54.プリンでも食べながら
目の前には籠にこんもりと積まれた甘草の山。
まぁ、本当に甘草かどうかは分からないんだけど薬会で買える物だし、正規品の薬草である事は間違いない。
その籠に手を伸ばして真気を送り込み、全体を包み込んでいく。
「よし、こんなもんかな?錬化!」
真気が熱を帯びたかと思うと、甘草の葉や茎が焼け落ち黒い繊維状の物が残る。
更に真気を送り込み続ければ、その繊維状の物も焼け爛れ、液体となって籠の底の方へと溜まっていく。
そのまま、その液体がまとまっていく様をイメージしながら真気を操ると、最後には真っ黒いまん丸の飴玉の様な物が出来た。
手にとって陽に掲げてみると、黒茶色だがちゃんと陽の光は通すようだ。
「また、変な事やってるね」
すぐ近くのテーブルで熱いお茶を啜りながら楊師姉が声を掛けてくる。
「変な事じゃないよ。錬化の実験」
「錬化ねぇ」
「錬化知らないの?」
「知ってるよ!でも私が錬化使うのなんてこの先、宝剣でも手に入れなきゃ機会が無いからさ。そんな幼い内からやっぱり小白は変わってるね」
「ああ、何か前の持ち主の契約かなんか消して、自分と契約し直すみたいなやつだっけ?」
「そうそう!まぁ、私も一剣修としていつかは宝剣との縁もあれば嬉しいねぇ」
何か、何にもない隠れ家の屋根の隅を見上げて物思いに耽っているのだが、どうなの?
「その大事な時の為に練習なり修行なりしとかなきゃいけないんじゃないの?」
「そうは言うけど、普通はまず結界を用意して、その内を浄化するところから始まり、三日三晩の儀式を要するものだってるんだから、小白みたいに真気でちゃちゃっと錬化する修士なんて見た事ないよ」
「そうなの?」
〔お前のは緊急時にも使える物だから、今の内から修行しておいて損はない。この姉さんが言うのはまたちょっと違う契約の儀式の話だ。その方法もいずれ分かるから問題ない〕
システムの言う事の何がどう違うのかもよくは分からないが、とりあえずは慣れとけって事だ。
とりあえず、甘草の他にも適当にいつも使ってる薬草を錬化していき、錬化した薬草の成分とちょっとお高かったが、偶々薬会に出てた質のいい10年霊芝を使って、薬を作る。
今の所、何が欲しいって訳でもなかったので、例の水薬の二品版に挑戦してみる。
って言ってもいつも通り水薬用の容器を載せて、水を入れ、葉っぱを何枚か投げ込み、材料もどんどこ投げ込んで真気を送るだけ。
王お姉さん用の名も無き肌ケア二品薬を作った時は、かなり時間もかかったし真気もめいいっぱい使ったものだが、何か今回は妙に負担が軽い。
〔そりゃそうだ。既に薬効を抽出してるんだから一々取り出す手間も無ければ、何を取り出すか選ぶ必要も無い〕
なるほどね。材料の時点で負担を軽くする事ができるなら、多少手間でもこっちの方が、失敗に繋がらなそうだ。
やっぱり何だかんだ長時間集中して、真気を送り続けるなんて言うのは結構神経に来るし、楽できるならそうしたい。
そんな事を考えている内に出来たと感覚に伝わってきたので、容器を取り上げると、中には青い液体が満ちていた。
蓋をして、ふと楊姉さんの方を見るとこっちをガン見している。
瓶を右に振れば右に顔が動き、左へ振れば左へと顔がつられていく。
「欲しいの?」
「い、いや!そ、それ二品薬だろ?買う余裕なんて無いっての!何言ってんだい小白は!」
「上げようか?」
「キーーーーーー!何言ってんだい小白は!やっぱり子供でも男だったって事!私には道侶がいるんだから、そう簡単に他の男の手になんて……うぅでも『蒼霊水』じゃ、仕方ないのか」
「何が仕方ないのよ。いつも世話になってるし使うんなら上げようか?て言ってるんだけど」
「いやいや、バカバカ!それ末端価格で幾らになると思ってるんだい!そんなね人に上げるとかそういうのは、もっと大修士とかになってポンポン作れる様になってから……」
「今、目の前で作ったじゃん。そりゃ面倒だししょっちゅうは作らないけど、別にすぐに使う物でもないから、上げようか?って言ってんのに、まぁいらないならいいや」
「いらないなんて言ってないよ!もうね、小白に忠誠を誓うから!絶対今後裏切る事もないし、何かあれば壁となって戦うから頂戴!」
うん、何だかんだやっぱり欲しいらしい。まぁ、これも先行投資だ。今後もこの信用出来て自分の能力も一部知ってるお姉さんの口を割らせないためにも、ここは恩を売っておこうか。
出来立てほやほやの『蒼霊水』を渡すと、さも宝物の様に両手で受け取る楊師姉の様子は微笑ましくもあるが、作れば作れるものに何とも大仰なとも思わなくもない。
「さて、丹薬も作るものなくなっちゃったし、何か食べる?」
「え?じゃあ、辛い物」
「自分は辛いの得意じゃないよ」
「そうだったそうだった。そう言えば小白は甘いものって作れるんだっけ?」
「え?楊師姉って辛党なのに甘党なの?」
「うん、辛いのと甘いのが好き」
って事なので、隠れ家の共有厨で、何かの卵と何かの乳と砂糖を取り出し、適当に混ぜて容器に入れて蒸していく、その間に砂糖でカラメルを作っていき、先ほどの何かの卵と何かの乳の溶液が固まった所で取り出してカラメルをかけていく。
すごく簡単に思えるじゃん?簡単なんだよ。何しろ火加減とか言うのが、自分の思い描くそれになる様に出来ているから。
そう、今日のおやつはプリンだ。
「え?二個ある!」
「そりゃ一個は楊師姉ので、一個は自分のだからね」
「そうか!じゃあお茶入れてくる!」
そう言って、駆け出す楊師姉を眺めつつ、ちょっと修行の小休止とする。




