58.百木青始動
「んんんんんなんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!!!!」
と、まぁ一叫びから始まる自分のセカンド……もといサードライフは、風塵宗の畑から始まる。
黄師姉、秦師姉には申し訳ないが、噂が広がる前に雑役弟子の仕事を受け付けている顧長老の元へと行き、急遽仕事を中断して羊雲城に行く事になったとだけ伝えて、日当分のポイントだけ得て、風塵宗を出て行くふりをした。
その後、陽符を使用して、自分の姿と牌を操作した結果、それはもう地味な青年百木青として過ごす事になり、今に至る。
まず、超地味な青年になった理由だが、これはもう陽符の限界というか、自分の想像力の限界というか、出来るだけリアルな人物を思い描いた結果こうなったとしか言えない。
術ってほら、何か本人のイメージ次第みたいなところあるじゃん?頑張ったのよ?でも時間もない中で頑張りつくした結果、目も鼻も口もやたら小さいのっぺりした若い男にしかならなかったのよ。
多分あらゆる造形に対して、自分が自信の無かった事が影響してると思う。
そして、牌の偽装についてだが、これも自分の修行が足りない所為だろう。元の白小青を消す事が出来ずに、無理やり偽装した結果、百木青と名乗る事になった。
ただ、百と言うのはそれはもう珍しいというか、そんな苗字存在しないんじゃない?レベルの珍しい苗字だったのだが、システムがそれじゃあ、百薬師と縁のある家系とか言っとけ、とアドバイスをくれたお陰で、百薬師と縁のある丹薬士の家系で家伝の丹薬秘術復興の為に修行に来ているというストーリーラインが形成されてしまった。
そんなこんな、自分の中ではそれはもう追い詰められ放題で、冷や汗ものだったのだが、周囲的には割とあっさりと雑役弟子を一人迎えて、雑務の中でも最も儲からない農業従事者として割り振るのに成功した訳だ。
個人的にはこれはもう好待遇そのもの!何しろ自分は【農術】を使えるし、農業従事者は得られるポイントこそ低いものの、自分で育てた作物の一部を持って帰れるのだ。
それこそ四公六民位の割合で持って帰って、自分の伝手で売り捌くなり、食べるなり自由って話。
早速自分の持ってる骨紛と竜糞を使い土壌改良して、銀葉を使ってうっすら赤く色づいた霊水を使用し、農業するに十分な土壌を作って、自分に任せられた区域を改造していく。
それはもう、サッカーコート一面分を越える広さ。所謂1haの聖域の如く、好きなだけ使える土地を使って、ネギやら韮やら芋類やら、葉野菜やら、虫が付かぬよう匂いの強いニンニク的なものまで、適当に植えまくった。
種やら球根やらはポイントで買い漁ったが、別に咎められることも無かったので、片っ端から買い取って植えた。
結果、自分が借りた区域は森となり、他の雑役弟子が驚いてこちらに向かって来るほどの叫び声となってしまった。
「ど、どうしたってんだ百弟!」
すぐに駆けつけてくれたのは、井兄こと風塵宗の農業弟子の面倒を見てくれるやたら人のいい雰囲気の色黒のお兄さんだ。
「見てくれよ井兄!自分が借りた畑が森になっちゃったんだよ!」
「だーーーから言ったんだーーー!何か家伝の物だからって骨やら糞やら撒いて!霊力を含む土地ってのはそういうのに敏感なんだから加減しろって言ったろうが!」
確かにそんな事も言われていた気がするが、それこそ内門で花を育てた経験から、そこまで霊力の含まない外門の農場でこんな事になるとは思わないじゃない。
それでも、致し方なく森に入ると、何故だろうか?とても優しい雰囲気を感じる?
さわさわと波立つ植物達が、まるで自分に話しかけているようにすら思えてくる。
「あのー……ある程度でいいので、作物を分けて貰えませんかね?」
何でだろうか?森に意思でもあるかのように感じて、頼んでみる事にした。
すると、自分の目の前に山と積まれていく葉っぱは韮だろうか?他にも根野菜やら実になる野菜やら、自分が植えた覚えのない物までどんどんと積みあがっていく。
気が付いた時には、到底自分の指輪には収まらない量の野菜が積みおかれ、ただただその意味の分からない山を見上げるほかなかった。
「どうしよう……」
思わずつぶやくと、井兄が
「任せとけぇ!」
と言って、走り出す。
何が何だか分からぬ内に、まだ名前もろくに覚えていない兄弟弟子たちが現れて、山と積まれた野菜をリアカーに積んで持ち出していく。
とてもすっきりした森の中、まるで我が家の様な落ち着きを感じる。
木を植えた記憶はないのに、何故かそこらに生えている松の根元に腰かけて、両手を組んで頭の後ろに置きつつ、だらっと座り込む。
ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと息を吐くと、何故だろうか?頭が妙にはっきりとして世界の理を思う。
そう、世界は常に自分にあらゆるものを与えているという事をそしていつも自分が一喜一憂するのは世界が与えてくれるものとは別の、人間的なとても矮小でどうでもいい物だという事を……。
「嗚呼、もうどうでもいい、くだらない」
何ともなく口に出すと、フワッと臍の下から力が湧き出て、今の自分を肯定してくれる。
〔どうやら練気6級に至った様だな〕
それじゃあどうするの?【錬器術】それとも【大工術】をくれるの?
〔どちらも悪くないが、この際【医術】などどうだ?〕
【医術】ってじぶんは医者でもなんでもないんだから、そんなもの得てどうするのよ?
〔どう使うかはお前次第だ。ただ丹薬を上手く使いたいなら、捨て置けないだろう?〕
困ったものだが、それでもシステムは自分に不利な事をしないという前提を受け入れなきゃ、自分の修仙世界人生はすぐ終わっちゃうんじゃないかと、不安がよぎる。




