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51.喧嘩の仲裁

 沈紅羽の自信満々な顔を見るだけで、めんどくさい気持ちでいっぱいだが、対する相手を見ると仮面をつけた人物が、ジトッとした目で沈紅羽を睨みつけている。


「買うなら買う。買わないなら品物を置いていけ。それだけの事で何で剣を抜く?」


仮面の下は結構若い人物なんじゃないかと想像させる中々に瑞々しい声だ。


「ふん!どうせあんたは魔宗でしょ?どうしようと私の勝手じゃない。どうせろくな魂胆でこんな所に店を構えてないんでしょ?」


「この宗、この外苑では正魔の別を問わず、規則に従えば誰が商いをしてもよい事になっている。すなわち取引は公平公正に行われる物であって、物品と値段のつけ方が気に入らなけらば買わなければいいし、了承できるなら買えばいい。奪う事こそ許されていない」


「ふん!理屈を並べた所で、魔宗は魔宗よ!余計な御託を並べてないで、下を向いてなさい!」


うん、完全に沈紅羽が碌でもないんよ。何か自分ルールで本来の宗規を捻じ曲げて、一方的にまくし立ててる。


そもそも風塵宗派ド田舎辺境宗派で、魔宗であれ受け入れてるって事らしいし、どう考えてもこっちの仮面の人物の言を支持するよ自分はさ。


「そちらこそ、御託を並べて強盗まがいを正当化してるに過ぎない。黙って商品を置いて、どこへとなりと消えるといい」


「何よ!その言い草!私は次期羊雲城の城主の婚約者で、風塵宗聖子候補の秦師姉預かりなのよ!いいわ……抜きなさい!ここで退いたらメンツが立たないもの」


何をアホな事言ってんの?カツアゲから強盗まがいの事して、通らなかったら面子って、あんた?いい加減にせえよ?


すると、スッと仮面の人物が腰からジャラジャラと金属音のする物を取り出し、恐る恐る自分はそれを確認する。


それは軟鞭とでもいうのだろうか、短い金属の棒と輪っかの連なり、一番先端は針状になっていて、打たれても刺されても、大層な痛みを想像せざるを得ないものだ。


「抜けと言ったのはそっちだ。この後どうなろうとお前自身の責任だが、分かっているだろうな?」


はい、その通りです。悪いのは100%沈紅羽です。なのでちょっとだけ待って貰えませんでしょうか!


そう、この状況一番まずいのは何だかんだ自分だ。


沈紅羽の知り合いで、尚且つ秦師姉預かりの身分でもある。つまり同輩に限りなく近いって訳、つまりここで沈紅羽を見捨てても責められるし、沈紅羽の味方もしたくない絶妙な立ち位置って訳。


この辺の身分や立場的なアレが、いい訳でなんともならないのが古代中華なのよ。それは少ないこの世界の生活でも身に染みている。


「ふん!そんな武器を見せびらかしたところで、私が恐れると思うの?私は秦師姉直伝の剣を習っているのよ?降参するなら今なんだから」


は~い、アホは一生アホで~す!いくら後ろ盾が凄いからってお前の腕がそう簡単に上がるかい!っての。ついこの前まで遊び歩いてた小娘が、何を自信満々と言い立てるのか。


「ふん!結局この世は弱肉強食、力の物の言う世界で、その様な振る舞いをした事を死ぬまで後悔するがいい」


いや、マジで後悔させて欲しいんですが、それはそれで自分の立場が非常に危うくなるので、ちょっとだけ、ちょっとだけ待って!ね?


「沈紅羽さ~結局何が欲しくて揉めてるの?」


「あら?白小青もこの魔宗に言いたい事があるのかしら?ほらこれよ」


そう言って、沈紅羽が見せてくれたのは、マジでどうって事ない銀細工だ。


「いや、これ位なら買えばいいじゃん。羊雲城の城主からお小遣いたんまり貰ってるんでしょ?」


「それはそれ、これはこれよ。払うべきものには十分払うけど、魔宗に払う物なんて無いわ」


「はぁ?さっきこっちの方も言ってたけど、この外苑で商売は自由だよ?買うか買わないかそれしかないのに、何をごねてるの?」


「全く子供ね~いいかしら?風塵宗はまがりなりにも正派なの。例えどんなに田舎の辺境でも魔宗に屈する事は無いのよ」


「それはそれ、これはこれ!宗規は宗規!」


「五月蠅いはね!!いいからどきなさい!」


言うなり剣で突きかかってくる沈紅羽、ギラつくその剣閃に思わず息をのみ体が硬直すると、何故か不思議と視野が広がり後ろで息をのみ口に手をあててるおばちゃんまで見えてきた。


何だろうか、スローモーションの中で少しだけ先の未来が見える。


その中で、一番確実なのが沈紅羽の剣の剣先が自分に突き刺さる事だ。


だが、その認識に対して自分の体も反射的に動いていく。


沈紅羽の剣に対して、その剣の腹を打ち上げるように右手のひらを持ち上げていくと、さして抵抗も無く剣を押し上げ、吹き飛ばす。


そのままその剣はくるくると回転しつつ、近所のお店の二階のひさしにぶっ刺さった。


偶々二階から喧噪を見下ろしていた人物には申しわけないのだが、今回はそれしか方法が無かったんだ。


「何してくれるのよ!」


「何じゃないよ!沈紅羽は秦師姉の預かりなんだから、こんな所で秦師姉の評判を下げるような事してどうするのさ!」


自分が言うと、何か口をもごもごさせ、そのままプイッと振り返り、どこぞのお店のカウンターに勝手に足を掛けて飛び上がると、あっさりと二階のひさしに刺さった剣を引き抜いて、どこかへと走り去っていく。


アレが軽功と言うものなのだろうか?4~5m位は軽々飛んでたんだけども?

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