40.もう絶対関わらない
「ふーん、そうやって名前を使うのね。あからさまに後ろ盾だと言わずに、それでいて相手に想像させるようにして……」
「そんなんじゃないっての!」
結局、何も買わないのは流石に悪かったので、王師姉に一着買ってついでに届けてもらう事にした。
配送サービスまでやってるとは思わなかったんだけど、あの後、ひたすら下手に出てあれこれ気をまわしてくるもんだから、何が正しいのかよく分からなくなっちゃったので、お金だけ少し多めに置いていって、とりあえずバランスをとったつもりだ。
しかあし、まぁその後もあっちだこっちだと引っ張りまわされ、各お店に迷惑だけかけて、羊雲城の城主だの秦師姉だのの名前を出す。
想像通りのムーブで本当に嫌になるわ。
なんか、子供だから自分だけ当たりが少しマシみたいだけど、大人の立場から見たら本当に嫌な小娘だよ沈紅羽ってのはさ。
まぁ、ぎりぎり許せるのは羊雲城の城主がたんまりお小遣いを持たせてくれてるお陰で、金払いだけはいいって所くらいかな。
皆して、ふん!しゃぁねぇ!みたいな顔してギリギリ許してくれるもん。
とはいえ、もうそろそろ解放されたい。そして二度と付き合いたくない。
「あら!菜館かしら?ちょっと寄っていきましょうよ」
どうやらまだこの地獄は続くのかと思ったら、沙さんのお店じゃん。
勝手に空いてる席を見つけて自分を引っ張って行って、席に着くと、樂樂が自然な動作でさっと近づいてきた。
「あなたのくるのが遅すぎたのよ」
「あ、うん。この通り秦師姉のお客人の案内を申し付けられたからね。童僕の仕事の方が優先でさ」
そう、今日は好師匠の所に行く日じゃないって事は、沙さんのお店でバイトの日なのだが、黄師姉は自分がすでに気の導入をしている事を知らないので、この日は遊んでる日だと勝手に思っている節がある。王師姉から説明は聞いてる筈なんだけどな?
それで、多分なんで今日は来なかったの?的な事を聞かれてるんだと思うんだけど、やっぱり沙さんも樂樂も微妙に何言ってるのか分かりにくいんだよなぁ。
「あら?お知り合い?それはそうよね。この宗で数少ない年若い人だもの。私は沈紅羽よ。あなたは?」
「近づかないでください。私に話しかけるとひどい目に合うのよ」
「え?店員さんじゃないの?」
「嫌われたね。ちょっと変わった子だけど、人の本質を見抜くって言うか、そういう所のある子だから」
「わ、私の何が悪いって言うのよ!いいわ!このお店で一番おいしい物を出して頂戴!」
「どう考えてもそういう所だと思うけどね。何か適当に出してあげて。自分は辛いの苦手だからお茶でいいや」
それだけ聞くと、厨房の方に向かう樂樂。
「子供ね~辛い物が苦手なんて」
「別にそんな物好き好きじゃん。この店の常連の人だって辛い物食べれない人がいるんだから」
「そういう人は何食べてるの?」
「小朋友!なんでこんな所でのんびりしてるんだ!俺の!俺の飯は?!」
正に辛い物食べられない代表のおっさんが割り込んできた。
「今日はお休み。童僕の仕事が入っちゃったからね」
「そんな……仕事とか言いながら可愛らしい女の子連れて、何の仕事だってんだ」
「あら?なかなか目がいいみたいだけど、あまり不用意に近づかないで頂戴。こうみえて……いえ、この通り羊雲城の次期城主と婚姻の決まってる身なの」
「どの通りだ?」
「うん、おじさんも色々言いたい事はあると思うけど、関わらないのが一番いいよ。一応秦師姉預かりの子でさ。この宗で当面修行するんだって」
「それで案内って感じか、それじゃあしょうがない。今日の所は包子でも食って宿に帰るか」
早々に立ち去るおじさんは、やっぱり中年だけあって面倒事の気配も察知できるんだろう。
「何も食べずに帰っちゃったわね。しかも小青があの人の食事を用意してるみたい」
「そう聞こえた?」
「ええ、それはもう。どういう事なの?」
「別に大したことじゃないよ。自分もあの人も辛い物食べられない仲間なだけ。ほら来たよ」
何だかんだ喋っていたら、水煮魚が出てきた。
白身魚をこれでもかって辛いスープで煮た料理で、食べれる人からすると魚の出汁が出ててかなり美味しいらしい。
自分は一口で唇が腫れた。なんで皆こんなの食えるんだよ。
「へー!思ったよりおいしそうじゃない」
うへー……紅羽も辛党かよ。
思わず顔をしかめて、目に辛い蒸気が入るのすら防ぎたい気分だ。
うん、全然平気でがつがつ食べ進めていくんだけど、怖!
自分は樂樂の出してくれたお茶を飲みながら、顔をそむけて、横目に見守る事しかできない。
「ああ!美味しかった!」
汗をかきながら満面の笑みで、食べ終わる姿は一応美少女と言って過言ではないだろう。何ならテレビのCMに出てたっていいくらいかもしれない。
「よし!これから毎日ここで食事しましょう!」
「勝手にしたら」
「何でよ!小青も付き合いなさいよ!」
「食べれない食事に付き合ってどうすんのさ」
「辛くないもの出してもらえばいいじゃない」
「ここの店主の沙さんは辛い料理しか修行してないの」
「それは困ったわね。羊雲城の城主に言って、別の料理人を……」
「はいはい!そう言うの止めてね!ここの沙さんのお店なんだから、人の店の事に口差しはさまない」
全く、羊雲城の城主に言えば何でも出来るのか?って!まだ婚約してるだけで、結婚してる訳でもないだろうに。




