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53.まずはワンクッション

 「黄師姉は沈紅羽の噂聞いてる?」


「小青が剣を弾いて恥かかせたんでしょ?」


あっ!そっちー?いかん黄師姉の視線が刺さって来るんだけど、先ずは言い訳しなきゃ。


「そうだけども、恥かかせるとかそういうんじゃないよ」


「分かってるわよ。何だかんだ一緒に生活してるんだし、小青がそういう悪目立ちするような真似をしない事くらい」


「うん、あれは剣で刺されそうだったからはずみで手が出ちゃっただけだから、本当に偶々です」


「分かってるって、まともに修行も出来ない歳で、すでに気の導入をしている沈紅羽の剣を弾けるわけないでしょ。手が滑ったのか何なのか分からないけど、怪我人が出なかったのだけは幸いだわ」


成程ね。黄師姉はあくまで沈紅羽の腕前が悪すぎて、偶々そんな風に噂されてるんだと思ってるのか。だったら都合がいい、そのまま思い込ませておこう。


「問題は、外苑の人達から沈紅羽の評判が凄く悪い事なんですけど」


「それも知ってる。秦姉さんには一応それとなく伝えてはいるんだけどねぇ」


ちょっと自信なさげなのは、多分秦師姉にちゃんと伝わってないんだろうな。だって秦姉さんだもんしっかり真っ直ぐ伝えないと伝わんないじゃん。


「事は秦師姉の宗内の評判にも関わってくることだし、真っ直ぐ伝えた方がいいんじゃないですか?」


「それはそれで羊雲城との関係にひびが入りかねないじゃない。面子は分かるんだけど、何も考えずに剣を抜くことだけでも止めさせないと」


「他人が傷つくのもだけど沈紅羽が傷ついたらそれもまた羊雲城との関係が悪くなるかもしれないんですよね」


「それなのよね。本当は大人しく修行してくれるのが一番いいんだろうけど、まだまだ遊び盛りでもおかしくない歳だし」


「あれくらいの女の子だったら、少し落ち着いてもいいと思いますけど」


「小青が言うのはもう4,5年生きてからの方がいいわね」


「沙さんのお店の樂樂は落ち着いてるし、よくお店の手伝いしてるし、仕事も出来ますよ」


「そうねぇ、皆あれくらい落ち着きがあってしっかりしてればいいんだろうけど、そうもいかないわ。それこそ小青だって毎日どこか歩き回ってるでしょ」


いや、自分は隠れ家で修業したり、色々手伝いながら修行したり、大体なんか修行してますよ。


「やっぱり自分から秦師姉にはっきり言いましょうか?」


「やめておきなさい。変に恨みでも持たれたら面倒でしょ?そもそも剣の修行をつけた方がいいって言ったのは小青なんだから」


そりゃ、あの時はそれでもう少し修行に身が入ってくれればと思っただけで、まさかもっと傍若無人になるなんて思ってなかったっての。


何なら修仙の修行してなんでどんどん落ち着かなくなっていくのよ。


〔そういうもんさ。修仙の最も重要な才能はその心持ちだっていう奴もいるくらいだしな。結局どれだけ修行しようと本質的な人間性は変わらんし、寧ろどんどん解放されていくと思った方がいい〕


何それ?超怖いんだけども?自分がもっと開放された性格になったら一体どうなっちゃうんだ?


〔覚えてないのか?お前がここに来るきっかけになった悟りを〕


悟り?


「小青は聞いてるのかしら?偶に全然関係ない場所と話してる気がするんだけど?」


「聞いてるよ!とりあえず、一旦沈紅羽の事は黄師姉に任せて自分は口出ししないけど、外苑の人に何か聞かれたら、黄師姉から秦師姉に話が行ってるっていうのは伝えてもいいの?」


「いいわよ。向こうもやきもきしてるだろうし、過激な手段に出られる前に、一旦それで落ち着くように伝えて頂戴」


ふむ、何だかんだ黄師姉はこういう時に頼りになる。


冷静で無理なく処理してくれるんだから、やっぱりできる系女子なんだろう。情報収集能力もちゃんとあるしさ。


一旦黄師姉と分かれて自分の部屋へと戻る。


何となく面倒なので、3種の毒キノコを使った簡単醤油炒めを作って適当にむさぼりながら、指輪の中身でも整理しようとした所、急に臍の下が温かくなって、全身に力が満ちた。


「早くない?」


〔ああ、想定よりだいぶ早いな。だが理屈で考えればおかしな点はない〕


うん、また修為が上がって今度は5級か?いや、それよりもまず、何でこんなに修為が上がるのが早いのか。


「この前【符術】を手に入れたばかりでまだまともに使えてもいないのにさ。皆もこんなペースで修為が上がるものなの?」


〔そんな訳ないだろ。ただお前の場合体質が特殊で、毒をどんどん吸収している影響が出てるんだ〕


「毒吸収体質ね。毒食べる程体が強くなるって言うから食べてこそいるけど、別に霊力はそう変わらないんじゃないの?」


〔この世界には武修と言うものもある。肉体と技が磨かれる事で修為を増すものだ。言い換えれば霊力を貯める器の質が上がる事で、より霊力を蓄えやすい体質になっていくと解釈する見方もある〕


いずれにしても、毒の食べ過ぎで肉体のレベルが上がってそれについてくるように修為も上がっちゃったのか。


「じゃあ、次はどうするの【大工術】?【錬器術】?」


〔いや折角の5級記念だし、先に術とは関係ない物を教えておこう。錬化だ〕


「何?錬化って」


〔簡単に言えばいらない部分を焼き尽くし必要な部分だけ抽出するようなものだな。錬丹だって欲しい薬効を取り出して組み合わせるだろ?その抽出工程のみを行う技術さ。もしくは法器や宝具の持ち主を書き換えたりとかか?まぁすぐに使う物じゃないが、そう遠くない内に必要になる技術だから先に持っておいてもいいだろう〕


ふーん、どうやら今回は術ではないらしい。

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