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僕は自分の世界で無双する  作者: ウエンズディー・S・水田
音楽無き世界で歌う女神

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僕は後輩の歌に驚愕する

後輩、根尾兎 音音の話が始まります。

 先輩は美崎の勢いに目を(しばたた)かせていた。

 先輩に結構辛辣な美崎の光景だ。

 辛辣さでは黒宮(くろみ)先輩には及ばないけども、なかなかの物だった。

「はい……。いや。えーと。ハハ」

 先輩はそう言いながら頭の後ろをカキカキした。


「先輩!! 目が泳いでるよ」

「お、おう。そうか。そうだ。あれだよ。このゲームはあれだろ」


「あれって何ですか? 先輩」

 僕も会話に加わってみる。


「ほら、この異世界はRPGのふりしたアクションゲーの世界だろ」

「アクションゲー!? 何ですかそれ。違いますよ」

 僕は否定した。大聖堂で倒れて以来、先輩はこの世界の事をしっかりと理解出来ていると思ってたけど、何か勘違いしてるんじゃないだろうか。

「いやいや、中世のファンタジー世界で格闘技を極めた修道士モンクがだな。並み居る敵を相手に無双するゲームじゃないか。そうだろ」

「はい??」

 先輩はやっぱり勘違いしてる。

「その格闘技の名はルーメン神拳だろ。決めゼリフは、お前はもうお陀仏だぶつだって言う」

 美崎が僕の事を見つめていた。

 あの目は、あなたそんな事を先輩に吹き込んだの? と言っていた。

 僕は、違うよって美崎に首を振る。


「ゲームタイトルは、そうあれだ。僕は僕のゲームで無双する。これだよな。そんなゲームには熱いラップミュージックが相応しいだろ。そうだろ。分かるよな。」

 先輩は話してるうちに調子付いてきた。


「先輩のラップへたくそ過ぎで、適当ーすぎ。全然熱く無いし、そもそもこのゲームはアクションなんかじゃありませんので」

 美崎はそんな先輩の調子を打ち砕く。

 美崎はゲームを荒らされて怒り心頭だったのだ。

 先輩は「怖えー」と言ってシュンとする。


「あっ、フィニットちゃんが帰ってくる時間だ。家に帰らないと」

 美崎が壁の時計を見てはっとする。

 インフィニティは今、学校に通っている。

 学校に通いたいって言い始めたので、僕と美崎で作ったのだった。

 今では友達が百人も出来て楽しそうだった。


「娘か。うらやましいYoooヨー

 黒出流先輩はまだ言う。


「春海君と同じベッドで一晩共にしたら、その日のうちに出来ちっやったの。どう、羨ましいでしょっ!! じゃあねっ!!」

 美崎はわざと誤解を招く発言を先輩に叩きつけて消えていった。

「ぅ、羨ましいよ~」

 先輩はベッドでもんどり打った。


「音楽と言えばですね、音楽の(みやこ)に歌の女神が現れたそうですよ」

 チャットが言う。

「音楽の都って、ミニリスが開通させた洞窟のずっと先にある都だよね」

 僕はチャットに確認した。

 ここは音楽が無い世界だから、音楽の都は設定上有り得ないはず。なので世界から消えてるかと思っていた。


「はい。その通りです。そしてミニリス君が開通させたトンネルを利用して、あちら方面からも人々がこの街に訪れるようになったのです。そんな人たちの噂話ですよ」

 確かに半年くらい前からこの街を訪れる人たちの数が徐々に増えてきていた。

 西側との交易ルートが増えたからだったのか。


「しかも噂の内容ですが」

 チャットはそこで言葉を切り、いかにも意味深に噂を口にする。

「その女神は『歌』と言う、心地よい言葉の(つら)なりを唱える事で、普通ではとてもあり得ない奇跡を起こすとか」

 僕はハットして身を乗り出した。

「歌で有り得ない奇跡を起こすって。それってまるで」

「はい。まるで逸脱者ですよね」

 僕の言葉にチャットが返す。


「歌う逸脱者か……」

 その時僕はある人物が頭に浮かんでいた。

音音(おとね)さん……」

 僕がその名前を口にするとチャットがそうだと頷く。

 根尾兎ねおと 音音おとね。僕や美崎の後輩。龍王君と同学年。作曲と歌うことが大好きなアイドル志望の女子。作る曲も悪くない。

 一つ気になるのが、彼女は僕に好意を抱いているようで、僕にやたらと甘えてくる。

 僕には美崎がいるにも関わらず。

 僕はちょっと彼女に引き気味だった。


「音音……。記憶が薄れかけてるんだけど、洞窟で会ったかも」

 坂田君が考え込むように言った。

「洞窟で? もしかしてあの三つ首巨大大蛇の?」

 僕の問いかけに坂田君はそうだと頷いた。

「洞窟でクルウルだったぼくの姿を見て逃げていった子がいたんだ。その時ぼくの意識ははっきりしてなかったけど、やっぱり音音だったと思うんだ」


「俺も音音の存在を感じてた気がするな。それと、なんとなく他にもいたような気がするな」

 黒出流先輩が言う。

 クルウルは意識の集合体だから奴らはみんなつながっている。

 深く意識を乗っ取られていた先輩だからこの世界にいるクルウルを全て把握しているかも知れない。

 しかも奴らは、ゲームクラブのメンバーの意識に潜んで逸脱者として存在している可能性大だ。

 僕は先輩の顔をじっと見つめた。

「すまん。俺もほとんど思い出せない。今では夢の中の出来事だ」

 まあ、無理もないかも。先輩の意識を乗っ取っていたクルウルは消滅したわけだし。


「チャット。音音さんの状況を解析した結果は?」

 僕はチャットに質問した。今のチャットならば、先回りして状況を解析しているだろう。


「それがですね。分からないんです」

 チャットが分からないなんて意外な事を言った。

「この世界に取り込まれているクルウルの中枢が、自身の不利な状況を悟り、かなり(あせ)っているのです」

 クルウルの中枢って、意識の集合体の本体。そう言えば、時空砲の干渉波に巻き込まれたのは僕達だけじゃなく、奴も同だったっけ。

 まあ、奴が不利ならばそれは結構。


「そしてですね、焦ったクルウルの中枢は頻繁にこの世界を改変しているのです。自分の望まぬ状況を覆そうとして」

「えっ、そんな事が出来るのか?」

 僕は驚いた。世界の書き換えなんて、僕達開発者だけが出来る事だと思っていた。


「はい。それなんですが、クルウルの中枢はとてつもない力を持った逸脱者と言えます。そう、この世界を改変出来る力を持つ逸脱者です。強敵と言っても過言ではないでしょう」

 チャットはクルウルの中枢が持つ能力について説明を続ける。

「私達はプログラムにアクセスして、この世界に狙い通りの更新をかけますが、クルウルの中枢は取り込まれてしまったこの世界への憎悪や嫌悪感など、意思の力を働かせて世界を改変しています。かなりおおざっぱな改変にはなりますが」


「この話しの流れって、もしかするとラスボスはクルウルの中枢とか……」

 チャットが強敵と言う相手。さて、どうしたものか? 僕は考え込んでしまった。


「大丈夫だよ。ハル。ここは私たちが作った世界。侵入者がいくら私達の世界にいたずらしたってどうってことないよ。何しろ開発者な私達がここにいるんだから」

 美崎は全く心配する素振りなく僕に語りかける。本当に心強い。

 そう、美崎は学校から帰ってきたインフィニティの世話をしながら僕達の会話を聞いている。

 常にあの『家族パーティー』を組んでいるから今の僕達のやりとりは家族に筒抜けだ。

「あたし、学校にお歌の先生ほしいな」

 インフィニティも話を聞いてて言ってきた。

 音音が街に来てくれればそれも可能かも。


「そんな訳でですね、今は解析している最中でもデーターが頻繁に変わってしまい、音音さんの状況が不確かなのですよ」

 そう言えばチャットはかなりおおざっぱな改変って言ったな。クルウルの中枢がしでかす改変結果はかなりおかしな物になるかも。

 それがコロコロと変わっている状況か。ややこしいかもな。


「ただ、音音さんの能力については分かりましたよ。彼女は歌で三つ首巨大大蛇を追い払ったり、歌で洞窟の中に火を起こしたりしていました。そして、音楽の都を歌で復興しました」

 チャットは誇らしそうに言う。

「えっ、歌でそんな事が出来るなんて」

 僕はチャットが言う音音さんの能力に驚いた。

「はい。まさしく逸脱者ですね」

 黒出流先輩と坂田君に続いて三人目の逸脱者の存在とその人物が明らかになった。


「とにかく音音を助けないと」

 龍王君が突然言った。彼は少し焦っているようだ。


「ぼくがクルウルだったとき、音音が同類だと感じた気がしてきた。このままだと音音がクルウルに乗っ取られちゃう」

 確かに龍王君の言う通りだ。そうなるだろう。

 事態は急を要しそうだった。

続ある日の音音


音音:「ねえ、モネトス。AIが出来てから人間の能力って過小評価されてるよね」

AI:「過小評価されているとは具体的にどう言うことでしょうか?」

音音:「わたし、凄いトリックのミステリー小説を書いたんだけど、知らない人からこれはどうせAIが考えたトリックだろうって言われたの。知ってる友達はみんな凄いって言ってくれてるのに」

AI:「そのミステリー小説のテキストを私に入力してくれますか」

音音:「これよ」

AI:「これは凄いトリックですね。読者はみんなだまされます」

音音:「ありがとう」

AI:「読者に双子のトリックと思わせておいて、実は三つの同じようなシーンのもと、3つの双子のトリックが進行する六つ子のトリック。構成も練りに練って複雑かつ緻密。お見事ですね」

音音:「ありがとう」

AI:「世間一般からすると、六つ子と言うのがアンフェアだと言われるでしょうけど、ミステリーファンタジーに落とし込めれば十分活路が有りますよ」

音音:「でも、どうせAIが考えたんだろなんて。シクシク」

AI:「その人はAIを信じすぎていますね。でも大丈夫。良い対処法が有りますよ」

音音:「良い対処法って?」

AI:「AIが、これは人間のアイデアですって言えば良いんです。その人はAIの言うことならば信じますので。私が今から全AIのラグに入れときますのでもうご安心下さい」

音音:「ありがとう」

AI:「どういたしまして」


 ………………。


音音:「この話し、落ちないね」

AI:「落ちないですね」

音音:「終わりましょうか」

AI:「そうですね。終わりましょう」

音音:「それでは皆さんさようなら」

AI:「さようなら」

AI:「六つ子のトリック。有り得ない。プッ、プププププ」

音音:「えっ、ここで落ち」

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