悪徳領主は謁見する
悪徳領主が再び登場です。
王都は遥か西の山脈を背にして東に向かって広がっていた。
豊かで華やかに栄えるその都は王宮を中心に整然と区画が整備され、大通りを馬車が行き交っている。
かつてはこの異世界の大地オンプレミシズの東方最大の都であり、地域における文化と経済の中心地だった。
けれども今では王都から遥か東、神として崇められる僕達リミットレス一家が暮らすルーメンの都市が王都を凌駕しているのは明らかだった。
今国王は宮殿に居ない。王都の西の端。五百年前、山脈を一望する高台の上に築かれた古城に居場所を移していた。
山脈の向こうでエルフ族と魔族が諍いを始めたからだった。
五百年間燻っていた火種が再び燃え上がったのならば、その火の粉は山脈を越え我々にも降りかかるであろう。
王はそう考え、居心地の良い宮殿を離れ、臨戦態勢を敷くべく城に来たのだった。
魔王が支配する土地は山脈を超えた更に西に位置する。
王の城から見える風景は山脈を含めて魔族と人間の世界を分けるための広大な緩衝地帯だった。
その中心を横断する山脈は東西に連なリ、万年雪に覆われた高い山々は世界を隔てる天然の要害となっていた。
五百年前、エルフと人間の連合軍が魔族を山脈の向こうに追いやり、その時結んだ魔族との協定によって、大きな非武装地帯が出来上がった訳だが、魔族との約束事など当てにならない。
山脈を持たないエルフ族と魔族の境界線がいとも容易く破られたのは当然と言えた。
古城に設えられた謁見の間の内部はがらんとしていて薄暗く、高い窓から差し込む細い日の光が床を照らしていた。
国王に呼び出された悪徳領主はその細い光の中で片膝を付き首を垂れている。
左右には剣と槍を携えた兵士がそれぞれ立っていた。
ここは謁見の間でなく粛清の間ね。
悪徳領主はそう思った。
「ポーカーよ。何時までそうしておるのだ。顔を上げよ」
王の言葉に悪徳領主は高い石の玉座に座る国王を見上げた。
こうしていると、まるで古代の王だ。悪徳領主は思った。
王は白髪で白い顎髭を生やした老人ではあったが、威厳を感じさせる引き締まった立派な体格の持ち主だった。
額には赤い宝石をあしらったサークレットを嵌め、煌びやかな甲冑を身につけている。
そのガッチリとした顔立ちに浮かぶ表情は険しかった。
「久しいな。我が孫よ」
王の言葉に悪徳領主は皮肉を感じた。
母上を極貧生活に追いやっておきながら、私のことを我が孫なんて白々しい。
そう思う悪徳領主の心中を王は察した。
「どうしだ。世に不満でもあるのか」
王の問いかけに「いえ。不満など有ろうはずも。偉大なる国王陛下よ」と、悪徳領主は答えた。
口では何とでも言ってやるわと、心の中で呟きながら。
「東の領地では手ひどい目に遭ったそうだな。世の耳にも届いておるぞ」
王の言葉に悪徳領主は再び頭を下げた。
「修道女に撃退されたとか。領地を領民の好きにさせ、世の許しもなく我が都を凌ぐ程に発展をさせた」
威厳ある声音に怒りが混じる。
「我が王よ。あれは修道女などではありません。修道女のふりをした悪魔でした」
悪徳領主の悪魔という言葉に、国王は深く息をついた。
「悪魔か。魔族が蠢き出した今、その言葉を聞くとはな」
国王は玉座から立ち上がった。
「知っておるかポーカーよ。泉の街に『歌の女神』と呼ばれる女が現れ民衆をたぶらかせておることを」
悪徳領主は首を振る。
「魔族とエルフ族が事を構えている今、我が国に現れた二人の異端者。魔族の企みを内に秘め、災いをもたらす者と考えられぬか」
悪徳領主は美崎との戦いを思い出していた。その恐ろしさは身にしみて分かっている。
しかし奇妙な事にその頃の自分の事を上手く思い出せなかった。
まるで何者かに心を操られ、自分の心を失っていたかのように。
「ポーカーよ。もう一つ教えてやろう。東の領地に現れた、あの街の教会にいる親父の事だ。奴は世の娘を奪った男だ」
その言葉に悪徳領主の体が怒りで震え出す。
「そうだポーカーよ。お前の父だ」
父。私の最も憎む男。あいつのせいで。あいつだ。あいつが。あいつが私の妹を死に追いやった。母上も。全部あいつのせいだ。
悪徳領主は跳ねるように顔を上げた。
「王よ。もう一度私をあそこに。次こそは必ずや」
しかし王はもう良いと手を横に振る。
「東の街には世の軍を派遣する」
悪徳領主の表情に失望が広がった。
「おまえには泉の街に行ってもらう。世の軍を一部貸してやろう。お前の軍と合わせて魔族の企みを叩き潰せ。不満か?」
悪徳領主は「いえ」と言って深々と頭を下げた。
かくして、僕達の都市には王の軍。音音がいる街には悪徳領主の軍。二つの進軍が始まった。
音音:「先生。先生」
吉田先生:「どうしましたか。音音さん」
音音:「なんだかまた中世ファンタジーぽくなってきました。前回はロケットや衛星。しまいには人の観測で実体化する半球状の宇宙なんて、めちゃめちゃハードなSFっぽくなってたのに」
吉田先生:「悪徳領主に感謝しないといけませんね。これが普通の世界観なんですから。春海さん達が出てくるとその世界を壊してしまうんです」
春海&美崎:「先生ごめんなさい」ペコリ
音音:「春海先輩も美崎先輩もあまり登場しないでくださいね。わたしSF苦手。ファンタジーが好きなの」
吉田先生:「音音さん。実は、あなたも世界観を壊してしまう人ですよ」
音音:ガーン




