音音は歌の女神になる
音音の歌が街のイベントをクリアします。
音音は噴水の前に立つと、シューズとソックスを脱いだ。
辺りには大勢の人だかり。
クエリ少年が広場の人たちに、魔法使いが噴水を直してくれるんだと、ふれ回ったおかげで大勢の取り巻きが出来ていた。
広場の噴水は街の人から泉とも呼ばれていて、単なる飾りではなく、この地区一帯の水源でもあったので、水が枯れてみんな困っていたのだった。
そんな人々の注目する中で音音は歌い出した。
♪♪♪
黒のTシャツ わたしの服 胸元の音符
チェックのスカート 変わって行くよ
きらめくよ 可愛いい水着 水と戯れ
魔法使いのように ひらめくフリル
♪♪♪
すると音音の服が輝いて、フリフリした水着に変身した。魔法少女のコスチュームに見えなくもない。
周囲から「おぉー」と驚きの声が上がった。
水着に着替えた音音は枯れた噴水の中に入て行った。
ラッパ型の水盆を乗せている太い柱の前に立つ。
こうして見ると結構大きいな。
音音は思った。
柱の高さだけでも音音の身長を軽く越えていた。
水盆は音音のはるか頭上だ。
これから何が起きるのだろうか。群衆が静まり返る。
壊れた噴水を魔法の力で直すのだろうか。
それとも噴水に取り憑いて水を止めている魔物を、魔法の力であぶり出し、退治するのだろうか。
期待と不安が人々の間に広がってゆく。
音音は軽く肩を回すと、
「さて、やってみますか」
と言って、水盆の太い柱に抱きついた。
まわれー。それっ、まわれー。
力いっぱい柱を左に回そうと、ありったけの力を振り絞る。
それっ、まわれー。
街の人たちはそんな音音の様子をポカンと見ていた。
思っていたのとだいぶ違う。
音音がどんなに力を入れても柱はびくともしない。
音音は歌い出した。
♪♪♪
盛り上がれ上腕二頭筋 柱を絞めろ大胸筋
ハムストリングに大地のパワー
回すよ柱をどこまでも どこまでも
私は可愛い筋肉美少女 筋肉美少女
♪♪♪
すると柱は岩の擦れ合う重たい音を立てながら、ゴトゴトと動き出した。
すぐに柱からゴボゴホと音がしてガタガタと震えた途端、ラッパ型の水盆から勢いよく水が吹き上がった。
その高さおよそ十メートル。広場の人たちが頭から水をかぶり逃げ惑う。
「あっ、私のシューズが濡れちゃう」
音音は急いで柱を右に回し始めた。
十メートルの水柱が五メートルになり、さらに回して1メートル。さらに回して五十センチ。もう少しだけ回して三十センチ。水の山を慎重に調整する。
「こんな物かな」
広場の片隅で止まっていた水車が、ゆっくりと動き出すのが見えた。
火照った筋肉に冷たい水が心地よい。
この噴水は柱を回すことで水量を調節出来る仕組みだった。
初めは水がちょうど良く出ていても、吹き出す水の振動や地形、重力、気温変化などの様々な要因から、徐々に右に回転する傾向が有るというスト一リ一設定になっていた。
水道の蛇口と同じで右に回すと噴水の口が締まる。かくして、枯れた泉イベントのクリア方法は、水盆の柱を左に回すことだった。
噴水から上がってきた音音に街の人たちが次々と握手をする。
「有り難う御座いました。これで、離れたところまで水を汲みに行かずに済みます」
みんな口々にお礼を言った。
「おねえちゃん。今の詠唱魔法でしょ。きんにくびしょうじょって言ってたの。ぼくにも出来るかな」
走り寄ってきたクエリ少年が目を輝かせて言う。
「今のは魔法じゃなくて歌よ」
「うた?」
音音の言葉にクエリ少年はハテナ? となっていた。音音はその様子から、ここは歌が無い世界なのだと気が付いた。
「これを唱えると誰でも元気いっぱいになるの。もちろんクエリ君も歌えるわよ」
それを聞いたクエリ少年の顔がパッと明るくなった。
「やったー。教えて、教えて。ぼくにもうたを教えてよ」
クエリ少年は音音の腕をつかんで懇願する。
「もちろん良いわよ」
「やったぁー」
クエリ少年は飛び跳ねて喜んだ。
「あの、わしのような年寄りも、そのうたとやらで元気になるかのぉ」
一人の老婆が近づいてきて尋ねた。
「もちろんです。誰でも歌えて誰でも元気になりますよ。わたしがいっくらだって皆さんに教えますから」
音音が言うと広場にざわめきが広がった。
「お嬢さん。ならば俺にも教えてくれ」
「私にも」
「俺もだ。礼ならはずむぞ」
こうして多くの人たちが音音から歌を教えてもらう事になった。
やがて音音は、泉の街の歌の女神と呼ばれるようになった。
吉田先生:「皆さん。恥ずかしいことに先生、勘違いをしていました。噴水の柱は芯が鉄で出来ていて、ねじ山の代わりに太い銅線が巻きつけて有って、そこに雷が落ちてモーターの様に柱が回転して噴水の栓が閉じたと言う設定を考えてました」
音音:「先生。先生の考えるイベントってファンタジーっぽくないです。わたし、噴水に潜む魔物を歌の力で倒したかったです」
美崎:「モーターならば逆方向に電流を流せばいいんだよ」
春海:「なるほど。雷を地面から空に向かって放てばいいんだ」
音音:「逆方向。空に向かって雷って。分かった。私にも分かったよ。そうよね! 地面から空に昇る雷の歌。ファンタジーっぽい!! 先生、わたしそれでイベントクリアします!!」
吉田先生:「ですから、先生は勘違いしてたんです」
生徒たち:「やろうやろう。すぐやってみよう」
春海&美崎:「先生が話していた噴水、校庭に造ったよ。試してみようよ」
吉田先生:「ちょっと皆さん。どこに行ったの。あれは先生の勘違いなんですよ」
音音:「♪大地の光、稲妻となって雲を駆けるよ♪」
ドカンと言う爆発音。地面を転がる銅線のコイル。
吉田先生:「皆さんここにいたのですね」
音音:「先生。柱が消えちゃいました」
吉田先生:「ですから、あれは先生の勘違いです。柱は回転しません。コイルから弾き出されます。レールガンのように」
美崎:「柱、またここに落ちて来ますよね」
吉田先生:「はい。その通りです」
春海:「落ちた時の衝撃って強いですか?」
吉田先生:「はい。打ち出した時と同じ威力です」
生徒たち:えっ!!
ドッカーン!!




