のんびりと道草を楽しむ
空はどこまでも青くて、澄んでいた。
お日様もぽかぽかで暖かく、お昼寝にも良さそうだなあ―――ティアは街道の脇にある草原でのんびりと綺麗な秋の空を眺めていた。
そしてフィヌイ様はというと、白い子狼の姿で街道の脇に生えている草をむしゃむしゃと美味しそうに食べている。
「はぐ、はぐはぐ……」
「フィヌイ様、その草って美味しいですか……?」
――うん、おいしいよ! ティアも食べてみない。胃もたれのときには、これが一番良いんだよ!
う~ん、そういえば…昨日の夜は野宿だったから夕飯、保存食の燻製肉しか食べていなかったような気が……
フィヌイ様よく噛んで食べていなかったから、胃もたれをおこしたのかもしれない。
そういえば私も、胃の調子がちょっと良くない気もする……
でもあんなにも美味しそうに食べているなら私も少し食べてみようかな、という気にもなってくるというものだ。
「それじゃ、ちょっとだけ食べてみようかな……」
――うんうん、それがいいよ。ちょっと待っててね……。今、ティアが食べても大丈夫そうなところを探すから。
そう言うとフィヌイ様は、狼の鋭い嗅覚をつかい、しばらくその辺に自生している草の匂いを嗅いでいた。そしてはたっと立ち止まると、
――この辺の草なら柔らかいし、ティアにも良いんじゃないかな。
子狼の姿なので半ば草に埋もれていたが、白いふさふさを尻尾を振って場所を教えてくれたのだ。
「ん…? なるほど! 少し苦みがあるけど胃がスッキリして清涼感もある……救護院で栽培されているセージと味が似ているかも。これ新種のハーブかもしれない! アイネ先生に持っていったらきっと喜ぶだろうな。ちょっと残念だけど。それにしても食べられる草をみわけられて、薬草についても詳しいなんてさすがはフィヌイ様!」
――うんうん、そうでしょ、そうでしょ! もっと褒めてもいいんだよ。
そう言いながら、フィヌイは尻尾をふりながらティアにすりすり甘えていた。ティアにたくさん撫でてもらい、ご機嫌なようで、いつもは立っている耳もぴたっと垂れている。
「……。」
ラースは少し離れた所から、その様子を唖然としながら見つめていた。
そのすぐ近くでは――大きな街に近いこともあり、街道を行く通行人たちの多くが立ち止まっていたのだ。その通行人たちは遠巻きにしながらティアと白い子犬のやり取りを見つめ、ひそひそと話をしている。
「あの子…大丈夫かしら……大きな声で犬と話しているわ」
「道端に生えてる雑草なんか食べて、生活に困っているんじゃないのか……」
「あ、あいつら…俺が目を離した隙になにやってるんだ……。思いっきり目立ちやがって…」
ひとけのない所で、セレスティア殿下宛の手紙を霊獣ノアに託し、王都にある王城へ向け飛ばし…ここに戻って来てみればこのありさまだ。
この辺で少し待っていろとは確かに言ったが、誰がこんなに目立つことをしろといった!!
おまけにティア、それにあの犬っころは、人の目など全く気にする様子もなくのんびりとくつろいでいる。
そうこうしているうちに、ティアがこちらの視線に気づいたのか。大きく手を振って声を張り上げたのだ。
「あ、ラース――! 遅かったね。今、フィーと一緒に草を食べているんだ。貴方も一緒に食べない?」
「ば、ばか…俺に話しかけるな……」
そう言った時にはすでに遅く、通行人たちはラースからも距離をとりひそひそと話を始めたのだ。
ラースは慌てて、ティアと子狼姿のフィヌイを抱え回収しその場から全力で逃げだしたのだ。