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59.アスティルのお仕事 会議編(アスティルside)

 王族というのは寝ていても勝手に仕事を進めてくれる家臣がいる。王宮に閉じこもって女を侍らせ、与えられた簡単な仕事をこなす。自分にはそういう道が用意されていた。言ってしまえば、王族の血族としての予備。いや、魔力を持たずに生まれた俺にはそれすらも期待しない貴族もいる。

 王城の会議室で、疎ましい視線を浴びせる第一将軍のヒピストは特にその筆頭だ。厚手の布地からも分かる分厚い筋肉が、相変わらず鬱陶しい。

 俺だって好きで魔力無しで生まれてきたわけじゃないんだから。暑苦しい顔のおっさんにじっくりと見つめられるのは勘弁して欲しい。

 お前、ディグス大好きっ子なんだから、あいつの方を見てろよ。

 成人の儀でスキル発現しなかった俺に対して、手の平返してきた事は忘れてないからな。


「皆さんお忙しい中、招集に応じて頂き感謝します。一昨日発生した、デセンド王立学園襲撃事件についての会議を始めさせて頂きます」


 相変わらず叔父上は低姿勢な言葉遣いをしている。何でも、舐めた態度を取る貴族を炙り出せるから役に立つそうだ。この国で、2番目の階級にいる宰相を馬鹿にする愚かな家臣がいない事を願いたい物だけど。残念ながら、たまにいるそうだ。そいつの家は年々、少しずつ領地面積を気づかないうちに減らされているらしい。

 仕事が多い分、気苦労が絶えない役職だ。整える暇のない金色の髪の毛を、馬油で後ろに流して誤魔化しているが、何本か逆らってピンと跳ねている。

 ヘアワックスという製品を見つけたので、今度プレゼントしよう。


「手元の資料をご覧ください」


 ホッチキスで纏めた紙の資料だ。昨夜の晩、俺、ルトル、ロスコの三人で猥談をしながら作った。大変だったが、軍、衛兵隊、騎士団、メイドさんの中で最強のおっぱいを持っているのか話しながら作っていたので、楽しく作れた。

 ミェルやクーナ達にはとても聞かせられない。男三人だから出来る会話だ。またやりたいな。


「この上質な紙は何ですか。見たことがありません」


 産業省大臣が手を上げて発言する。彼からすれば、流通していない未知の紙だ。生産して諸外国に売れば大きな儲けを産むと考えたのだろう。


「それは今、この会議で必要がある質問ですか?」


 叔父上はにっこりと笑みを浮かべ目を細めているが、其の隙間から茶色の瞳孔が見えている。実質睨みつけているようなものだ。

 俺も余計な発言はしないように気をつけよう。この資料は、俺がこの国のおっぱいについて考えながら作った事を口から滑らしてしまった日には、半日ほど説教されるだろうな。


「し、失礼しました!」

「私も気になってはいますし、外貨を獲る為に仕事熱心なのは感心します。とは言え、本件と関係のない話題は時と場を弁え……」


 叔父上の説教が続いてしまいそうだ。哀れ産業大臣、他の者から視線が痛そうだ。説教で無駄な時間を過ごすのはごめんだし。彼には仕事で、便宜を図ってもらうこともある。ここは一つフォローしておこう。


「宰相、この紙の性能に関しては、この件と関係は結べる」

「私には全く、見当がつきません。王子が申している事は本当ですか?」

「襲撃者のうち五人のうちニ人は顔が割れている。そのうちの1人はコストルに潜伏していた情報がある。色付きの人相書きを皆に見せる為にこの紙を採用した。これを数百枚用意できる。そのうち、増産を彼に頼もうと考えている」


 召喚席で我々の聞いている黒色が混じった銀髪の少女、クーナが資料を見ながら悲しげな表情を浮かべる。眠そうな目つきをしながら懸命に働くいつもの様子はみられない。この報告の写真は彼女から受けた物だ。

 多分、この写真の女の子を見ているのだろう。友人として出来る事が無いのが悔しい。俺が出来る事は彼女のスキルを目立たせないようにする事だ。


 隣にいるルレは金髪のセミロングをソワソワと揺らして、緊張している。その隣に座っているペニャは一つに束ねた桃色の髪を、一切揺らす事なく微動だにしていない。姿勢良く座っているけど……あの子は緊張で固まってるのか?

 俺も本当は、表に立って仕事するのは苦手だから気持ちは分かる。話し合いはミェルに任せていたけど、妹やクーナ達にカッコ悪い所は見せたくない。


「人相書きにですか……確かに、この資料に生写しのように緻密な人相書きが、色付きで書き込まれています。本当にこの絵を、数百と用意できるのですか?」

「どうやるか気になりますね。殿下がよく喋るようになったついでに、印刷技術についても喋ってくれはしませんかね?」


 魔法省大臣は、にやにやとこちらを見ている。印刷が魔法を利用するものであれば、インフラ導入に魔法士が必要だと思って強気に出ているのだろう。あわよくば、甘い汁を啜ろうとしているのだろう。

 俺のことを見下してるメディ派のお前と協力関係を結ぶわけないだろうに。


「それについては極秘とさせてもらう」

「そうですか……魔法士が必要とあらば、いつでもご相談をお待ちしております」

「必要があればな」


 教えた所で、この人たちに再現する方法は無い。いやはや、ディグスやメディの派閥は嫌味な奴が多いが、こんなのを部下にして胃が痛くならないのか?

 濁った水にしか生息出来ない魚がいると言うし。案外、過ごしやすいのかもしれない。


「魔法省大臣……続けても良いですか?」

「はぃぃ……」


 叔父上の声がさらに低くなる。イライラとしているのが目に見えている。怒らせた本人である魔法省大臣は、宰相に睨みつけられて怯えている。次、話を遮ったら視線で殺させれそうだな。

 彼の威嚇が大臣たちに効いたのか、それからの事はスムーズに運ぶ。クーナの銃器に関しては、風魔法を利用した魔法で金属を撃ち出す高度な固有魔法として説明した。

 固有魔法は他人には簡単には使えない。代わりにその魔法の理論を、魔導銃の参考にすると思ってくれたらいいのだが。

 騙し切るのは簡単ではないだろう。


「では、これで会議を……」

「宰相、待ってくれ。報告したい事がある」

「はい、何ですか?」

「騎士団、衛兵隊の共同で特殊捜査機関を設置する。今回のような正体不明の敵対組織や外国から送られた隠密の捜査、外国による拉致被害者の捜索と救出が主な任務だ」

「何ですと、そのような話は聞いておりませんぞ!」


 デセンド軍を預かる、第一将軍ヒピストは顔を真っ赤にして立ち上がり、机を叩いた。

 全く、びっくりするじゃないか。


「相談も何も防衛はデセンド軍の管轄ではない。ヒピスト殿は防衛は衛兵隊の仕事だと口にしているだろう。関係のない話をして、ヒピスト将軍の時間を浪費させてしまうのは申し訳ないと思って、気をつかってやったのだ」

「お心遣い感謝いたします。……だが、私は反対だ!」


 反対するとは、組織設立の予算捻出についてだろう。王子である俺の権力なら、組織を設立するのは大臣に掛け合えば勝手に設立できる。中々敵の多い俺には過半数を超えた票を集める事は出来ないのは分かっている。

 

「運営財源は俺の私財から出すので、予算分配の分前が減るような事はない。だから安心してくれ」

「そんな財源が何処に……」


 足りない分はこれから稼ぐ必要がある。こちらもこちらで、クーナが取り扱えない製品を作るとしよう。クーナには内緒で、マルからの協力も得られた。

 娯楽に飢えた貴様ら大人に、異界の享楽を我慢できるかな?

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