63.錬器だとさ
王名月は本当にやり手の商人らしく、必要な物を数日中に集めて納めてくれた。
こうなると、何か恩返しと言えば大仰な言い方になるが、何がしか返さねば逆に後々こちらが恩を背負う事になるんじゃないかと不安になると、いつも通り安定のシステムが向こうからちゃんと対処法を教えてくれる。
〔要はあの王の商人が欲してるのは食の可能性な訳だ。それなら毒食材の無毒化について知識をお前は既に持ってるぞ〕
なんとも世知に長けたというか、あらゆる状況に対応してくれるシステムだ。
確かに毒食材を眺めて脳内の知識を漁れば、何がしかの香草と煮れば無毒化するとか、毒と毒を中和させる事で、寧ろ修行が進むだとか、ジャンジャン知識が溢れてきて頭が痛くなってきた。
一先ず例の芋だ。
あの芋を無毒化するには水に晒して毒を抜く訳だが、それをすると旨味が抜けていくのが弱点だった。
その点を補完する為に、抜いた毒と旨味の内、毒だけをを無力化して、旨味と乾燥した芋の粉を合わせて、一つの料理にする方法を試してみた。
うん、蒟蒻なんだけども。
どう見ても蒟蒻だけど、少なくとも風塵宗じゃ見た事無かったので、王名月に教えた所大層驚いた様子だった。
「な、あの毒芋がこのような形になって食べれるとは!それでこの奇怪なプルプルをどうやって食すのですか?」
「え?まぁ蒟蒻だし、鷹の爪と醤油で炒めてもいいし、煮物にしてもいいし、とりあえず毒は無いんだから色々試せば?」
「そうですね!早速私の飯店の料理人達に色々試作させてみますわ!」
そう言うなり、あっという間に帰ってしまった王名月。
まぁ、別にいいかと符を書いたり、錬丹炉で丹薬を作ったり、適当な毒食物を食べたりしていたら、また修為が上がった。
「ねぇ?早くない?」
〔仕方がない。お前は隠れ家で花から十分な霊気を吸収し、毒を食べて体を強くし、あらゆる修行に手を抜かない。そして極めつけは前世で得たお前の悟りだ。それらのバランスが取れる度、お前の修為はどんどん上がっていく〕
「よく分かんないんだけども、とりあえず、どうするよ?」
〔今の候補は【大工術】か【錬器術】になるんだが、いずれにしても、お前は必要な道具や材料を得られないだろう故に、比較的小規模な【錬器術】にしておこうか〕
言うなり、頭に電撃が走る感覚に体がビリビリと反応するが、随分と慣れたものだ。
記憶を辿ると、どうやら【錬器術】と言うのは武器やら道具やらを作り出す物らしい。
しかし、同時に錬丹炉とは比べ物にならない武骨な炉や砧と槌に、鋳型なんかも必要になる。
正直今の貧相な隠れ家にはちょっと嵩張るし、設置にも色々制約が付きそうだ。
「うううううん……」
思わず呻きながら、記憶を辿り【錬器術】の記憶を辿り続ける。
〔別に無理しなくても、使える物を使えばいい。そしてお前の道を見つける参考にすればいいんだ〕
急に優しくなるシステムだが、自分はその時、別の事を考えていた。
これまで使う機会のなかった金符を指輪から取り出し、針をイメージして錬器を始める。
すると、手の中には数十本の針が生み出された。
「例えばこれ使って【医術】と組み合わせて針治療とか出来るの?」
〔また無駄に器用なことしやがって、出来るだろう〕
家の外に出て、誰かいないか探すとちょうど腰痛もちの雑役弟子がいたので、笑顔で手招きする。
「な、なんだよ!」
急な手招きに不穏な気配を感じたのだろうか?いつもよりちょっとつっけんどんな感じだが、自分が仮診療所にしてる家のベッドを指すと黙ってうつぶせになって寝ころんだ。
そして、服を剝いで腰を露出させるもそれはいつもの光景なので、
「次の診療は三日後の筈なのに、何だって言うんだ?」
当たり前の疑問をぶつけてきたが、特に何も言わず、腰に針を刺してみた。
いや、あの無責任なあれじゃないよ?システムから貰った【医術】の記憶に従い、この腰痛もちの雑役弟子に一番効くツボ?とでもいうのかここって場所に針をぶっ刺しただけだ。
思ったより腰痛もちの雑役弟子は反応せずに、うつぶせになったままなのだが、ある程度時間が経って針を引き抜いてみる。
「どんな感じ?」
「え?どうって?」
そう言いながら腰痛持ちの雑役弟子が、少し腰をまわす動作をする。
「あんまり変わんない?」
「いや…………!!!これは!」
それだけ言うなり立ち去った雑役弟子だが、果たして針治療は効いたのやら効いてないのやら、実験結果を見る間もなく、手の中にあった針が勝手に消えた。
「どういう事だ?」
〔そのままさ。符で作った物はいずれ消える。無限に使える訳じゃない〕
まぁ、そりゃあそうか。
要は使い捨てのインスタント武器を手に入れたようなものだし、文句を言うのもお門違いだろう。
そして、今ただの針が武器になるのか?とか思ったのなら、簡単な話、つぼや経絡ってやつに針を刺されれば、大抵の人間は麻痺して動かなくなったり、最悪死に至ると自分の記憶は語る。
それでも自分はあっさりと他人を救い治療してしまう。
〔お前は今何をしたか分かってるか?〕
そりゃ、腰痛を直したに決まってるじゃん?
〔それはその通りだ。しかしそれはお前が人体の気の導通を理解したということに他ならない〕
だったらなんだってのさ?
〔ふむ、結局のところ、人を救うも害するもそう遠くない話だし、お前はそれにすぐ気がつくよ〕
何やら意味深な事を言われるが、何で自分が人を害するなど?




