33.楊さんと商売
どうやら、薬の売買は比較的自由らしい。ソースは王お姉さん。
出来れば、薬会や蔵書閣を通した取引が望ましいらしいんだけど、別に個人間の取引も特別罰則がある訳じゃないんだってさ。
まぁ、個人間だとそれこそ力がモノを言う世界みたいな?カツアゲ的な事もあるからさ、ちゃんと取引した方がいいよっていうのが王お姉さんの意見だった訳だ。
何て言うかさ、王お姉さんって人が良いって言うか、何でもよく心配してくれるし、正直この人の所で童僕になった方が良かったんじゃないかって思うよね。
じゃなかったら、蔵書閣の白おばちゃんとかさ。
面倒くさい跡目争いとかに巻き込まれずに、楽しくこの世界でも生きていけたんだろうに。
って言うか、そもそも毛師姉だって黄師姉が跡目だって思ってるんだから、争う必要とかないんじゃないか?
もっとはっきり言えば、黄師姉は一応でも李長老の弟子なんだから、もっとちゃんと大事にすりゃあいいのに。
別に誰も金師兄との事をとやかく言うんじゃないし、後を継ぐ一番弟子の態度ってもんがあるでしょ。
そんな事をつらつらと考えて、休憩していると、楊さんが近寄ってきた。
「じゃあ、さっきの話の続きだけど」
「どんだけ粘ったのさ」
「だって!《翠霊薬》を手に入れられるかどうかの瀬戸際なのに、何もしないでいられるかい?」
「いや、寧ろ何もしないで待ってたんじゃないの?」
「そうだけど!」
何か最初は随分綺麗なお姉さんがいたもんだと思ったけど、中身はなんか面白そうだなこの人。
「一応さっき王師姉に聞いてきたけど、薬の売買はしてもいいんだってさ」
「じゃあ、私にも《翠霊薬》を!」
「問題は、対価をどうするかだよね」
「ぐぬぅぅぅぅぅ。お金払うよ?」
何か絞り出すような声で言ってくるけど、何か旦那が危険な仕事を許してくれないとかで、収入が少ないんだよね?
「ちなみにいくら払う気なの?」
「うっうっうぅぅぅ金三枚」
泣いてんじゃん。金の葉三枚とか最近じゃ錬丹にも慣れて、上手くすりゃ一日で稼げるんだが?
って言うか《翠霊薬》って金の葉三枚って事は、製作者の取り分って1/3なのか?多くない?
だって材料費は好師匠が持ってるんだし、その他の流通手数料を含めたとしても、自分かなり優遇されてる気がする。
「一個だけ提案あるけど、聞いてみる気はある?」
「何?」
「まず絶対に自分が関わってる事を誰にもばらさない事、これから言う提案も漏らさない事、その上で商売の手伝いをしてくれるなら、その手数料として《翠霊薬》で支払ってもいいけど」
うん、まぁこんな怪しげな話、少しでも常識があれば絶対乗っからないんだけども。
「やる!」
はい!何の質問もなしに乗ってきました。この楊さんなんか心配になって来たな。
「一考もしてなかったみたいだけど、本当に大丈夫?」
「大丈夫!口の堅さと剣の腕だけなら自信がある!」
こういう人程信用できないんだけどなぁ。
そう思いつつも、声を小さくして顔を近寄らせると、何か何とも言えないいい匂いが漂ってくるが、一旦それは置いておいて、話を進める。
「実は自分も丹薬作れるんだよね」
「そうなのか?そんな子供なのに?でも【厨術】も使えるんだから、出来るのか」
あっさり信じちゃう辺り、やっぱ心配なんだよな。
「自分が作った丹薬って、基本的に李長老に納めてるんだけど、自分でも少しストックしてるんだよね」
「へ~それで?」
「薬会の手数料とか無しに薬を売ったら幾ら位になるかな?」
「そりゃあ、値段は2/3位におさめられるかな?」
「それだと、薬会に睨まれるじゃん?だから薬会と同じ値段で楊さんに捌いて貰えば幾らの儲けになる?」
「何でそんな子供の内からそんなに利に聡いんだ?」
「知ってるかな?今の自分って李長老の跡目争いに巻き込まれてるんだけど」
「そうなのか?でも黄師姉が李長老の一番弟子なんだから、あんたの主人が跡目を継ぐんじゃないの?」
「それがそうもいかないのが女同士の争いな訳でさ」
「あ~……噂には聞いてるわ。毛師姉が李長老にお熱なんだろ?」
また随分と古い感じの訳し方だけど、凄くよく分かるわ。
「現状自分は黄師姉から毛師姉の邪魔をするように差し向けられてるんだけど」
「うんうん?」
「毛師姉からも李長老の役に立つから独立しろって言われてんの」
「じゃあ、どっちにつくのかはっきりしないと」
「はっきりした所で、頭一発叩かれたら自分死んじゃうじゃん」
「そうだねぇ。だから私に守ってほしい?」
「楊さんって外門弟子だよね?内門弟子に勝てるの?」
「多分?剣だけなら丹薬士にも勝てると思うけど、どうだろう?」
「黄師姉の後ろには秦師姉が付いてるけど」
「駄目、絶対無理!私が死ぬ!」
「だから!自分が関わってる事を一言も漏らさずに、丹薬捌くのを手伝ってくれたら《翠霊薬》で支払うよって言ってんの」
「なるほどね~!それでその丹薬ってのは、何を捌けばいいんだい?」
「それなんだよね。だって自分が作った物を薬屋みたいに楊さんが売り歩いたら、絶対おかしいじゃん?」
「うん」
「だから、楊さんの方で知り合いとかに必要な丹薬を聞いてもらって、その中で自分が作れそうなもの作ったら、儲けが出るよね?」
「そのお金で独立するのかい?」
「いずれはそのつもりだね。まぁまだ李長老が死ぬまでに20年はあるらしいから、何とでもなるでしょ?」




