僕は先輩の能力に驚愕した
みんなで音音救出の作戦を立てます。
音音の救出。もちろんすぐにそうしたい。けれど、どうだろうか。
音音がクルウルと同化しているのは間違い無い。
音音は既にプログラム上に現れていてチャットが解析を試みている。
しかし、プログラムの改変が続いている。これの意味する所は。
クルウルはUFOに乗って、別宇宙からやってくるほどの存在。
対してこちらは黒出流先輩の救出で、奴に手の内をさらしてしまったも同然。
高度な知性を持つ奴が対策を講じて来るのも当然だろう。
頻繁な改変はその現れでは無いだろうか。
手の内を知られている事を思えば、黒出流先輩の救出に使った手をもう一度使うのはリスクをともなう。
かと言って、坂田君のケースを期待する事はナンセンス。
音音の救出は慎重に事を運ばなくてはならないだろう。
今僕達は、学校のゲームクラブの教室で作戦会議をしている。
この学校は僕と美崎がインフィニティのために作ったあの学校だ。
僕達が勉強していた元の世界の学校を忠実に再現してある。
ちなみに黒出流先輩が寝ていた医務室はこっちに移転済みた。
医務室に行けば、パロペディアとエコーがお出迎えしてくれる。
医務室にしては若干、騒々しいけれど。
「黒光り先輩救出に使った手は得策じやないですね。ましてや僕のケースは全く参考になりません。音音が自分で自分をバラバラにはしないでしょう」
坂田君は黒出流先輩が作ったマジックアイテム、その名も『魔動PC』を操作しながら言った。
魔動PCからはピコピコと言う単調な音が繰り返し流れていた。
画面にはエイリアンゲームと言うタイトルが表示されゲームが始まっていた。
画面上部にゾロゾロと現れるドット絵のエイリアン達を、奴らが撃ち出す弾を避けながら、下から砲台を操作して撃ち落とすゲームだった。
迫り来るエイリアンを全て撃ち落とせば勝ち。エイリアンが一番下のラインまで到達すれば侵略を許したと見なされ負けだ。
単調なゲームたが、やってみると意外とはまる。
今坂田君が操作している魔動PCの画面を見ると、エイリアン達はかなり下まで迫って来ている。けれど坂田君は余裕の表情。エネルギーチャージャーがマックスまで伸びて点滅が始まっているからだ。
坂田君がキーボードのEnterボタンを叩く。
時空砲発射!! 画面全体がチカチカとフラッシュする。
画面上の全エイリアンが消し飛び
You WIN!!
の文字が大きく画面に表示された。
坂田君は「よしっ!!」と、ガッツポーズを決める。
すぐ横では、他のみんなが机を寄せてカードゲームをしていた。
人間に扮したオオカミを当てるゲームだ。
「あいやー。わたしまた喰われたアルよ」
「結局オオカミは誰でしたの」
「またおれだよ。いつも必ずおれじゃないか。何だよこのゲーム。おかしくないか」
グラビスは不満そうだ。
ゲームクラブの教室はこのように、兵団長達も集まる作戦会議室となっていたのだった。
ある日の事、僕達ゲームクラブのメンバーが談笑しながら校庭を歩いていると、あちらの方でグラビスとレビスがお喋りしながら歩いていた。
黒出流先輩はすかさず「おーい君達」と手を振った。
「おぉ、光。どうしたんだ」
「ボク達に何かようか」
と言ってやってきた二人に先輩は髪飾りをプレゼントした。
「グラビス。君にこれをあげるよ。君の綺麗な赤い髪に似合うようにデザインした髪飾りだ。気にいてもらえると嬉しいけど」
それはまるで金属的な光沢のある真紅の木の葉。縁には細かいダイヤを連ねたような、細くて短いチェーンが幾本も、すだれの様にあしらわれ日の光を受けてキテキラと輝いていた。
「これをおれにくれるのか?」
グラビスは眼を輝かせて言った。少し目が潤んでいるようにも見える。
そしてグラビスは嬉しそうに髪に留めた。
「レビス。君にはこれ。グラビスとおそろいだよ。色は君の綺麗な銀の髪に似合うようにデザインしたよ」
それはグラビスと色違いの、とても強い光沢を持つ銀の髪飾りだった。
「ボクにこれを。すごくうれしいよ」
レビスもさっそく髪に留めてみた。
この髪飾りが後にグラビスのとても大切な思い出の品になることを僕はまだ知らなかった。
続けて先輩は言う。
「この髪飾りは魔法のアイテムなんだ。その名も、どこでもワープ。行ったことの有る場所ならば、一瞬でそこに行けるよ。行きたい所を思い浮かべてみて」
先輩がそう言うとグラビスとレビスが顔を見合わせパッと笑顔になる。
グラビスが校庭の片隅を指差した次の瞬間目の前から二人の姿が消え、指差した校庭の片隅でボンッと音がした。
校庭の隅では二人が十メートルほど弾け飛んで、しりもちをついてお互いを指差して笑い合っている。
「あっ。同じ場所にワープしたから衝突しちまったのか。安全対策をしっかりしないとだな」
先輩は頭をカキカキつぶやいた。
頑丈な二人で良かったよ。僕は内心つぶやいた。
それにしても先輩のマジックアイテム、めちゃめちゃ役に立つじゃないか。
僕は心底感心した。
「おーい。君たち。渡したい物が有るんだけど」
先輩はこんな感じで兵団長達に有用なマジックアイテムをプレゼントして、あっという間にみんなの心をつかんでしまった。
因みにミニリスをずっと女の子だと思っていたそうだ。
そして遂に僕達は音音の救出に向けて大きな一歩を踏み出す時がやってきた。
先輩の作った魔動ロケット。そして、それに積み込む魔動観測監視偵察衛星。
それを打ち上げる日がやってきたのだった。
校庭の中央に設置された巨大な発射台。
見上げる大型ロケット。
校庭は立ち入り禁止。僕達は校舎の屋上で打ち上げを見守った。
「発射五秒前。四。三。二。一」
チャットの声が校舎に設置してある屋外スピーカーから流れて来る。
「発射」
かけ声と共に轟音が大地を揺るがす。
「いけっ。いけっ!!」
みんなが一斉に声援を送る。
空に消えるロケット。
残る煙の筋。
澄み渡る静けさ。
皆がただただ空を見上げていた。
「打ち上げに成功しました」
チャットの一言が歓喜の叫びを呼び起こす。
「やったー」
そこにいる誰もが抱き合って、喜びを爆発させた。
僕達は急いでコントロールセンターにファストトラベルをした。
美崎のデアビジョンを投影していた大きなモニターは役割を変え、衛星からの映像を映し出していた。
モニターには、どこまでも広がる陸地や海が映し出されていた。
それはまるで平面地図だ。惑星の球体をとらえていない。
けれども衛星は遠く宇宙を飛んでいるはずだ。
そんな映像の前にチャットが立っていた。
「春海君。美崎ちゃん。予想通りの結果になりました。私達の世界は終わり無き半球状の宇宙。観測すればするほど広がって行きますよ」
予想通りの結果に僕は驚くと共に安堵する。
夜空が半球の頭だとすると底面は僕達が立つ大地。
大地も無限に広がる宇宙なので終わりがなく、僕達が観測する事で実体化する。
観測する事で実体化すると言うのが今一つ僕には分からないけど、美崎やチャットがそう言うものなのだと言ってるから、きっとそうなのだろう。
「今衛生はどこまでも高く、どこまでも広範囲に飛び続け、観測範囲を広げています」
そんなチャットの説明の横でビットとインフィニティがなにやら難しい話をしていた。
「おい、これ。オンプレミス由来の各種AIの活動まで活発じゃないか。あちこちで様々な自動生成イベントが発生してるぜ。インフィニティ。君、何かしただろ」
そんなビットの言葉にインフィニティはニコニコと笑顔だ。
会話の意味は分からないけどインフィニティが何か一枚かんでいるのは間違いなさそうだ。
「ここを拡大しますね」
チャットが言うと、モニターの中心にぽっかりと丸く、黒い霧に覆われたエリアが映し出された。
「この映らない所はゲームのラスボスがいる魔王城の一帯です。そして魔王の正体はクルウルの中枢です」
やはりそうか。思った通りだ。
「もうこの世界の事は私達の手の内に有るようなものです」
そんなチャットの説明を聞きながら改めて思うんだけど、黒出流先輩の能力って凄すぎだ。
なんたって人口衛生とそれを打ち上げたロケット。これほどまでのマジックアイテムを作ってしまうなんて。
「魔王城から遥か東には私達が暮らしているこの都市。そして、魔王城のすぐ西側はエルフがおさめる土地があります。今エルフと魔王達が交戦状態になりましたよ。大規模イベント発生です」
チャット自身も意外そうに言う。
「私達の世界ってそこまで上手く出来てるのね。すごい、すごい」
美崎は嬉しそうだ。
「こう言う事も含めて、広がり続ける世界にクルウルの中枢はてんやわいや。世界改変の勢いもどんどん下がっています。してやったりですね」
チャットは口元に笑みを浮かべて言う。
「と言うことは音音救出の機が熟したって事だよね」
僕はチャットに確認する。
「はい。その通りです。行動開始ですね」
チャットはそう言って親指立てる。
「よしっ! 音音救出だ!!」
僕は声を上げた。
皆も勢いづく。
僕達はさっそく行動を開始した。
音音:「先生。先生。わたし春海君達の世界って中世ファンタジー世界だと思ってたんですけどロケットが飛んで偵察衛星が出てきて挙げ句の果ては無限に続く平面世界だなんて。まるでサイエンスフィクションじゃないですか」
吉田先生:「良いところに気が付きましたね。ただしサイエンスフィクションと言うほどサイエンスではないんです。そうですねサイエンスファンタジーと言ったところでしようか。略してSF」
美崎:「とっちもSFだ」
春海:「僕はそうだと思ってました。そもそもコンピューターの世界から始まってるから」
吉田先生:「ここで重大発表があります」
生徒達:ゴクッ
吉田先生:「悪徳領主の名前が決まりました」
生徒達:シラ~
吉田先生:「発表します。その名は、ポーカーです」
生徒達:シーン
インフィニティ:「この世界の人たちは知らないけど、現実世界に有るカードゲームだよ。何となく領主に似合いそう」
春海:「この世界? 現実世界? 何のこと??」
吉田先生:「それでは皆さん。悪徳領主、ポーカーの名をご存知おき下さいね」
生徒達:「はーい」
黒宮:「何を今更」




