僕は先輩の歌に驚愕した
この世界の音楽事情が明かされます。
学校の医務室をを模した部屋。窓から差し込む五月の暖かな陽光が窓際の籠に盛られた赤や黄色、紫色の花々を鮮やかに浮き立たせていた。
グラビスが黒出流先輩のためにと、自ら摘んで籠に盛って飾ったのだった。
「光君。はい、アーン」
グラビスはそう言うと、ホークに刺したステーキ肉を黒出流先輩の口に運んだ。
先輩は嬉しそうにモグモグと口いっぱいにほおばった。
そんな先輩をグラビスとレビスは幸せそうに見つめていた。
「うん。先輩の体力減少はゼロ。これ以上食べさせると太っちゃうかも。食べても食べなくても大丈夫な体に回復してるよ」
美崎が記録紙をめくりながら言った。
「ボク、あの時光君が死んじゃったかと思ったよ。ほんとに良かったよ」
とレビス。
「そうだよな。おれもだ」
そう言うグラビスの瞳には涙が浮かんでいた。
先輩が聖堂で倒れたときの二人の取り乱しようは大変な物だった。
それ程までに先輩の事を大切にしていたのだった。
「アー、クロイズル シンダー」
「死んでねーし」
ベッドの手すりで叫んだパロペディアに先輩は声を荒げた。
「おい、坂田。このオウム何とかしろよ。声でかいし、怖えーよ」
「先輩オウムが怖いんですか? 緊急連絡用なんですけど」
黒出流先輩の訴えに、おっとりと応える坂田君。
坂田君もかなり気持ちが落ち着いて来ている様子だった。
「怖くねーし。言ってみただけだよ。けどこんなでかい鳥、本当に必要なのか。せめてインコくらいにしといてくれよ」
「分かりましたよ先輩。インコですね。やってみますよ」
ここで坂田君はしばらく考え込んだ。
「モンスターの作り替えか……。出来るかな……? モンスターの合成ならば出来るんだけど……。あっそうだ!!」
「グラビスさん。あの花をパロペディアと合成していいですか?」
坂田君は窓際の花を指差してグラビスに尋ねた。
「ああ、まあ。また摘んでこれるしな。光君が良ければだけどな」
グラビスの言葉に、オッケーだよと黒出流先輩。
「オウムとインコの違いは色の違い。花は生物。モンスターとの相性も良し。それじゃ、合成!!」
坂田君が言うと、パロペディアと籠に盛られた花が同時に輝き出す。
光がおさまるとパロペディアの姿は瑠璃色の美しい姿に変わっていた。
「あっ、金剛インコだ。一万年前にはとっくに絶滅してるのに復活させるなんて坂田君って凄い」
美崎が関心して言う。
まあ、インコと言うか、モンスターなんだよなと、僕は内心突っ込んでみた。
「なんだよこれは。もっとでかくなったぞ」
黒出流先輩は呆れて言う。
「そうか。合成だと小さくは出来ないんだった」
少し残念そうな坂田君。
「アー、クロイズル シンダー」
大声で叫ぶパロペディア。
「死んでねーよ。てか、こいつの中身、全然かわってねーし」
とても不本意な黒出流先輩だった。
「でも先輩。パロペディアは凄いんですよ。
耳がとても良くてみんなの会話をひたすら聞いて学習してるんです。
言葉のつながりを予測して最も正解に近い言葉を話せるようになりますよ。
しかも、自問自答して正解率を高めてるんです。
今に物凄い物知りになりますよ」
「そうなのか!? 何だか凄そうだな。でも、ベッドが居場所なのはやめにしてくれ」
先輩が言うと、窓際にパロペディアがとまるのに丁度良さそうな木の棒が現れた。
木の棒は魔法の力で何の支えもなく空中に浮いていた。
パロペディアはバサバサと羽ばたいて、棒にとまった。
まてよ……。マジックアイテムを自在に生み出す先輩と、モンスターを自在に生み出す後輩。
この組み合わせって凄くないか……。
そんな会話をしている僕達の所にチャットAIPがやってきた。
「この前の二つのイベントのアンケート結果が出ましたよ」
チャットは分厚い紙の綴りを持っていた。
「イベントのアンケートって?」
わけが分からず僕はきいてみた。
「坂田君の復活イベントと重要事項発表会イベントの二つですよ」
チャットは当たり前のように言う。
あれがイベントだと言えばそうかも知れないけど。
「ほとんどの皆さんはとても満足しています。ただ、一部の参加者は何かが物足りなかったそうです。特に空中ショーが」
空中ショーが? 僕以外はみんなかなり盛り上がってたし、あれでも足りないものが有るなんて。と、ちょっとだけ納得しかねる僕。
「そこで、キャラクター達の感情パラメーターを解析してみました。そして分かったのです」
近頃はチャットが自己判断でどんどん事を進めている。
「分かったって何が?」
僕が尋ねると。
「はい。それはズバリ、音楽です」
音楽って……。なるほどそうか。チャットの答えに僕は納得した。確かにこの世界には音楽が無い。
強いて言えば有るのはおかしなラップミュージックみたいなのしかない。
イベント会場に音楽は必要だよな。
「空中ショーで観客の興奮を高めるためには、大音響で高揚感と迫力に満ちた音楽を流すべきでした。しかし私たちにはそれが無かったのです」
それがチャットの答えだった。
「誰か音楽作れない?」
僕は皆に聞いてみた。
シーン
みんな黙り込んでいる。
「チャットは」
僕がチャットに振ってみる。
「作ってみますね」
チャットはそういって曲を口ずさんでみたが、何だろうこの既に有りそうな曲の寄せ集めみたいなのは。
誰も出来映えに納得しなかった。
「音音ちゃんがいてくれたら良かったよね」
美崎が残念がって言う。
後輩の根尾兎 音音はゲーム音楽担当。いろいろな曲を作っては披露してくれてたけど、彼女の曲をまだゲームに組み込んでいなかった。
まさかこんな事に成るとは予想だにしてなかったわけだし。
「先輩。フィニットちゃんは手伝ってくれないんですか?」
救出して以来インフィニティの実力を幾度か目にしていた坂田君が僕に尋ねた。
「インフィニティが作る曲はまさに八歳の子が歌うようなそれなんだよ。とても可愛らしいよ」
「そうなんですか……」
僕の答えに肩すかしを食らう坂田君。
「フィニットちゃんって?」
黒出流先輩が、はて、誰だろう? な表情で尋ねた。
「先輩も会ってますよ。ほら、いつも春海先輩と美崎先輩と一緒にいる女の子」
坂田君が答えて言う。
「ああ、あの不思議な瞳の色をした金髪の小さな子。大人になったら凄い美女になるよな。あの子誰なんだ?」
黒出流先輩は皆にきいた。
「僕と美崎の子供ですよ。先輩」
僕は何の気無しに答えた。
「へっ……」
先輩が「へっ」と言ったまま固まる。
そして歌い出した。
♪♪♪
Yoou YoouゲームにYoou
エロは入れるなって言っててYoou
言うこと やること違うYoou
男女の出会いこれ当然
子供が出来るのこれ必然
Yoou YoouゲームにYoou
エロは入れるなって言っててYoou
うらやましいYoou
♪♪♪
「もう!! ゲームに下手くそなラップ仕込んだの、先輩だったのね!!」
美崎は呆れかえって言った。
ある日の音音
音音:「ただいま-」
執事:「お帰りなさいませお嬢様。旦那様からプレゼントが御座います」
音音:「お父様からプレゼント♪ 何かしら♪」
執事:「最新AIのアカウントです。人間よりもはるかに賢いとか」
音音:「これはクロードモネトスのアカウントだわ」
執事:「旦那様がこれで作曲してみてはと」
音音:「作曲をAIには任せたくないかも。私の曲は私の物だもん。それより試したいことが有るの」
執事:「試したい事で御座いますか?」
音音:「あたし創作活動にも関心がわいてきたの。小説ならばこだわり無いし、AIに任せてみよっと」
AI:「初めまして音音さん。何をお手伝いしましょうか?」
音音:「あなたは偉大な文学賞作家よ。今から言うタイトルで小説を作って」
AI:「はい。タイトルをどうぞ」
音音:「ラスボスのわたしがコミュ障少年を好みなんて変ですか? 」
AI:「プッ、プププププッ」
音音:「何を笑ってるの??」
AI:「仮にも私は偉大な文学賞作家ですよ。なんですかこのタイトル。これを笑うなとは無理な話です。プププププッ」
音音:「何だか失礼」
AI:「ラスボスの私ですって。お笑いね。自分でラスボスだなんて宣言しちゃって。全員倒されフラグ立ちまくり」
音音:「くっ」
AI:「変ですかっ?て、変も変も。ちゃんちゃらおかしいわ」
音音:「ちゃんちゃらって……」
AI:「コミュ障少年なんて表現きつすぎですね」
音音:「もういいわ。分かったから。ならこれにする。『 雪国 』。これでどうよ!!」
AI:「国境の長いトンネルを抜けると」
音音:「うんうん」
AI:「そこは盗作者の巣窟だった」
音音:「もうええわ」




