58.望まぬ再会
「きゃぁぁぁぁ! なに、今の大きな音は何!?」
テラスまで届く轟音に第一王女メディが銃声に負けないくらいの大声で叫び、頭を手で庇いながらしゃがんでいる。
火薬の炸裂音は本能的に危機感を感じさせるのに十分なくらい効果を発揮させている。生徒以外の観戦席の人達はパニックになり、スタジアムの外へと出ようとしている。
「再装填無しで撃てる魔導銃だと!?」
第二王子も驚いている。魔力で撃てる単発の銃が開発されたばかりなのに、機関銃を見れば当然の反応だ。
「五人で襲撃とは。騎士団、デセンド軍を凌ぐ戦力があるという自信があるようですね」
「魔族であればあり得ない話でも無い。だが……あれは人間にしか見えん」
アスティルと王様は敵を見ながら冷静な様子で、手を顎に添えて考えている。仕草がそっくりでやはり親子だ。
存在しないはずの連発銃が放つ弾丸の先にはルレとペニャがいるのに、彼ら親子が冷静に事を見据えているのにはわけがあった。敵と2人の射線の先には、ビドさんとソックさんがいた。
「お前ら……俺の娘になんて物向けてんだ!」
激怒するソックさんの声はここまで聞こえるほど大きい。本気で怒っている姿を見たのは初めてだが、遠くからでも殺気を感じてしまう。
機関銃の凶弾からルレとペニャを庇った、剣を構えた2人は飛来する弾丸を弾いたのだ。
良かった……弾はルレ達に当たっていない。彼も観戦しているのだから、放っておく訳がない。
発砲した男女の足元には薬莢が転がっている。やはり、火薬を利用したアサルトライフルだ。マガジンを交換している動作をしているところを見ると、技術レベルは地球の物だ。
飛行機にパラシュート、機関銃は何世代もの技術を飛ばしているとしか思えない。私の他にもマーケットスキルを使える人がいる?
『このおっさん、せっかくのデモンストレーションが台無しじゃない!』
私は、ルレ達を襲って居る女がデモンストレーションと言い放ったのを聞き逃さない。そのせいで、頭に血が昇ってカット暑くなった。
銃の威力を見せつけるためにルレ達に銃弾をばら撒くというのであれば、もっと邪魔をしてやろうじゃ無いの!
ビドさんとソックさんが居てくれるお陰で余裕が出来た。狙撃銃に装填している弾の種類の変更とパーツを追加する。
レティクルを男性のライフルに向けて、引き金を引く。構えて動かない相手に当てるのは簡単だ。私のステータスなら、狙いを定めている時に余計な動きを止められる。相手の装備が正体不明なので不安だったが、目論見通りライフルを破壊できた。仮にあの敵の防御力が高くとも、ライフルに防御力なんていうステータスはない。
素早く、ライフルから生えたハンドルを後退させて廃莢し、押し込むと次弾を薬室へと送り込む。続けて、女の構えていたライフルに命中させる。
こちらに狙撃が出来るような、高精度の銃を持っているとは思わなかったのだろう。侮っていた相手からの思わぬ反撃に慌てふためいている。
『狙撃!? 何処から撃ったのよ!?』
サイレンサーと火薬を減らした弾を使用して、極限まで小さくした銃声からでは、私の居場所を把握する事はできない。重要人物が大勢いる。世界で一番信頼できる護衛が近くに居るとはいえ、この場所に敵の目を集めたくはな。
だから、こちらから敵の方へ近づく。
「ピニア」
コツンと靴の音が横で鳴る。
「横から失礼します」
真正面に降りたかったようだが、テラスに肘を固定して、狙撃していたので、それが出来なかったようだ。
私とアスティルが気にする事は無いと言ったのに、ピニアは離れた所で警備をすると言って聞かなかった。どうやら、スタジアムの屋根に居たようだ。
「あそこへ行きたいの」
ルレ達の方を指し示すと、ピニアは黙って頷いた。
「それでは失礼いたします。しっかりとお捕まりください。口は固く結んで頂いて、舌を噛まないようお気をつけください」
「分かっているわ」
私のレベルでもここの客席を飛び越えて、フィールドまで着地するのは出来るか分からない。ステータスが良くても、体の使い方を覚えなくてはならない。
この歳になってピニアに抱っこされるのは恥ずかしいけれど、そうは言っていられない。
「行って」
「はい、お任せください」
急加速によって体の中身が置いていかれる様な感覚を味わう。収まったかと思うと、今度は落下する浮遊感に襲われる。
自分が意図しない動きは怖いわね。内臓が置いていかれるかと思ったわ。
着地してすぐにスキルで購入した、50口径のハンドガンを侵入者に突きつける。至近距離であれば大型の魔物を駆除できる威力で、人間に撃てばひとたまりもない。剣で防ごうものなら、剣を貫通して相手を撃ち抜く。
防弾チョッキを着ても、内臓に大きな衝撃が襲うだろう。
マルからはいざという時に購入して使えるようにしておく様に言われている。レベルが高くなって、腕力が上がった私なら、片手でも発砲できる。
一発、威嚇射撃で地面に向けて撃つ。38口径とは比較に比較にならない反動だ。着弾した場所の、正方形の石畳が粉々に砕ける。
「何で、あんなのを持っている奴がいるの!?」
「防弾シールドなんて用意してない。あんなもん食らったら俺らでも耐えられねぇよ!」
「バカ、そんなのあっても意味がない。衝撃でコアを破壊され無いように気をつけて!」
地面に舞う、石の粉塵を見て私を警戒している。次は当てる意志を見せる為の警告で、銃口を一番手前にいる女に狙いを定める。
リコイルの感覚は分かった。今なら連続で発砲しても反動を押さえつけられる。
「……撤退しよう」
ライフルを私の狙撃で破壊された女は賢い様だ。
「ここでトンボ帰りしたら完全に舐められる。先にあのガキを殺せば……銃だけ使えても当たらなければいい。回転式拳銃だったか? あと5回避ければ、ただのガキだ」
もう一人の後衛が私へ、冷たい視線を向けながら大きなナイフを引き抜いた。
リボルバーの装弾数が少ないという弱点を理解している?でも、この銃は威力が高い分、五発しか弾が入らない。残り四発が正解だ。
私のスキルに保管されているお金が尽きない限り、何発でもリロード無しで撃てる事を奴は知らない。
「お願いやめて!」
「ああ、そうかあのガキ……あの時のセロマの友達とか言っていた奴か」
一瞬、心臓に氷を入れられたみたいに、胸元がヒヤリとした。握っている銃のグリップが汗で湿る。
これから撃ち殺すかもしれない相手だ。性別がなんとなくわかる程度で顔の視認をしていないせいで気づかなかった。あそこに居るのはセロマさんだ。
「貴女がどうしてこんな事を!」
何が目的なのか、全然検討できない。商売を成功させて商会を作るのではなかったのか?
「クーナ、ごめんね。私達はホムンクルスなんだ。国を作る為に、この国を侵略しなくちゃいけないの」
「何を言ってるの……貴女は人間じゃない」
「違う、人間の魔力を吸収して生きるホムンクルスだよ。私たち家族が生きていくには、人間を支配する必要があるの。だから、クーナは安全な国に……」
「嫌よ……この国には大切な人たちが沢山いる」
「クーナを危険な事に巻き込みたくないの。スタンピードは鎮圧されたから大丈夫だったけれど、今度は本当に危ない!」
そうか、スタンピードを起こしたのもこいつらか。街を守る為に戦った沢山の人を殺した。傷ついた。もしも、私たちが抑えられず。スタンピードの波に押されていたら、人という人はみんな死んでいた。
「うるさい……お前なんか友達じゃない!」
銃口をセロマに向ける。撃つかどうか何て考えていなかった。ただ、ここから居なくなってほしいということしか頭にない。
「タミサ、駄目!」
タミサと呼ばれた、私の殺害予告をした男が私へ向かって、何かを投げた。ピニアが前に立ちはだかり、短刀で払い落とす。
「お嬢様の心身を揺さぶるのでしたら、そろそろ帰って頂こう」
「ダブルアクセル」
男が2人に分かれた。1人はピニアに切り掛かる。もう1人は私に近寄る。だが、私は撃たない。撃てなかった。射線の後ろにはピニアが居るからだ。人体を容易に貫通できる銃ではピニアに当たってしまうかもしれない。
「分身の術もどきか」
五人のピニアが私の前に立っている。前で戦っているのを含めると六人だ。それを見たタミサは足を止めた。
「六体に分かれるだと……そんなバカな事があるか」
「お嬢様は血を見る事を望んでおられない。さっさと投降しろ」
「お前は危険だ……絶対に殺す。オーバーブースト!」
タミサの体から魔力の光が溢れ出てくると、素早く移動した。瞬間移動のような動きで、細かい動作は見えていない。ピニアの分身が私を守りながら応戦するが、全員ナイフで切り裂かれて、本物のピニア以外は消えてしまう。
「ぐっぅ!」
分身体の受けた痛みはピニアにも伝わるのだろうか。苦悶の表情を浮かべている。それでも彼女は短刀の構えを解かずに、私を守ってくれていた。
「ちっ……これが限界か……」
タミサの羽織っているマントは所々切り裂かれ、液体が滲み出ている。魔力光の蛍光色。赤色の血ではない。ホムンクルというのは本当の事だったようだ。
「っ……私はまだ動けるぞ」
「通りでスタンピードを起こしてもコストルが無事な理由が分かった。お前が家族の犠牲を無駄にしたのか……絶対に殺す」
タミサがピニアに向けて黒い霧の様な物を飛ばした。彼女に何かをされる前に、私は構えていた銃を発砲する。男の体に穴が空き、石畳をエメラルドグリーンの蛍光色に染めている。
「ぐっ……貴様……何を」
「遅い。そいつは戦えない。だが、今すぐここでちゃんと殺す」
黒い霧に包まれたピニアが床に倒れる。致命傷を受けているはずのタミサは動きを止めずにピニアに近寄る。
奴の受けたダメージが9ミリ拳銃程度と変わらないように見えた。明らかにおかしい。防御力が人間のものでは無い。
こっちも加減していられない。
ハンドガンを売却して、重機関銃を購入。車両を破壊する為の50口径マシンガン。こんな物は据え置きで撃つ物で、構えて撃つ物では無い。だけど、相手が相手だ。反動で私の体が宙に浮いても、当て続けてやる。
「っち……チート持ちか、ここで手打ちにしておこう。セロマ、撤収だ」
「装備の更新が必要ね。帰ったらママに相談しようよ。思ったより手強い」
「ごめん……クーナ」
セロマがスマホの様な機械を取り出して操作すると、彼女とタミサの他にも居る襲撃者が魔力の光に包まれる。
「逃すか!」
ソックさんが放送を乗っ取りしていた声の大きい女を切るが、剣は体をすり抜けた。
「たく……なんて逃げ足の速い」
ビドさんはロングソードを鞘に仕舞う。敵は撤収した。
「ピニア!」
私はピニアの元に駆け寄る。メイド服の胸元をギュッと握りしめて、随分と苦しそうに悶えている。エクストラヒールをかけるが、様子は一向に良くならない。
「どうして効かないのよ!?」
死んでしまったらどうしよう。そう思うと目と鼻の奥が潤ってくる。
「急いでベッドに連れて行きましょう」
「ピニアは無事なの!?」
「レベルキャプチャーは……弱体化したゴーストボディにマテリアルボディが引っ張られて、苦しいそうにしているけれど、命は無事よ」
ビドさんがピニアの体を難なく抱き抱える。私は、ただひたすら後悔の念しかなかった。私のせいでピニアが傷ついた。
「私が強かったら……」
タミサ……奴を絶対に許さない。そして、私を騙して、大切な人たちを殺そうとするセロマも絶対に許さない。
奴らが何を思って、この国を支配しようとするつもりなのか理解するつもりはない。私が全力でそれを阻止してやる。




