38.厄介事に用は無くとも、向こうからやってくる
ある日の朝、早々に花の手入れを終えて家を出て行こうとすると、秦師姉とはちあった。
「小青か、ちょうどいい。靜に紹介するところだったから、一緒に来い」
何の事やら?と思ったら秦師姉の後ろに女の子?って言っても今の自分よりは少し年上か?それでも中学生程度に見える少女が付いてきている。
一見ちょっと気の強そうな感じだが、将来は美人になるだろうと誰もが予想できるくらいには整った顔立ちの女の子だ。
正直、面倒だし逃げ出したいが、流石に秦師姉に盾突く訳にもいかず、少し離れて付いて行く。
「靜」
「秦師姉!どうしたんですか?こんな早くに!」
「うん、お前が修行を始めてからだと邪魔になるだろうと思って、早めに来たんだ」
何て言うか、秦師姉ってちょっとズレてるんよな。
悪い人じゃないし、さっぱりした人なのも分かるんだけどさ。多分誰も間違ってるとか言わないせいか、自分の思い込みがそのまま正しいと思ってる節があるんじゃないかと思うんだよね。
今もちゃんと気を使って、修行の邪魔にならない時間に来てはいるんだけどさ、いくら何でも朝早すぎるよね。
そんなこと考えつつも、自分も早朝から抜け出そうとしてたんだけどさ。
「そ、そうですか。それで、こんなに早く来たのだから、きっと緊急の用が?」
「うん、今度この娘を預かる事になったんで、靜にも紹介しておかねばと思ってな」
すると、少女が一歩前に出て自分から挨拶する。
「この度、秦様にお世話になります。沈紅羽と申します。ゆくゆくは羊雲城の次期城主と婚姻が決まっている身ですので、短い間ですがよろしくお願いします」
何とも、ちゃんと説明しているようで、ただの自己顕示欲マシマシ娘の様だ。
「そうですか。鸚鵡緑苑が錬丹師李長老が一番弟子の黄靜と申します」
黄師姉が答えると、流石の自己顕示欲マシマシ娘でもちょっと怯んだ様だ。やっぱり内門長老の一番弟子ってのは相応に立場のあるものらしい。
そんな事を考えていると、自分にも視線が集まってくる。
「風塵宗雑役弟子で、黄師姉の童僕をしている白小青です」
今度はあからさまに侮るような顔でこちらを見てくるが、この小娘がなんぼのもんじゃい。
「小青は私自ら才能を感じて連れてきたのだ。失礼なふるまいはするなよ!」
秦師姉の鋭いつっこみに小娘の少し鼻白んだようだが、やっぱり侮るような表情は消えない。
「一応、私の童僕ですけど、この庭の花を育てたのはこの小青です。将来有望な修仙ですので、それなりの対応をお願いしますね」
これだけ言われれば、流石の小娘の自分の態度がまずいと気が付いたのか、素知らぬ顔に変わる。
やっぱり、この世界の文化だと変に謙虚に接するより、多少盛った方がいいのかねぇ?
「私も次期城主様の婚約者になったのには理由がありますの。霊根の質が極品で、今後城主様の血脈に才能が受け継がれるようにとの事でして」
なんの事は無い、偶々生まれ持った才能とやらがいいだけの話だ。
〔極品って言ったら、中々生まれるもんじゃないし、自分の血族に加えたいって気持ちも分かるがな〕
うん、唐突のシステムにも慣れて、この子の才能ってのがかなりのもんだっていう事は分かった。
「ああ、この子はこの歳で既に練気2級に入っているし、婚姻までの間に少しでも修行を進めたいという希望で、私が預かる事になったのだ」
なんだよ、自分より下じゃん。
自分はまだ8歳程度だよ?中学生にもなってその程度で鼻高々ってどういう状態よ?
「そうでしたか。風塵宗と羊雲城は協力関係にありますし、私も協力は惜しみませんけど、秦師姉はどうして私に?」
「うむ、どうしてもこの宗は修行場ゆえに大人ばかりで、紅羽も息が詰まると思ってな。小青に相手してもらおうと思ったんだ」
すっげーーーー迷惑!
秦師姉の目論見は確かに分かるし、子供の相手は子供にってのはその通りだよ。
でも、自分の中身はおっさんだからさ!この世界で生きるのに必死な日本人だからさ!貴重な自由時間を修行に費やしてるんだから、放っておいてよ!
そして、黄師姉!なんかホッとした顔するんじゃない!紅羽を自分に押し付けて、ああ良かったみたいな!そういうのが目下からちょっと冷たく感じられるんだよ!
「あの、自分もこれで何だかんだとやる事のある身でして」
「そうか、小青は勤勉だと聞いてるし、紅羽の相手にさせるには不便か」
何だかんだ、秦師姉は情報は得てるし、常識的だし悪い人じゃない!自分はそう信じてます!
「今日は、暇よね?」
うん、黄師姉はそういう所が本当に意地が悪い。自分はこれから秘密基地で修行するんだから放っておいてよ!
「自分だって色々とやる事はあります」
「そうだろうそうだろう!今日は何をする予定なんだ?」
うん、ちゃんと必要な事を聞いてくれる秦師姉はいい人なんだけど、それが自分を追い詰める質問だって言うのにも気が付いて欲しい。
多分、多分なんだけど自分がすでに気を導入していて練気3級だとかいうのは黄師姉気が付いてないんだよね。
「別に面倒はおかけしませんわ。ただ、この宗の事は何も知らないので、道案内を一人つけて欲しいですわ」
この一言で、今日一日自分のやる事が決まってしまった。
今日は修行なしで、この小娘の相手か~面倒だなぁ。




