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73. デセンドの優しき第六王女ミェルVS謎の地雷系美少女スーニャ!?④(高い買い物編)

「らっしゃい! ふちちゃん、今日も美人だねぇ!」

「おじさんってば、そう言うのを最近は、せくはらと言うそうですよ」

「なはは、俺にゃ生きにくい時代だな。昭和生まれで良かったぜ! じゃあ、口止め量として里芋を三百円でどうだい。でっけぇだろ!?」

「くすくす、じゃあそれを一つ頂こうかしら」


 口止め料と言いつつ、野菜屋さんのおじさんは大きな声で喋っている。ハキハキとした日本語を喋って元気そうだ。ふちさんとおじさんの会話を眺めていると、違和感があった。口の動かし方が大陸語を喋っているように見えない。


 野菜屋を離れ、商店街を歩きながら、原因を知っているかふちさんに尋ねてみる。


「ふちさんは……日本語で喋っているのよね?」

「はい。神の力を降ろされた方には、心得のない言葉を理解し、伝える力がおまけのように与えられる事があります。世界を渡る異能や、物を無限に収納できる異能、そう言った特殊な異能をお持ちの方は与えられています」


 私は知らない言葉を理解できる様になっていた。マーケットスキルがげんいんだったのなら、成人の儀を受けた後という事になる。

 獣人語を理解できたのも、テイマースキルではなく、その加護のおかげなのかもしれない。

 ただし、文字だけは自分で努力するしかない様だ。ダンボールの板に野菜の名前が書かれていたが、それを読むことが出来なかった。


「残虚は一人で歩かない様にお願いします。くうなさんは、狐々様に気に入られているので、必ずお迎えに来てくださいます」

「ここ様はすごい方なんですか?」

「はい。異界や結界、残虚に迷い込む事を、神隠しと呼ばれています。狐々様はそれに巻き込まれて、迷った方達を現世まで案内してくれるのです」


 迷いそうになっていた私を取り返しの付かなくなる前に助けてくださったのね。思い返してみれば、建物の構造とか看板が不気味だった。


「優しい方なんですね」

「私も同じように思っております。ですが、怒らせると大変、恐ろしい方でもあります」


 彼女の一言に、待たせている王女様の事がよぎった。


 神社に建っている住居に案内され、買い物を終わらせた買い物袋を、台所のテーブルに置いた。

 冷蔵庫が置かれ、古く使い込まれた湯沸かし器が壁に付けられている。スキルの不動産で借りられるアパートに据え付けられているものよりも、遥かに古さを感じた。

 それでも、こまめな清掃が行き届いている清潔感があった。


「お買い物を手伝って下さって、ありがとうございます。私は夕餉の支度をしているので、居間の方でお待ちください」


 そう言われて、私は居間の方へ向かった。

 土足厳禁なのは慣れているので違和感はないけれど、古い日本家屋は初めてだ。


「おや、ふちが言っていたお客様ですね」


 王様よりも少し上ぐらいの、薄手の和服と同じ柄のズボンを着たお爺さんが、手をタオルで拭きながら、私に話しかけてきた。

 宮司さんという、人が居ると言っていたのでこのお爺さんの事かしら。確かに神父さんの様な雰囲気があるわね。


「は、はじめまして。クーナと申します」

「はじめまして、宮司の八兵衛です。クーナさんはハイカラさんですね。ん……ハイカラは少々、古い言葉でしたか。今の若い子はナウいでしたね」


 そういえば地雷系ファッションのままだった。商店街で歩いている人には色んな格好の人がいたけれど。私と同じような格好をしていた人は一人ぐらいしか居なかった。

 地雷系のヒラヒラを進化させた様な、真っ黒なドレスを着て、眼帯をつけた女の子を歩いているのを見かけた。ここでは奇抜な格好ではなかった様で安心した。


 それにしても、日本ではナウいという言葉が流行っているのね。


「あ、そうでした。超ベリーグッドの略、チョベリグでしたね。ごめんなさい、年寄りなもので……」

「いいえ、私は日本には行った事がないので。知りませんでした。一つ勉強になりました」


 マルに披露して、私が流行りを追えているのを驚かせてあげましょう。……チョベリグね。忘れないようにしないと。


「おや、そうなんですか。立ち話もなんですから、居間でくつろいでください。お茶を淹れましょう」

「ご同伴に預かります」


 八兵衛さんは木に白い紙が貼られた引き戸がある部屋に案内してくれた。座布団を一枚出して、テーブルの周りに敷いてくれた。


「どうぞ、座ってください」

「失礼します」


 最近は床に座って食事を食べる事が多いので、正座をするのに慣れている。土足厳禁のお家で、食事をご馳走になる事は無いと思っていた。

 練習しておいて良かった。そんな事を、私はふかふかの座布団で正座しながら思った。


 ここはワフ姉さんやエルフさん達の所とは違うようだ。あそこでは自分の手で鍛治をしたり、錬金術で物を作る。しかし、ここでは八兵衛さんに刀を作って貰うようだ。

 人に刀の制作依頼をすれば、対価というものが必要になる。


「費用はどのくらいになりますか」

「そうですね……一般の依頼はお断りしているのですが、クーナさんは特別です。全部込みで二千万円になります。しかし、クーナさんは異世界から来られた方です。日本円での支払いは難しいはずです」


 私の全財産をほとんど使って買える金額だ。だけど、従業員に支払う給料や、商品の開発や建物を建てる建材に使う材料費が、全て使ってしまっては収入も得られなくなってしまう。

 そう思うと、私の行動一つで、貧民街で雇っているみんなの生活を台無しにする可能性もあるから気をつけないと。


「クーナさんは異世界でしか手に入らない素材をお持ちでは無いですか?」


 ワフ姉さんってば、こうなる事を予想していたわね?

 ファッションカタログを参考にして買った、猫の形をした背負い鞄に入れておいた、ずっしりと重い二つの塊をテーブルに置いた。


「ミスリルとアダマンタイトのインゴットが五キロずつあります」

「魔物の皮とかでも、数があれば簡単に買える金額なんですが。これだけのものを持っているとは驚きました……ミスリルがグラム一万円、アダマンタイトがグラム六千円でいかがでしょう。それぞれ五キログラムで八千万円になると思うので、残りの六千万はクーナさんにお渡しします」


 金銭感覚がおかしくなりそうね。ミスリルなら、カクルよりも換金効率がいい。アダマンタイトだとグラムで何カクルなのか調べておきましょう。

 この際だから、ピニアの分もお願いしたい。二振で四千万円だけど、ワフ姉さんが敵わないというぐらいの刀鍛冶師だ。ピニアに最適な刀を作ってくれるだろう。


「それと……私の護衛をしてくれているメイドに、幼い頃からお世話になっているのですが。褒美に刀をプレゼントしたいのです。忍者に適した刀はありませんか?」


「忍者ですか……。もう一振り、刀も作りましょう。ただし、本人に来て頂く必要があります」

「不意に渡して驚かせようと思ったのですが、何とかなりませんか?」

「儀式を施し、その人に縁のある、神の力を降す必要があります」

「神の力を持った刀……まるで英雄助平の刀みたいですね」


 聖剣クラスの剣を二千万円で買えるなら安いわね。そもそも、値段がつけられるような物でも無い物なのに。教会の聖遺物として保管されるような物よ。


「その方はもしかして、雲津助平右衛門ですか?」


 助平に別の名前があるなんて話は聞いたことが無い。私が読んだことのある本には、スケベとしか書かれていない。


「えっと……たった数十人の部隊で、魔族に支配された大陸を解放した人達です」

「その方達は……?」

「数百年前、魔族を大陸から追い返して、大きな離島に日異という国を作りました。私のメイドが師事している、実家の執事がそこの生まれです」


 ワバルが忍者の師匠であると、ピニアから正体を告白された後に教えてもらった。彼女が忍者という事よりも、あのお爺さんの方が強いという事に驚いた。


「その方のお名前をお聞きしても?」

「ワバルといいまして、手品が上手なすごいお爺さんで、とっても優しい執事なんです」

「罠張……彼の子孫に師事している方ですか。そういうことであれば、ピニアさんの刀を私達に作らせて下さい。お代は必要ありません」


 二千万円は惜しいけれど、それでは八兵衛さんからのプレゼントになってしまう。


「私からのお礼でもあるので、お金は出します」

「では、ピニアさんが喜びそうな物に心当たりがあるので、クーナさんがそれを購入してみてはいかがですか?」


 ワバルの先祖は、八兵衛さんの知り合いだったのね。それほど、ピニアの為に作りたいのかしら。


「忍び服というのですが、黒装束……よくある忍者の格好といえば分かりますか?」

「はい。時代劇で観ました。暗い所で目立たない黒い服ですね」

「そうです。あれを着て街中を歩いたら、忍者と気づかれてしまいます。街中に溶け込める潜入服を作る、忍者が知り合いにいるので、注文してみませんか?」


 こっちにも忍者がいるのね。最先端技術を使う忍者に会えるだけで、ピニアは喜びそうだけど。


「忍者用のメイド服ですか、ピニアが喜びそうですね。具体的には、どんな服なんですか?」

「服と靴は音を消す、最先端の素材が使われているそうです。他にはレベル4だからバリスタがどうたらと聞いたのですが、あまり詳しい事は分かりません。ごめんなさい、横文字苦手な爺さんには難しくて」


 八兵衛さんは困った顔をしながら後頭部を撫でた後、お茶を一口入れ一息ついた。私もお茶を頂く。スキルで買った物とは違って、香りが豊かで甘みがあって美味しい。

 

「採寸が必要なので、それも後日にピニアさんが来て頂いてからにしましょう。刀が完成するまでの間は、ここを自分の家だと思ってゆっくりしてください」

「お世話になります」

「夕食が出来るまで、テレビでも観ましょう」

「て、テレビですか!?」


 テレビの画面自体はうちにもある。だけど、マンションでは放送電波が受信できないので、映る番組がない。テレビ番組というのは初めて見るから楽しみだ。


「クーナさんの所にはテレビが無いんですね。それにしては、テレビを知っているんですね」

「テレビはあるんです。だけど、放送する施設が無いので、みた事がないので」

「現世の番組は見られませんが、残虚で放送している番組と、過去に放送された番組が偶然映る事があります」


 八兵衛さんは、リモコンを手に取ると赤いボタンを押した。


『……の肉切り包丁、よく切れるでしょう?』


 ニコニコとしたふくよかなおじさんが、包丁を強調するように指し示している。ただ、服と包丁が赤と赤黒い液体に染められている。


『す、すごごごご、すご、いいですねええええ』


 隣で拍手をしている笑顔の女性が、首をあり得ない角度に曲げて、カクカクと痙攣している。


「ひっ!」


 怖いお話なのかしら……。私、こういうのは苦手なのよね。殺人鬼とかのパニックホラーならビンタで倒せるから怖くないのだけど。幽霊は苦手だわ。


『この包丁気になるお値段は!』

『わわわわわわわわわ!』

「おやおや……」


 テレビの中に映っているだけのおじさんと目が合う。偶然だろう。

 それにしても、どうしてカメラを見ず、横目で撮られているのかしら。不自然にも程がある。

 視線が不愉快なので、身体を少しずらす。テレビに映る男性の目は私の視線を追いかけ、私を見ている。それに気づいた時、背中にゾワゾワとした物を感じた。


「八兵衛さん、番組を変えてください……。私、怖いのは苦手なんです」

「危険なので、このまま私の後ろへ来てください」


 私は怖くなって、八兵衛さんの方へゆっくりと歩く。相変わらず、目線はこちらを追っている。


『お前らの血肉だぁぁぁぁ!』

『うわぁぉぉ……やす、やす、やすいいい!』

「きゃぁぁぁぁぁぁ!」


 テレビから手が生えて、伸びて向かってきた。私は思わず声を上げて叫んだ。


『ガキニク、ガキニク!』

「貴様は運が悪かったようですね」



 八兵衛さんは生えてきた腕を掴み、思いっきり引っ張った。大きなテレビから男性の身体が出て来る。その瞬間、うっすらと消え始めた。


「この神社の敷地には、悪霊化した穢れた魂は入る事は無いので安心してください。残虚には人間と霊体、魑魅魍魎と神が住んでいます。外に出掛けられる際は、ふちが一緒に居れば安全です」

「叫び声が聞こえましたが、くうなさんは平気ですか!?」


 残虚、なんて恐ろしい所なの。私、ここに2週間も居られるのかしら。神社の敷地に出ないのなら平気みたいだけど。それでも、怖い。

 何よりも先に、下着を新しい物に変えたいのだわ……。


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