僕は地下ダンジョンに潜った
お昼時間中、遠足延期のお知らせを受ける生徒たちのお話です。
音音救出の好機到来と見た僕たちは、歌と泉の街への遠征について、毎日、学校の食堂で詰めの協議を重ねていた。
そんな新しい作戦会議室となった学校の食堂にチャットが困った知らせを持って来たのは、僕たちがワイワイと雑談しながら昼食をとっている時だった。
食堂の大きなテーブルに並んで座る僕たち家族の前には、ミニリスとウルルスが座っていた。
美崎はウルルスと大の仲良し。
僕とミニリスは苦楽を共にした戦友同士。
今では家族ぐるみの付き合いをしていた。
「ハル君、ミサちゃん。わたしパンをおかわりしに行ってきますね。ミニリス、一緒に来て」
「はい。姉様」
ウルルスがミニリスを連れ立ってビュッフェのパンコーナーに行く。
となりのテーブルでは黒出流先輩がグラビスとレビスに昼食を食べさせてもらっていた。
「はい。あーんして」という言葉が盛んに聞こえてくる。
もうそんな事をする必要は無いのに。
程なくして、ミニリスとウルルスがクルミパンをトレイに山のように積み上げで戻ってきた。
席に座ると二人の姿はパンの山に隠れて見えない。
パクパクと音がし出すとすぐにパンパンに膨らんだ二人の顔が現れた。
「きゃー可愛い」
美崎が大喜びだ。
「二人ともそんなに詰め込まなくても良いんじゃないかな」
僕がそういうと。
「だって先輩、遠征に行ったら僕たち学校の給食をしばらく食べられないですし」
ミニリスが答えた。
「髪飾りを忘れてるよ」
僕が二人の頭を指さして言う。
「あっ、そうでした。いつだって戻って来られるんでした」
ウルルスは気づいて驚いた。
髪飾りは黒出流先輩がみんなに作ってあげたマジックアイテム、どこでもワープ。
見た目がそっくりなミニリスとウルルスはお揃いのデザインだった。
隣で僕たちを見たグラビスが席を立つと、チョコパンを山のように持ってきてレビスと食べ出した。
ウルルス達を見て食欲をそそられた様子だ。
「君たち。チョコレートは毒だろ」
黒出流先輩が心配して言う。
「光くん。大丈夫だよ。毒にはならないよ。心配してくれてありがとな」
グラビスもレビスも嬉しそうだ。
「はい、あーん」
パクッ!
心なしか黒出流先輩のお腹が出て来た気がする。食べ過ぎはポージョンの取りすぎと言うことだが、体が完全回復していればただ無駄に消費するだけで、体に何の影響も与えないはずなんだけども。
そんな時、チャットとエンペラが食堂にやってきた。
「あっ、校長と教頭アルよ」
後ろのテーブルで、肩にエコーとパロペティアを乗せた坂田君と一緒に食事をしていたシレンが言った。
「先生こんにちは」
兵団の面々が、口をそろえて挨拶した。
チャットとエンペラはみんなに声が届くように、食堂の真ん中に立った。
「生徒の皆さんこんにちは。そのままで聞いて下さいね。今日は学校から残念なお知らせがあります」
チャット校長の一言にみんながシーンとなった。
「予定していた遠征ですが、実施が難しい状況になりました」
静かになった学校の食堂がガヤガヤし始める。
「えー。私たち、遠征を楽しみにしてたのに」
兵団の面々は口々に不満の声を上げた。
「皆さんお静かに。詳しいお話しは教頭先生からしますので。それでは教頭先生」
チャットが一歩下がるとエンペラが前に出た。
「このお話は特に、ハル殿とミサ殿に聞いて頂きたく」
エンペラが話し始めると、すかさず美崎が「エヘン」と咳払いをした。
「教頭先生。殿って、なんですかぁ?」
美崎はわざとらしく言う。
「えっ、お、おほん。本当に宜しいのですか? 私の方が、ハ、ハルさんや、ミ、ミサ、さんよりも目上のような振る舞いで」
堅物で知られるエンペラはどうも気まずさから抜けきらないようだった。
「教頭先生は何のお話をされているのか良く分かりませんがぁ。良いんですよぅ。ここは学校。私たちは生徒。私たちはみんなで学校生活を始めたんですからぁ」
美崎はニコニコ。
エンペラは小声で「お心のままに」と視線を落とした。
「えー、生徒の皆さんが心待ちにしていた遠征では有りますが、残念ながら今回は延期となりました」
食堂に再び「えぇー」と言う声が上がった。
「今回の決定は私たち教員にとっても誠に残念では有りますが、致し方有りません。ダブルタイフーンが発生したのです」
エンペラ教頭の話を聞いて、兵団達が顔を見合わせた。
ダブルタイフーン??
「それでは専門家のお話を伺いましょう。お天気お姉さんどうぞ」
チャット校長が紹介すると、食堂にボードと指示棒を手にした女性が入ってきた。
まるで元の僕たちが暮らしていた世界の、キャスターみたいだ。
また知らない人が現れた……。
「パパとママがお天気の心配をしないようにあたしが作ったの」
インフィニティが言う。
いつも両親のことを気にかけてくれている。
なんていい子なんだ。
僕は目頭が熱くなった。
ウッウッウッ……。
お天気お姉さんの解説が始まった。
お姉さんが手にしているパネルには地図が描かれていて、そこに『台』と書かれた円盤が二つ張り付けてあった。
お天気お姉さんは円盤を指示棒で指し示す。
「このダブルタイフーンは西から強い勢力を保ったまま、一つは歌と泉の街に。もう一つは我々が暮らしているここ、ルーメン神聖都に向かっているます」
兵団員たちが口々に「何が書いてあるか見える?」「いや、見えない」「わたしなら見えるわ」なんて言っていた。
次回は大きなホワイトボードが必要だ。
お天気お姉さんの気象予報は続く。
「タイフーンの接近に伴い都市部ではゲリラ雷雨が発生するでしょう。大きな建物や高い建物に被害が起きる恐れが有ります」
これじゃ確かに遠征は無理だな。
「タイフーンにはそれぞれ名前を付けました。歌と泉の街に向かっているのが悪徳領主軍。こちらに向かっているのが国王軍です。」
軍って、軍隊じゃないか。
「そして、ゲリラ雷雨は王都の工作員によるテロと名付けました」
本当にゲリラじゃないか。
「これは戦争だな」
グラビスが立ち上がって言った。
「そうなんです。私たちは、王の軍勢を迎え撃ちながら、都市のテロ活動を阻止しなければなりません。既に都市には王の工作員が潜入しているでしょう。もちろん音音さんも救わなければなりません」
チャット校長の話しを聞いて、これはやっかいだなと僕は思った。
「先輩。これも自動生成イベントですかね?」
坂田君が後ろから僕たちに声をかけてきた。
「パパとママだよ」
インフィニティの言葉に、みんなの視線が僕たち家族に注がれる。
少し前のことだった。僕たち家族はこれから盛り上がるピンチなイベントはどんなのだろうって雑談したのだった。
その時僕たちが話したアイデアが発動してしまった。
「みんな。大丈夫だよ。このピンチを物ともせず乗り切るシナリオが出来ているから」
僕は力強く宣言した。
「さすが、生徒会長。たよりにしてるよー」
食堂に拍手と歓声が巻き起こった。
「悪徳領主との戦いで使った架空の町の外れで、王の軍勢を迎え撃つよ。僕とミサでそこにダンジョンを作るから、坂田君はモンスターを配置して」
僕は作戦の説明を始めた。
「俺はマジックアイテムを配備しようか?」
黒出流先輩の申し出に「それも頼みます」とお願いした。
「レベル百までつくろう」
僕が言う。
「何するアルか? ダンジョンを作って冒険者を集うアルか?」
シレンは不思議そうだった。
「ダンジョンには僕とミサが潜るんだよ。高レベルのバーサーカーは使い勝手が悪いから、別のスキルセットを極めるんだよ」
「なるほどアル。新たなる戦いに向けて自らを鍛え直すアルか。さすが生徒会長アルね」
シレンは目を輝かせて言った。
「パパ。ママ。あたしは少年少女探偵団を作って、悪い人たちから都市を守ね」
インフィニティは友達百人の中から選りすぐりのお友達を集めて探偵団を結成して、都市に潜むテロリストを見つけ出すらしい。
インフィニティだから誰よりも頼りになるけど、僕たちはともかくとしても、森羅万象全てに力を及ぼして、人間を特別扱いしていないとも言える我が娘。
その点は不安だが、インフィニティ曰わく、かなり長く自分たちに良い風が吹くそうだ。
きっと大丈夫なのだろう。
「この作戦会議、教頭である私も加わらせて頂きますぞ」
「校長の私もですよ」
僕たちはチャットやエンペラも交えて作戦について話し合った。
そしてエンペラがみんなの前に進み出た。
「生徒諸君」
エンペラの威厳に満ちた声が食堂に響き渡った。
「ただ今、生徒会と職員で会議を行いました。会議の決定事項を伝えます」
みんなシーンとなった。
「我々職員は生徒会の意見を取り入れ、国王軍を殲滅しつつ音音さんを我が校に迎え入れるため、歌と泉の街に遠足する事に決定しました」
教頭先生の言葉に生徒達が沸き立った。
「やっぱり遠足有るじゃないか。よしっ。遠足の準備をしよう」
こうして僕たちは戦いに向けて万全の準備を開始した。
悪徳領主との戦いで使った架空の町は、今では都市部から移り住んだ住民達が暮らす立派な街へと変貌していた。
悪徳領主との戦いの後、架空の町を一旦解体して、第二都市として機能する事を目標に掲げで作り直したのだった。
際限なく発展させて、発展の極みに達している僕たちのルーメン神聖都と違い、この第二都市は、自然と憩いに溢れた、より住みやすい街を目指して計画的にデザインしたのだった。
いずれはルーメン神聖都の機能の一部を第二都市に移す計画も立てている。
そんな第二都市は幸いまだ住民は少なく容易に待避可能。
住民を安全な都市部近郊に移すと第二都市の西に非常線を張った。
そして、ダンジョンも作ったのだった。
「それじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「お気をつけて」
「期待しておりますぞ」
僕と美崎は学友や兵団長たちに見送られて、ダンジョンに潜って行った。
ミニリス&ウルルス:パクパクパクパクパクパク
黒出流:「君たちって本当に良く食うよな」
ミニリス:「僕たちは新陳代謝が半端無いからね」
ウルルス:「体は小さいけど動きが早いのよ。だからヒットポイントの消耗も激しいのよ」
黒出流:「俺も消耗激しい時期が有ったから分かるよ。ひたすら食ってたものな」
ミニリス&ウルルス:パクパクパクパクパクパク
黒出流:「大食い姉妹か。可愛いよな。妹が自分の事をボクなんて呼ぶのも、とっても可愛いぜ」
ミニリス:パクパク!! ピタッ!!
ウルルス:「えっ、今なんて言いました」
黒出流:「だから妹も可愛いって」
ウルルス:「ミニリスは弟ですよ」
ミニリス:「そうですよ。僕は男ですよ」
黒出流:!?、!! ガーン
ウルルス:「まさか。今までずっと、弟を女の子と思ってたんですか」
ミニリス:「あちゃー。その間違い、相当やばいっすよ」
黒出流:……。
ウルルス:「かなり恥ずかしい間違いですよ。まさかみんなにも。そんな事言ってます」
ミニリス:「言っちゃたんですか!!」
黒出流:…………。
ウルルス:「みんな気を使って突っ込まないようにしてるんですね」
黒出流:………………。
ミニリス:「発した言葉は消しようがないな。みんな黒出流さんにどんなイメージを持っていることやら」
ウルルス:「やってしまいましたね」
黒出流:チーン




