42.薬屋さん始める
「やっとかよ!既に注文だけでも随分とあるってのに、ずっと何やら可愛らしい娘といちゃいちゃと……」
「連れまわされてただけで、イチャイチャなんてしてないよ。それより注文取れたんだ?」
隠れ家の方に着たら、既に楊師姉がおり、早速嫌味を言われた。
「まぁね!一先ず一品薬だけなら結構な種類手に入るって触れ込んだからね」
「それにしたって、薬会でも買える物をわざわざ楊師姉に注文するって何か訳ありなの?」
「ふん!違うよ。錬丹士って連中はケチだから、大概金になる物しか作らないのさ。そもそも腕っぷしの弱い分、修行資源を手に入れる為に金稼がなきゃいけないし」
「だから、注文受けて普通の値段で売る楊師姉の所にね。それで、どんな感じ?」
「そうだね~一番多いのが痔の薬だろ、それに……」
楊師姉の言う注文リストをイメージすれば、どうやら大抵の物は作れるっぽい。何気に錬丹炉も白おばちゃんに頼んで、貢献ポイントと金銀の葉っぱを混ぜて購入済み。後は材料次第なんだが。
「分かった。注文の品は用意出来るんだけど、問題が一個ある」
「何だい?」
「材料が足りない」
「でも、李長老の所で作れるって話だったじゃないか?」
「今は無理、李長老の家に来客が多すぎて、人前で【錬丹術】使うなって、指示が出てる」
「それじゃどうするんだい?」
「炉はあるから、材料を手に入れてきて欲しいんだよね」
「そりゃ《翠霊薬》が手に入るなら、お使いくらいやぶさかじゃないけどね」
そういうので、早速必要な材料を紙に書きつけて、金の葉っぱを出す。
ちなみに紙は割と普通に蔵書閣でリーズナブルな値段で幾らでも手に入るし、書付に使う小筆?矢立てみたいな奴も同様だ。
「お釣りは好きにしていいから」
「本当かい?その言葉忘れないよ!」
「いやそんなに気合入った感じで言わなくても、別に大して残らないよ。そもそも自分だって黄師姉に付いて行って、日頃から薬会の材料の値段なんて見慣れてるんだから」
「それもそうか。じゃあ行ってくる!」
子供にお使いに行かされてるのに、これと言って気にするそぶりも見せずにさっさと出かけてしまう楊師姉は、やっぱり付き合いやすい人なんだろう。
一旦この間に、毒料理を作り食べつつ、修行を始める。
何だかんだ修行を強制的に我慢させられる日々が、少しだけやる気を増進してくれた。
思った以上に集中し、混元掌の型で混元功を繰り返している内に、何となく体内の真気の動きと体の動きが一致していく。
〔ふーん、思った以上に混元功が合うようだな〕
「そうなの?」
〔ああ、本来はもっと時間をかけて気と身の動きが一致していくんだが、どうやらすでにそこに触れつつあるみたいだ〕
「それって、何か強制的に脳に情報をぶち込んだせいじゃないの?」
〔可能性は大いにあるな。この方法がどんな副作用をもたらすかもよく分かってないし〕
「実験もせずに、いきなり自分の脳に情報だけぶち込んだんだ?」
〔いや、ちょっと違うんだが、まぁ悪い事は起きないだろうし、大丈夫だ。安心して修行しろ〕
何をどう安心しろと言うのか分からないが、とりあえず他に手段も無し、黙って混元掌を繰り返す。
「え?小白って掌法を使えるのか!」
うん、どんだけ急いだんだか、はたまた自分が集中しすぎたのか、いつの間にやら楊師姉が戻っていた。
「内緒ね!まだ子供だし戦える程に使えるわけじゃないよ」
「そうか、そうれはそうだよな。でもそんな幼い内から本当に熱心だよね。なんか目的でもあるの?」
「いや、別に?他にやる事がないだけ。それより材料は?」
そう言うと、そそくさと買ってきた材料を取り出してくれる。
何だかんだそつなくちゃんとお使いもこなして貰えたので、先に《翠霊薬》を渡しておく。
「え?いいのかい?」
「まぁね。とりあえずこれから集中して薬作っちゃうから、人が近寄らないように周囲を警戒しててよ」
「ふーん、それなら護法を張っておこう。小白は薬作っちゃいなよ」
そう言うなり、家から出て花畑の真ん中で、胡坐をかいて手印とでもいうのだろうか?両手の指を組みつつ、人差し指だけを立てて、指先を合わせる形で、口元に近づけていくと、自分の借りている一角に何やら気の壁の様なものが出来る。
めっちゃ興味あるが、今は一旦錬丹だ。その為に何やら結界張って貰ってるんだし。
とりあえず、注文にあった薬を次から次へと作り続け、もう限界という所で、楊師姉に声を掛ける。
「一旦休もう。ちょっと疲れた」
「おっ?そうか?じゃあ休憩にしよう!」
そう言うなり、楊師姉は厨を使ってお茶を入れ始める。
やっぱり流れるような手つきで、自分じゃ到底かないそうもない。
仕方がないので、隣に立って簡単なおやつを作る。
おやつと言ってもいいのかどうか、買ってあった油条に砂糖をまぶして温めなおして、揚げパンみたくするだけだけども。
お茶とおやつを並べて、花畑を眺めつつ休憩する。
「やっぱり小白は不思議だね~」
「そう?」
「うん、不思議だよ」
結局何が不思議なのか分からないが、沙さんの店にバイトに行くまでには納品分の薬は作り終えた。




