62.羊雲城との交渉
のんびりと野菜やなんかに霊水をやり、後はやる事も無く空を流れる雲を眺めていたある日の事、王名月が訪ねてきた。
というのも、ここの所自分の畑の野菜類や貰い物の肉類の販売がかなり安定してきたので、王名月の店も代理人だけを寄越すようになっていた。
別にそれについて文句があるとか、不満があるとか、そういう事ではないのだが、買い物の不便さを解決する為に羊雲城との取引をする上で、どうしたらいいかと代理の者に尋ねたら、早々に王名月自身がやって来たという形だ。
「お久しぶりですね百様、なんでも羊雲城との取引をお望みとか?」
来て早々、本題に入るスタイルだが、そう悪い気はしない。寧ろ面倒がなくてかなり楽だ。
「わざわざお越しいただいて申し訳ない。実は色々と欲しい物があるのですが、雑役弟子という立場では中々手に入れにくい物もございまして」
「そうでございましょう。百様は既に雑役弟子の枠を大きく超えた修士様とお見受けしますのに、このような質素な暮らしをされているのは、きっとそれだけ修士としての才能高く、淡泊なご気質なのでしょう。とはいえ、修行に必要な物が手に入らねば、それはご不便でございましょう?何なりとお申し付けくださいませ」
何とも人当たりよく、腰も低い商売人だ。まじで気を付けてかからんと、なんかちょっと怖くなってきた。
いやだって、言うて自分はまだ錬気6級の底辺なんだから、こんなに気を遣うのっておかしくない?
まぁ、本当に底辺なのかはよく分かんないけども、少なくとも秦師姉は築基とか言う上の段階な訳だし、錬気6級て多分まだ低いよな?
「ええっと、それでは遠慮なく今必要な物を言わせていただきますと、先ずは符術用の黄符なんですけど……」
「黄符でございますか!まさか百様は【符術】までこなされると?あの【農術】だけでもお見事でございますのに!」
いきなり、ぐいぐい顔が近づいてくるんだけど?何か怖い。
「ああ、うん、その何?【農術】を補完する木符の作り方だけ先祖伝来されてて」
「ああ!左様でございましたか!【農術】の補助として必要なのですね?それでございましたら、我々の用意できる筋の確かな黄符をご用意させていただきますけれども、いかほど必要でございますか?」
「じゃあ、金の葉20枚分?」
「そんなにでございますか!分かりました!私の全ての指をかけましてもかき集めて御覧に入れますわ!」
うん、何だろうか、表現が妙に激しくて怖い。って言うか指はいらん。
「後、丹薬に必要な生薬類が欲しいんですけども」
「それでございましたら、宗内の方に多くの取引があるのでは?」
「いえ、雑用弟子がうろつくにはちょっと不便がありまして」
「それは確かにそうでございますね。それではどういった品々を必要とされて?」
王名月の質問に今必要な丹薬の材料とお金を合わせて渡す。
「こんな感じなんですけど、手に入りますかね?」
「これらは、二品丹薬の材料ではございませんか?」
「そうですけど?」
「ふぅぅぅぅ……分かりました。この事は私の胸に留め、人目につかぬよう手配させていただきます」
「え?何で?」
「それはそうでございましょう!雑用弟子であらせられる百様がまさか二品丹薬の錬成を可能などと誰が思いますか?いえ!誰も思いますまい!どこの有名宗派であろうとも二品が作れれば、才能ありと認めて相応の待遇をする筈です!一体百様は何を隠していらっしゃるのですか?いえ!お話には及びません!余計な事を聞かぬのも、処世術でございますれば!」
なにやら、何かどうも御大層な想像をしているらしいが、二品薬ってそんななのか?
「最後に毒が欲しいんだけど手に入りますかね?」
自分の言葉にただでさえ色白の王名月の顔が蒼白と言っていいほどに、真っ青になっていく。
「私に何をさせようというのですか?」
その様子に流石に毒が欲しいというのはまずかったかと、ちょっと焦りなんとか言い訳をひねり出す。
「いえ、ただ研究の為に必要なだけです。別に即死するような猛毒の必要はなくて、ちょっとした食物に含まれる毒で十分です。毒を持って毒を制すというか、そんな感じの」
「左様ですか!本当にどなたかを亡き者にするとかそういう事では?」
「いえ、全くそんな予定はないです。毒というより毒を含む食物に興味があるみたいな?」
「確かに噂に聞いた事があります。毒を含む食べ物程、滋養強壮によく効くと、なるほど百様はただの【農術】で終わらず、食全般に対する修行の可能性を見ていると?」
「そんな所ですかね?まぁただ食べるだけで修業が進めば苦労はないのかもしれませんけど、はっはっは!」
適当なテンションで誤魔化してみたけどどうだろうか?
「私、とても興味がございます!羊雲城で飯店を経営する者として、食による修行が可能であるならば、それを提供する事で得られる利益もどれほどになるか!」
「確かに百弟は【厨術】も達者だし、いずれ食でこの世界を変えるのかもなぁ」
うん、一番面倒なタイミングで井兄が現れ、王名月の目がギラリと輝く。
「百様は【厨術】も達者でございましたか!ふふふふふふふふふふふふふ、まだ問いたい事はごまんとございますが、一旦百様のご要望の品揃えてまいりますので、お話はその時にでも?」
何か嫌な笑い声と共に、立ち去る王名月を見送り、また王師姉との関係を聞くの忘れた。




