59.目立つべきじゃない
「はーーい並んで並んでー!こら!そこのお前列乱すなってのが、分かんねぇのか!」
井兄が、のんびり列を作ったり急にキレたり大忙しの最中、自分も困ったことになっている。
雑役弟子が、自分の家の前に行列をなしているからだ。
理由は本当に単純で、自分が【医術】を使えるようになってしまったから、それだけ。
【医術】つっても、所謂鍼灸みたいな物だし今の所針もお灸も無いんだから、まぁよく言えば整体?もしくは按摩程度の事なんだけど、それでも日々肉体を酷使している雑役弟子達は、そう安くない値段でも列をなして自分の診察を受けに来る。
「うぅぅぅ痛ぇててててて!!ぎぃやぁぁぁぁぁあ」
「はいはい、痛いほど効くんだから我慢してね~」
今は自分の同僚で農場を任されてる雑役弟子を診ているのだが、どうにも慢性腰痛なので、治している所だ。
「ふっふひぃ……」
「うん、これで腰のつかえはなくなった筈だから、また元気に働こうね」
自分がそう言うと、銀の葉を置いて、立ち去った。
そんなに痛いなら、自分以外に頼めばいいのに、数日後にはまた現れるんだから、どうにもならん。
そんな事を考えていると、次に現れたのは随分と身なりのいいお嬢さんだ。
いや、前の世界の中年おっさんからみたらお嬢さんではあるものの、子供の自分から見れば、まぁ大人ではある。20歳は越えるが年増という程ではないって感じ?
「はじめまして、王名月と申します。百様で間違いございませんか?」
う~~ん、多分この人あれか?宗の人じゃないよな?修行者ってよりかはお金持ちの商人の娘って感じだもんな?
「百木青と申します。はじめまして。それで今日はどういったご用向きで?」
「はい実は私、羊雲城で饭店の経営を任されております」
うん、なんかやたら複雑な発音が聞こえたけど、要は飯店だと思われる。日本語にしちゃうとちょっと俗な感じだけど、ニュアンスからして少し高級目のレストランの事だろう。
「ああ、ええっとじゃあ、自分の【医術】の話じゃないですよね?」
「はい、邪魔をしてしまい大変申し訳ないのですが、他に百様と話す方法が無かったもので」
成程ね!ちゃんと下手に出られる商人さんだけど、何だかんだやり手な訳だ。
「申し訳ない。自分としても何でこんなことになったか分からない状況でして」
「そうでしたか!確かにここ最近で急に盛名を伺う様になったもので、家族でも早く一度お目にかかるべきと、私が派遣された次第です」
「飯店で?」
「はい、最近風塵宗から羊雲城に卸される菜の中でも一際目立ち、霊力の含有量の多い物を作られる方が現れたと、きっと余程の【農術】使いが風塵宗に弟子入りしたのではないかと、今羊雲城では噂になっております」
ああ、あの勝手に森化した自分の畑ね?あれ適当に何日かに一回、霊水撒けばいくらでも野菜が取れる上に、森に集めてって頼めば勝手に必要な物を山と集めてくれるし、井兄に頼めば勝手に人手を集めて持って行ってくれるんだよな。
何なら今や5ヘクタール位自分の土地だし、そこで採れる野菜類が自分の家からはみ出しまくって、欲しい人は勝手に持って行って状態なんだけども。
今も、自分が10年借りた隠れ家から溢れた大量の野菜を勝手に持っていく人がいるけども、別に食い切れないしかまわない。
「それで、自分に何の用?」
「是非、私の飯店でこちらの野菜を購入させていただけませんか?」
「いいよ。溢れてるやつ好きなだけ持って行って」
自分がそう言うと、目が点になる程大きく見開き、わなわなと震えながら、言葉を発するお嬢さん。
「何を仰いますか!この一級品の野菜を好きなだけとは!本当に好きなだけ持って行きますよ?!」
「うん、別にかまわないって、さっきから皆が勝手に持って行ってるじゃん」
それを聞いたお姉さんは、パッと家の外に出て、何やら確認したかと思うと、どこから現れたやら屈強な男達に、家から溢れた野菜を運ばせていく。
「ありがとうございます。それではお代はいかほどでございましょう?」
「常識の範疇で、適当にお願いします」
自分が、そう言うと陽符で作った自分の顔の小さな目をじっと見つめてきて、言い返してくる。
「何とも百様は読めない方でいらっしゃる。いくらでもいいと言わんばかりの表情の反面、本当に投げやりな事をすれば、あっさりと私を切るという選択肢、すなわち適当とは、双方が納得できる十分な金額である上で、私を試されているという事でしょう?」
そうと言えば、そうだし、そうじゃないと言えば、そんな事もない。
何しろ野菜の値段なんて自分知らないし、何なら毒食った方が修行進むし、毒食ってもただ美味しいだけだしって言うね。
とはいえだ。この世界なめられたら終りって言うのも重々承知している。
ここで、生半可な事を言えば、そのまま軽んじられて不利を押し付けられ、反抗すれば頭ごなしに押さえつけられるに違いない。
相手が自分の事を不敵に不気味に思うなら、もっと思わせてやればいい。
「自分は言ったよ?適当でいいってさ。銀の葉一枚だってならそれでもいい。その代わり今後の事はよく考えてね?」
自分がそう言うと、金の葉を10枚ほど置いて、さっさと出て行く王名月さん。苗字が一緒なので王師姉と何か関係あるのかと聞きたかったのだが、それはまた今度だな。




