35.毒を食らう
〔そろそろ、ここの生活にも慣れてきたか?〕
ある日の事、沙さんの店の手伝いが終わるとシステムが話しかけてくる。
にしても、随分と人間臭いシステムだよな?テンプレ親子の会話みたいな聞き方。
「まぁ、ぼちぼちね。気は抜けないけど、お金は貯まる一方だし、人間関係も良好。後は自分の方から無理をしなければ、そうそうは問題ないんじゃないの?」
〔それはこちらから見てても同意見だけどな。だが、平穏ってのはいつでも突然崩れ去るものだ〕
「どうしたの?急に脅すような事言って来てさ」
〔そろそろ本格的に身を守る事も考えた方が良さそうだって話だ〕
「前にまだ修為が足りないって言ってなかったっけ?」
〔新たな術を身に着けるのはな。だが今でも出来る護身のすべがあるだろ?〕
そんなのあったか?今の自分にできるのって、ご飯作るか薬作るかそんだけだぞ?
「何だろう?ご飯に毒混ぜるとか?」
〔そういう方法もあるし、否定はしないがな〕
「否定しないのかよ!冗談だよ!何?どうすれば身を守る手段が身につくの?」
〔そもそも毎日何やってるんだ?〕
「え?急に説教?」
〔違う。功法の事だ。混元功を使うのに、混元掌を毎日やってるだろう?〕
「あ~!あの体操みたいなやつって何か拳法的なあれなんだ?」
〔掌法だがな。古い型だが別に使えない物じゃない。ただかなり剛直な型である事が問題だ〕
「格闘技とか武術とか詳しくないんで、噛み砕いて教えてもらえる?」
〔つまり、敵の攻撃に攻撃をもって返すような力と力のぶつかり合いになりやすい〕
「あ~?つまり子供の自分は力負けしやすくて分が悪い?」
〔そんな所だな〕
「じゃあ、護身にならないじゃん。つまり新たな掌法を覚えろって事?」
〔違うそうじゃない〕
「なんでやねん!自分じゃ力負けするから混元掌使いこなせないって話じゃないの?」
〔いや、寧ろお前が力をつければ問題ないだろ〕
「そんなに簡単に力が身についたら皆時間かけて修行とかしないんじゃないの?」
〔ところが肉体的に強化するだけならお前の場合は方法があるだろ〕
「あ!」
そう言えば、自分には少しだけチートがあるんだったわ。
何か、毒と魔気だっけか?吸収すると肉体が強化されるとかいうアレだ。後は目のやつな。目の方は何だかんだ少しづつ慣れてはきてるぞ?常用はしてないけども。
〔一番簡単で確実な護身法は間違いなく健康的で丈夫な体を持つ事だ。って事でそろそろ積極的に毒を食い始めよう〕
健康的で丈夫な体を手に入れる為に毒を食えってのは、どう考えても矛盾している気がするが、自分の体質的にはそれが正解なんだろう。って言うかさっきの否定しないってそういう事か。他人のご飯に毒いれるんじゃなくて、自分で食べる分に入れろと。
「でも毒なんてどこで手に入れるのさ?」
当然の疑問だ。だって毒なんて物がそこらで当たり前に売ってたら、何かの拍子に毒殺やらなんやら事件になってもおかしくない。
しかし、街は今日も賑やかで、騒ぎがあっても精々が喧嘩とかそんなのばっかりだ。
〔例えばあそこの露店を見てみろ〕
システムが言うので、近くにあった露店を覗くとどうやら食料品を扱っているようだ。
「いらっしゃい坊ちゃん。お使いかい?」
腰の曲がった小さなおばあちゃんが尋ねてきた。
「こんにちは。ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「いいよいいよ。好きなだけ見て行きなさい」
もう夕方だし、そろそろ店じまいの頃だろうに、優しいお婆ちゃんで良かった。
〔ほらその芋だ〕
確かに露店の端には長芋の様な太い根っこ状の物が並べてある。
「これって、どうやって食べるんですか?」
おばあちゃんに尋ねてみると、
「ああ、それはね飢饉の時の保存食だよ。干せばよく保つし、水が出ようが何しようが大概不作になる事は無いからね。でも食べるにはまず、一週間位水につけて毒を抜かなきゃ駄目だよ。それからちゃんと火を通して食べる事だ。味は保証できないね。あくまで食べる物がない時に食べる物さ。ひっひっひ」
「じゃあ、何でまたわざわざ露店に並べてるんです?」
「そりゃあ、お金が無くてこんな物しか食べれない人だっているし、こんなものでも懐かしむ人もいるからね。稼げなくとも食料品を扱う者としての良心かねぇ」
やっぱりいい人っぽいな。完全にこのお婆ちゃんの顔を覚えて、その芋を購入する。
大きな箱いっぱいに買っても銀の葉一枚だってさ。本当に貧乏食なんだろうな。
それから更に数件店を巡り、謎の長ネギ風の毒茎や味付け用の醤油に鷹の爪とごま油、あと毒料理用の鍋を一つ購入して帰った。
どうせ誰も使わない黄師姉の家の厨屋で毒料理用の鍋をセットする。
まずは芋を輪切りにして、置いておき、更にネギっぽい茎も5㎝位に適当にざく切りにする。
鍋にごま油をしいて温めたら鷹の爪を入れて香り付け、そこにさっき切った材料を投入していく。
当然ながら芋は水に浸してないし、ネギみたいな茎の方に関してはどうやら火を通すと水気が出てきてそこに毒が溶けてるそうなので、寧ろその毒を逃がさぬように鍋で一緒に炒めていく。
ある程度火が通ったら、調味料を加えて味を調整する。それだけだ。
あいも変わらずあっさりと料理が完了し、自室に持ち込む。
恐る恐る、芋を一つ口に運ぶと、ねっとりとしたレンコンのような味?
「結構おいしいじゃん?」
〔ああ、毒を抜く過程でうま味も抜けるからあまりおいしくないと思われがちだが、そのまま食えば美味いんだ〕
「でも毒あるんでしょう?」
〔だからいいんだろ?〕
そりゃそうだ。ネギみたいな茎の方も中がトロッとして不思議なうまみが溶け出すし、これで酒が飲めればなぁって言うね。
最高の毒夜食を食べながら、ちょっとだけ太らないか心配になる。




