音音は歌って旅をした
ゲーム音楽担当の根尾兎 音音。本格登場です。
音音がクルウルウの姿に驚いて洞窟を飛び出したのは坂田君が三つ首巨大大蛇に飲まれる少し前の事だった。
洞窟から外は目に付く物が何も無い。
荒れ果てた大地。足元にはごつごつとした石畳の道が続いていた。
洞窟から飛び出し走りつづけた音音はやがて気持ちが落ち着くと立ち止まって辺りを見回した。
人の姿は見えない。
道の周りは荒れた大地。
背の低い草と小石混じりの荒れた景色が何処までも続いていた。
音音はあてどなく道を歩いた。
どうして良いのか分からない。それでも道の先には何かが有ると信じて、ただただ歩いてゆく。
不思議といくら歩いても疲れない。それでも気持ちが沈みそうな時は歌を口ずさんだ。
♪♪♪
がんばれわたし。勇気を出して。
道の先には蜜の小川。
フルーツ薫るお菓子の果実。
さあ行こう 勇気を出して 笑っていこう
♪♪♪
すると不思議にも辺りに蜜とフルーツの香りが漂い、体に力が湧いて来るのだった。
これがわたしの力!?
力の使い方は、なんだろう? 良く分かる。
洞窟でオオトカゲを追い払った時も、キャンプの火を起こしたときも。
ちなみに、音音は三つ首巨大大蛇を大きなトカゲだと思っていた。
歩くのに飽きてきた音音は思いついた。
そうだ。歩かなくたっていいんだ。
音音は風の歌を口ずさんだ。
♪♪♪
心を運ぶ風 舞い散る花びら 春の薫り
吹き上がって わたしは行くよ
わたって行くよ あの町に 春をわたるよ
♪♪♪
するとどうだろう。音音は空を渡る春風のように高みに舞い上がり空を流れていった。
眼下の荒れ地はしばらく行くと森に変わり、その森をぬけた。
森の先には湖が広がり、湖畔に大きな街が広がっていた。
音音は街の中央にある広場に降り立った。
風になっていた音音の姿を誰も見ていない。
広場には大きな石造りの噴水が造られていた。
真ん中にラッパ型の水盆が立っていて、そこから水がかすかに流れ出していた。
水は一本の細い筋になって石の表面を伝っているが噴水の底は干上がっていた。
音音は噴水を不思議な気持ちで見つめた。
枯れかけた噴水。
わたし、知ってる。
そこへ一人の少年が駆けよって来た。
「おねえちゃんどこから来たの?」
男の子は大きな瞳をキラキラとかがやかせていた。
少年の後から母親と思しき女性が駆けて来る。
「クエリ。突然どうしだの? 駆け出したりして」
少年の前に立った女性は困った様子で言った。
「ママ。このおねえちっやんきっと魔法使いだよ。空から降りてきたもの」
少年の母親は驚いて音音を見ると、申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。うちの子がおかしな事を言って」
あっ、この子に見られちゃった。
音音はあせっていた。
「本当だもん。空から降りてきたもの」
少年は信じてもらおうと必死だ。
「さあ、あっちに行きましょう」
母親は子供の手を引いて音音にもう一度会釈をしながら立ち去ろうとした。
「あっ、すみません。ここは歌と泉の街ですよね?」
音音は急いで母親を呼び止めた。
すると母親は怪訝な表情で「いえ、ここは泉の街ですが」と言った。
この時、音音が気が付いたのは、広場に音楽が流れていない事だった。
ここが今、音音が思っている街ならば、『歌と泉の街』と呼ばれ、広場は賑やかに音楽家の演奏が流れているはずだった。
そして、この街では一つの困りごとが起きていて、それを解決するイベントが発生する。
もしここが、あのゲームの世界ならば。
しかし、音音の思いとは違う。
街の名から歌は消え音楽は全く聞こえて来ない。
ここは音楽が無い世界。
街の人たちはたまにラップみたいな変なものを口ずさむ程度。
そうよね。ここが私たちの作っていたゲームの世界なんて。そんな事、有るはずないものね。
ゲーム音楽担当の音音は思った。
「あっ、わたし旅をしていて。知らなかったから」
音音は怪訝そうな女性の表情に気づいて言い繕った。
「旅をですか」
こんな少女が普段着で旅をしているなんて。
もしかしたら本当に魔法使い。
そう思った女性は音音を見つめて一呼吸つくと意を決したように口を開いた。
「あの、もしかしてあなたは本当に魔法使いなのですか? 魔法使いでしたらお願いしたいことが」
女性は懇願するように両手の平を胸元に組み合わせた。
お願いしたいことってまさか枯れた泉のイベント。
音音の全身に鳥肌が立った。
「あの枯れた噴水の泉を元の姿に戻して欲しいのです」
女性が噴水を指差す。
枯れた泉のイベント来たぁー。
まさか本当に、本当に、ゲームの世界だなんて。
音音の意識はあまりの感情の震えに遠退きかけた。
「大丈夫ですか?」
女性にふらつく体を支えられた音音は
「はい。喜んで」
と返事をしていた。
音音:「春海先輩。知ってますか?」ニコニコ
春海:「音音さんっていつもそういった後、わ・た・しの事♡ って言うでしょ。 美崎が呆れるし、僕もどん引きだよ。ワンチャンは無いよ」
音音:「ブブー。不正解。今回はそんな話しじゃ無いもの」
春海:「不正解ってなんなん??」
音音:「中世の話しですよー。なんと、中世って実在したんですよ。吉田先生が言ってました」
春海:「えっ、中世って。それ、ファンタジー作品のための、特別に作られた世界設定じゃ無かったの?」
音音:「それがですね。大昔に、本当に存在した時代のお話なんだって。凄くないですか!」
春海:「おお。確かに。お城って本当にあったの?」
音音:「有りましたよ。石を積み上げて。本当に」
春海:「石を積み上げただけの。信じられない。王様って人も本当に居たの?」
音音:「居ましたよ。本当に王冠をかぶって」
春海:「王冠かぶった王様か。馬車も?」
音音:「ありますあります。馬は重要な交通手段ですよ」
春海:「騎士も?」
音音:「もちろん。甲冑姿で、王様に忠実な騎士が」
春海:「領主も?」
音音:「居ましたよ。けど、皆が皆悪い人じゃないんですよ」
春海:「ドラゴンも?」
音音:「もちろん居ましたよ。お姫様をさらっちゃうんです」
春海:「魔法も?」
音音:「もちろんもちろん。クリーンエネルギーの代表格です」
春海:「魔王も?」
音音:「居ました。けど、魔族と共に駆逐されちゃいました。人の手による絶滅種です。残念な結果ですよね」
春海:「錬金術?」
音音:「有りましたよ。銅を金に変えてました。でも、質の悪い金が出回り、市場経済が混乱しちゃったらしいです」
春海:「魔法使い?」
音音:「当然、当然。魔法が有るから当然です」
春海:「ゴブリン? オーク? トロール?」
音音:「当然ですよ。先輩。エルフやドワーフだって居ましたよ」
春海:「転生者も?」
音音:「当たり前ですって。中世の英雄は全員それですよ」
春海:「中世って凄い時代だったんだね」
音音:「だからみんな中世にあこがれるんですよ」
春海、音音:納得
インフィニティ:「音音おねえちっやん半分以上間違ってるよ」




