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55.満たされて流されていく

 何だろうか?順風満帆という言葉の如く、世界はうまく流れていく。


想定より修行は良く進み、食べる物も寝る所にも苦労せず、生活に必要なお金は子供が持つには多すぎる程に溜まっていく。


大量の符箓に大量の丹薬が当面自分の収支と身の安全を支え【農術】と【厨術】が食うに困らぬ生活を支える。


多くの理解者に囲まれて、これと言った人間関係の摩擦からくる苦しみも最低限、それこそ沈紅羽を除けば、無に等しい。


嗚呼……何とも気持ちよく清々しい第二の人生に、一点の曇りを落とす沈紅羽。


考えたくもない面倒くさい小娘に、思考が引かれていくこと自体が何とも不快だ。


〔随分と嫌ってるな。確かに我儘放題だし、いけ好かないのは分かるが、まだそこまで直接的に迷惑をこうむってる訳でもないだろうに〕


でも嫌いなものは嫌いなんだよ。


ふと、思い出す前の世界の記憶。


年齢こそ婆さんと言っていいほどの年齢の癖に、可愛い子ぶりたいのか媚びたいのかわからぬ態度で接し、少しでも自分の思う通りでないと他者の人格を当たり前の様にこき下ろす最悪のクソ婆。


親が会社を興したから社長なだけで、何をできるわけでもないのだが、それでもやれ銀行の支店長だの市議会員だのと関わりがあるとか言うのを吹聴し、自分の会社でコツコツ働いている者を蔑んでいる。


〔社長とかいう、お前の目上に当たる女だろ?確かにお前は心底嫌っていたな〕


何?前の世界の記憶もちゃんとあるの?


〔まぁ、そりゃずっと一緒にいたからな〕


じゃあ、何で話しかけてこなかったのさ?


〔そりゃあお前が悟るかどうか分からなかったからだろ。お前のいた世界でも坊主共は悟りを開こうとしていた様だが、お前は熱心じゃなかった〕


それは確かにその通り、自分から悟りを開こうなんて普通の現代人の感覚じゃあまりなかろう。って待てよ?じゃあ、自分は既に悟りを開いてるって事か?


〔お前の悟りを忘れたのか?〕


悟りって、そんな大層な事、ただの昭和みたいな工場労働者の会社員に何言ってんの?


〔それでもお前は考え続けた筈だ。無駄に無意味に自分の有る理由と、世界の残酷さについてだ〕


確かに世界は残酷だ。こんな事言いたくはないが、自分は所詮社会の犠牲者に過ぎない。ただただ社会と自分の為に身を粉にしてきたはずなのに、何故か若者達からは努力が足りないと言われる。


多分だけど、つまり世の中頭を使った者が評価されるという事だ。


それは別にいい、否定はしない。しかし頭の連中が上に立ったことで、腕の連中は去り、腕と頭のハイブリットがその負担を受けておかしくなっていき、最後には頭の連中と頭も腕も無い連中が残った。


その所為で、簡単に言えば道路が陥没する。車が事故を起こす。世の中に不良品が蔓延して、あちらからもこちらからもクレームが噴出し、誰もかれもが何もかも嫌になっていく。


下らねぇ、下らねぇ、下らねぇ……。


〔じゃあ、殺しちまえよ邪魔で頭の悪い連中をさ〕


それが出来たらどれだけ清々するか。腕を磨いた事を否定して、頭が全てだと言い張るなら、じゃあ、やってみろよ。


頭で何とか出来るならやってみろよ。


腕で支えてるから月一千万で済む所、機械に変えれば初期投資で100億円、ランニングコストで月一億円。それで社会が回るなら勝手にしろよ。


〔お前は上から頭の事だけ要求され続け、腕の連中が辞めていき、何から何まで押し付けられて全てを拒絶した〕


確かに、あの時自分は何をどうしようも無くて神社に行った。


神様に文句を言うのはお門違いだと思っても言わずにはいられなかった。


苦しかった。悲しかった。自分という存在の小ささに絶望した。何も出来ないのに、何のために生まれて何のために生きるのか、そんな言葉が何よりも残酷だった。


〔この世界ならお前はお前の望むように生きていい。全ては力がモノを言う。そしてお前は既に十分な力を持っている〕


まだ練気5級なのに?よくは分からないけど入門も入門だよね?


〔十分だ。十分なんだよ。お前は努力のし過ぎだ。もっと好き放題自由に生きていいんだ。その為に俺がいるし、お前の力がある。だから気に入らないものは全部壊しちまえ、いいから誰も文句言わないから〕


壊せってどうすればいいのさ。一度壊しちゃったら元に戻らないじゃん。だから皆我慢して何とか保とうとするんじゃないの?


〔関係ねぇ関係ねぇんだよ。お前の思う通り、所詮俺達個人は小さな存在だ。それが何をどれだけ大仰な事をしたところでたかが知れてる。だからこそ最大限思い切った世界を生きていいんだ。殺せ、ぶっ殺せ!気に入らないもの全部破壊したところで世界はいつも通り周ってくんだからさ〕


意味が分からない。自分が守ろうとしている秩序、そしてシステムの言う世界の在り方、嚙み合わな過ぎて、もう脳が焼き切れそうだ。


でもさ、今の自分は全部ぶっ壊す気分でいる。


それでいて王お姉さんや、楊師姉の事は何とか蚊帳の外に置きたいと思ってもいる。


あくまで勝手に暴れまわり、誰にも迷惑かけずに幕引きをする方法。


AIに聞く訳にもいかない状況でひたすらシミュレーションを繰り返す。


何となく腹が座ってきた。多分だけど黄師姉に頼るのをやめればすべては解決する気がする。


そう、ぶっ潰せばいい。


沈紅羽と秦師姉の面子をぶっ潰せばそれで全部解決じゃん?


秦師姉はそれこそこの宗に連れて来てくれた恩人だけども、ここで手緩い事をする訳にはいかない。


潰す!潰す!ぶっ潰す!それしか今の自分に生きる道はない。


温く童僕として時間を稼げば?って?それは無理だ。自分は既に神様に喧嘩を売った。


神様は無情だとはっきり突きつけた。


なればこそ今ここにいて、こうして変な争いに巻き込まれている。


じゃあ、あとはぶっ壊すだけだよね。

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