60.肉食いながら現状把握
ある昼下がりの事、自分【医術】を頼ってくる人もまばらになってきたので、いつもお世話になってる井兄を招いて昼食をとる事にする。
「悪いな百弟!飯奢って貰うなんて!」
「いや、いつも世話になってるからさ。偶には一緒に食べてもいいじゃん」
そう言って、用意するのはジンギスカンだ。
まぁ、あの北海道とかで使ってそうな専用鍋?みたいなのは無いので、普通に羊肉と自分の畑で採れた野菜をそれはもう、適当に焼いていくだけの料理とも呼べない何かを作っていく。
焼けたそばから、適当に井兄の皿に移していき、ジンギスカンのタレの代わりに、塩と香辛料で適当に味付けしているが、そこは修仙界クオリティで、何となくでそれなりの味に落ち着く。
何か、ジンギスカンというよりモンゴル料理に似ているような気もするが、生憎適当な料理名が思いつかないので、羊肉の香辛料炒めとでも言っておこうか。
「うめーなーーー!!!やっぱり、百弟の野菜食った羊は味が違うな!何て言うか臭みがない!」
井兄からの評価は上々だ。
井兄がちらっと言っていたが、今食べているのは自分が作った野菜を食べた羊の肉である。
何でも最近自分が作った野菜を食べた羊達の生育が異常な程良いらしく、牧畜をしている雑役弟子達から、羊を度々おすそ分けを貰っているものの、消費速度が追い付いていないのだ。
基本的に井兄を通して羊が贈られてくるので、他の兄弟たちにも分けておいて欲しいとは、言っているものの、我が家にはどんどん肉が積みあがっていく。
それを更に王名月に売れば、更に金儲けできるという訳だ。
「まぁ、どんどん食べてよ。余り過ぎて困ってるんだから」
そういいつつ、焼けた羊肉と野菜をどんどん井兄の皿へと盛って行く。
「いやぁ、百弟は【厨術】も達者なんだなぁ。ホントにそう遠くない内に外門弟子になっちまうんじゃないか?」
「どうだろう?自分が出来る事なんて限りがあるし」
「そうは言うがなぁ、百弟の畑あるだろ?アレを見て既に長老達が動いてるって知ってるか?」
「いや、知らないけど、長老達が何だっての?」
「何言ってんだぁ!あんな森みたいな畑は誰だって金儲けのチャンスだって思うだろうが!はじめはあっちからもこっちからも、あの畑寄越せって五月蠅かったんだから!」
「でも、渡さなかったんだ?」
「そりゃあ、百弟が自分でいじった畑だもの!勝手に渡せるわけねぇじゃない!だから根こそぎやって更地にするより、百弟に任せておいた方がずっと稼げるって説得した訳よ」
何となく田舎っぽい井兄だけど、他人を説得するだけの弁舌はあったのかと、ちょっと感心する。
「でもそれだとまだ、自分の畑狙ってる人いそうだけど?」
「そこでさ!百弟が皆の体の不調診てやったろ?アレで恩に感じてる奴も多い訳よ。何しろ俺達はみーんな金がない!だから体が痛くても寝て治すしかない!でも体が痛くてそもそも眠れないってな!はっはっは!」
何が楽しいんだか、自分が言った事にウケる井兄だが、道理でここの所自分の家に行列ができるわけだ。
「じゃあ、とりあえず恩を売って一旦、畑を狙う人たちは息を潜めたんだ」
「そんな所だなぁ。この状況で百弟に不利になる事でもしたら、他の雑役弟子達からどんな扱い受けるかもわからんし、あのいっつも腰が痛いって言ってる奴いるだろ?あれも一応は畑やってる班長だから、下の者がわがまま言う用ならぶん殴ってるわ」
うん、一応補足はするがこの世界は前の世界と違う。前の世界じゃ何か理由があったとしても暴力や体罰はタブーだったろうが、この世界では普通に暴力で奪い取るがまかり通るので要注意だ。
さて、そろそろ井兄を呼んだ本題に入ろう。っていても大したことじゃない。普通の情報収集だ。
「ところでさ?この辺で買い物できる場所ってない?」
急な話題転換だが、これ結構重要。
「なんでだ?任務堂で買ったんじゃ駄目なのか?」
ええっと、任務堂ってのは顧長老が仕切ってるあの雑役弟子達に仕事を割り振るあの建物だ。
そして自分の畑の種やら苗なんかは任務堂の売店で買って来た物ではあるのだが、正直な所品揃えが不満である。
これまで、蔵書閣や鸚鵡緑外苑で好きなだけ買い物出来ていた事がどれだけ幸せだったか。
それもこれも秦師姉及び黄師姉の後ろ盾があってこそだ。
今更の話、雑役弟子が外門をくぐるだけでも犯罪者が入ってきたとばかりの監視の目に晒されることになる。
それこそ上からの指示でやむなく通る場合以外は、自主的に入り込んだら何があっても補償しないぞ?みたいな空気がある。
つまり自分が好き放題行き来できたのは、どう考えても秦師姉と黄師姉の後ろ盾のお陰だ。
しかし、今の自分はその二人から逃げ出した。
文句を言えばキリは無いが、羊雲城の護衛の件とその後の黄師姉や秦師姉のやりとり。
正直に冷静になってみて大人の感覚で考えれば正しいのは黄師姉だろう。
何て言うか古代中国の文化を引き継いでいる人たちが身の回りに多いせいか、多分、自分の様な目上の言う事を聞かない者は異端者にも映るのだろう。
それにも関わらず、どこの誰とも分からない子供である自分を売る事を良しとしなかった秦師姉にも恩がある。
まぁ、ね。今すぐにとは言えないけどいずれ恩返ししなきゃいけないね。
「成る程な。任務堂じゃ足りんのか。そうは言っても精々が芋売りの婆さんが尋ねてくるくらいだしなこの辺は……もしどうしても必要ならあの羊雲城の嬢ちゃんにでも頼めばいいんじゃないか?」
自分が考え込んでいるのを井兄が勝手に深読みして、答えを出してくれた。
「王名月に欲しい物を言えば、手に入るって事?」
「そりゃ、上手くいけばな?向こうは随分と百弟の事を気にかけているようだし、ちょっと話してみたらどうだ?」
ふむ、それは確かにありかもしれない。羊雲城にどれだけ自分の必要としているものがあるのかは分からんけども。




