かたれ飛んでいく姿は、野菜の雨のよう。
そんなアホな事を考えていると、兄弟弟子達は一斉にどこから出したのやら竹かごを担いで、どんどん野菜を拾っていく。
「はいはいはい!皆さん!これは簿兄の作物なので焦らないでね!他の兄貴達の畑も見て回るから!」
このままだと、幸薄そうな簿兄の作物がみんな持ってかれそうだったので、ちょっと声を掛ける。
「おい!でもこの畑は元々百弟の物だ!俺達がどうしようと……」
「ああ?餓鬼が?お前言って良い事と悪い事があるぞコラ?」
何かクレームが入るかと思ったら、速攻井兄のメンチが入るの何なのコレ??
「いや、でも井兄ぃ……百弟の畑については百弟の利益を害さない限り自由だって……」
「ああん?お前、何も聞いてなかったのか?百弟が簿弟の畝の作り方に関心して、今回の収穫の術を見せたんだよな?じゃあ、そこにお前が利益を得る理由がどこにある?」
「ま、まぁそうなんすけどぉ」
何かいきった兄弟弟子が一瞬で黙る井兄ってどんな立場なんよ。
「はいはいはい!こんな感じで、自分は皆の収穫を助けられるから、どんどん声かけてよ。そうすれば農を中心にやってる兄弟達も助かるし、宗の発展の為だからさ」
後半は正直適当だが、でも農産物が近隣の羊雲城に売れるんだから、そう間違ってはいないよね?
そう言うと、次から次へと自分も俺もと雑用弟子たちが押し掛けてくるも、井兄が綺麗にまとめ上げていく。
日頃自分の畑を世話してくれている人を優先に、順番を決めて畑を巡り、風刃収穫を続けていく。
勿論、土の中に実る様な野菜には全く効果はないのだが、それでも自分は引っ張りだこで、連日あっちこっちと引き回された。
「悪いな百弟、いつもあっちだこっちだと畑連れまわしてさ」
「別に気にしてないよ。風刃を使いこなして、綺麗な野菜収穫するのも修行の内だし」
「そうは言うけど、誰だって、例え仙人を目指す者だって、結局どこか俗世の感覚は消えない。一度他人を軽んじたり、それが当たり前だと思うと、平然と正論の如く要求をしてくるだろう」
確かにそれは、前の世界でずっと感じてきた事だ。はい分かりましたは、常に相手が正しいとは限らない。やむを得ない事情を汲んでこちらが譲歩したのに、当たり前の様にどんな状況でも要求される覚えはない。
反発するべきは反発する。
例え正論を言ったって正論で返されるだけ、所詮正論は綺麗ごとでしかなく、その場にいる人にとっては、そんなもの一µも役に立たない。
「もし、なんですけど過剰な要求をされて、それを反発したい時はどうしますか?」
「そりゃあ、黙って受け入れるか、頭を下げて、それは無理ですって泣き続けるしかないだろうな。でもよ百弟は違うんじゃないか?」
何が違うというのだろうか?結局会社にとらわれ、ああだから仕方ないとか、こうだから仕方ないとか、言い訳を続けてきた自分に何ができるのか?
「いや、自分もどうしたらいいか分からないから聞いてるんですよ」
「そんなもん、力をつけるしかないだろうが!結局この世は運と力だ。百弟にはどっちもある!それは俺みたいな者でも分るよ」
一体が分かるというのか、マジで寄る辺の一つもない子供が、大人のふりして畑を耕しているだけだというのに。




