29.金の葉っぱと財布
少し転がっていたら、自然と体に力が戻って来たので、起き上がる。
「こんなになるなら言っておいてくれればいいのに」
〔何事も慣れだからな。こんなのは修行の浅いうちに慣れておいた方がいい。寧ろ修行が進んでからぶっ倒れてみろ数日どころか数年動けない事もあるんだからな〕
まぁ、早いうちに危険な事も覚えておけってのは分からないでもないけどさ。
〔それに安全な状況でなら真気を使い過ぎた方が、回復に伴って多くの霊気を吸収できるってのもある。あまり狙ってやる事でもないけどな〕
うん、得した風に言いながらやっぱ良くないんじゃないかよ。
とりあえず、軽く頭を振りながら好師匠の所に行くと、二人してしげしげと自分の作った薬を眺めたり、匂いを嗅いでたりしていた。
「あら、動けるようになったのね。師尊様にも確認してもらってたんだけど、これって《翠霊薬》よね?」
確かに記憶に間違いなければそうだとは思うが、それが何だというのだろうか?
「そうだと思いますけど」
「これが作れるとなると、あなたこれから引っ張りだこになるかもしれないわよ?」
「何でまた?一品薬ですよね?」
「そうなんだけど、水薬作れる人は限られてるから」
「だとしても、そんな大層な効能じゃないですよね?」
「効能自体はそりゃあ一品薬だもの。そうは言ってもよ丸薬が飲めない人だって世の中にいるのよ。子供とか、単純に丸薬を嚙み潰せない女性とか」
まぁ、確かに真霊丹を丸呑みしたら絶対喉につかえるし、噛み潰すのが基本なのか。にしたって噛み潰せないなんて事あるのかね?
って、あれ?それだったら最初っから粉薬とか小さい錠剤で作りゃいいじゃん?
〔薬は少なくまとめられればその方が得だから、中々そう上手くはいかないな〕
「(なんでさ?)」
〔丹薬ってのはたくさん飲むと丹毒ってのが出て修為が上がるのを妨げるんだよ。薬効を分散させてたくさん飲めばその分後から修為が上がりづらくなるって言うデメリットに繋がる〕
なるほどね~そりゃあ、自分が思いつくようなことは誰かがやってるって事か。
「好」
システムと話していると急なハオが出てきて、思わず好師匠の方を見やる。
「師尊様が言うには、一旦この事は隠しておいた方が良さそうよ。あなたを利用しようとする人も出てくるだろうし、その代わりここで翠霊薬を作って好長老に提出すれば相応の報酬を約束してくれるって」
「いいんですか?仕事依頼みたいなの受けてないのに?」
「任務堂の事?別に弟子同士での融通もある程度は許可されてるし、何より師尊様は内門長老なのだから、見込みのある弟子に直接仕事を依頼する事も出来るわ」
あっ!そうか任務をくれる人も顧長老って名前だったし、長老ってつく人は弟子に対してそういう権限があるのか。
「じゃあ、これからも来た時に丹薬の練習しつつ、好師匠に見せるようにします」
「それがいいわね。まだ小白は丹薬の品質や見分けもつきにくいだろうし、師尊様に預けるのが一番間違いないわ」
一応、前の世界では中年だった自分がこの話を丸っと鵜吞みにするものでもない事はよく分かっている。
しかし、あくまで好師匠の家に置いてある素材と錬丹炉で錬丹の練習させてもらえる上に、上手くいけば報酬も貰えるときた。
仮にその報酬が安かったとして自分の懐は痛まないし、仮に好師匠が自分の作った丹薬を利用した所で、別に毒薬を作ってる訳じゃないので自分に大きな被害は無いだろう。
寧ろ現状これはいい話なのではないか?もし今後錬丹炉を自分で手に入れる手段を見つければ、こっそり薬会に売りに行ってもいいし、もしそれを邪魔されるようなことがあるならば……それまでに修為を上げて対応できるようになる他ないか。
とりあえずの所、自分が一品薬を作れるって言う手の内は見せてしまったのだから、当面は好師匠の世話になろう。
自分の中で、状況を納得すると好師匠がのっそりと動いて、袖から何か取り出した。
「金の葉っぱ?」
「あら、見た事なかったかしら?この宗では通貨代わりに使われてるわよ。世俗で言うところの金子代わりかしら?」
「いえ、自分が見た事あるの銀のやつだけだったので」
「ああ、なるほどね!銀の上が金よ。この宗の一番奥の住まいが宗主様の館なんだけど、そこには根が一つなんだけど二本の木が生えていて、一方には金の葉、もう一方には銀の葉が成る金銀宝双樹があるのよ」
「何か、霊気を含んでるんですよね?錬丹でも厨術でも使うので、お金燃やしてる気分になるんですよね」
「ああ!そういう事ね!小白の年齢でよく丹薬を練る程の霊気が込められると思ったら、銀葉を使ってたのね!……でもそれも結構な技術だった筈だけど?」
やばいやばい!話をそらさないと!
「あの!葉っぱ頂けるのはありがたいんですけど、保管方法が無くて全部袖に入れっぱなしなんですけど、どうしたらいいですかね?」
「え?財布に入れたら?」
「財布?ってどこで手に入れられます?」
「別に外苑でも蔵書閣でも好きな所で手に入るわよ?」
当たり前の事なのに、なぜか財布の存在をすっかり忘れてたって言うね。
そりゃあ俗世でもここに来ても子ども扱いだもの、お金なんて使う機会も無かったし、世界観が違うから財布だってどういう形の物かも分からないし、葉っぱ入れるんだから巾着とかかな?
「好」
すると、金の葉っぱを何やら箔押しされた薄い皮の入れ物に入れて好師匠が渡してくれた。
「あら!いいじゃない!師尊様のお古なんて、いい物だし!」
受け取ってまじまじと見ると、濃紺と薄青で色付けされた葉っぱにとまった蜻蛉の絵が入ってる確かに良さげな物だった。




