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51.焼きそばを布教する少女クーナと苛つく王女

奴が居た。そうか、あいつが第一王女。王位継承を持つ、第三勢力であるメディ王女はアスティルの敵でもあり、私の敵にもなった。

 こちらの視線に気が付いたのか、私の目と合うと、カッと目を見開いて驚いている。先程の事は記憶に残っている様だ。

 私の事は記憶には残していてくれたようね。


「どうしたクーナ、聞いているか?」

「いーえ、何でもないわ」


 ここで先ほどの件をアスティルに話すと、ルール違反になる。あの性格が悪そうな女のことだ、向こうから難癖をつけてくる可能性もある。


「そうか。腹が減ったのだが、収納魔法で何か食い物は保管していないか?」


 当然そんなものは、私には使う事ができない。

 空間魔法の一つに収納魔法が存在するが、極めて難しい魔法だ。アビリティ化させる為には高確率で失敗する魔法を何百と繰り返し使わなくてはならない。収納魔法はスキルでは無いので、マーケットスキルで覚える事はできない。

「収納魔法ね。何か食べたいのはあるかしら」


 マーケットスキルではなく、収納魔法という体ね。つまり、私は優秀な魔法士という設定なのかしら。


「軽食がいいな。出来るだけ種類を多くしてくれ」

「お兄様はよく、お食べになりますから」


 マンションに遊びに来た時はよく食べるものね。作っているピニアも、アスティルの食欲にちょっと引いていたわね。


「うちの宿でもアスティル殿下は……」

「殿下? ハイラは確か……」

「水臭いですよ」

「……アスティルくんがうちの店で食事していた時の食べっぷりが凄くて、父さんが凄く喜んでたよ」


 どうしたのだろうか。急にハイラさんがアスティルへの呼び方を変えた。

 なんだか気になるけど、私はやりたい事がある。アスティルはスキルを披露しろと言っているのだ。あくまで、豊富な物を収納している魔法が使えるという体で。様々な物を入れて未知の商品を取り扱っているという事を。


「焼きそばを食べたくはない?」

「カップ麺だろうか……あれは好きだが。今は、もっと何こう……」

「そうでは無くて、生麺と具材をちゃんと炒めて作ったものよ。キャンプの時食べてからお気に入りなの。私でも簡単に作れるし」

「それは是非、頼む。インスタント麺よりも本物はとても美味いのだろう?」


 ごめんなさい。アスティル、あなたを利用する事になってしまう。お茶会を楽しんでおられる、第二王女から第五王女の皆さん、お茶を楽しんでいるところに、ソースの匂いを撒き散らす事になってごめんなさい。

 後でミェル経由で美味しいスイーツを提供させていただきます。


「出店しているお店の焼きそばよ。試食して、感想を頂けるかしら?」


 デセンド王国立学園の戦闘試験見学日の出店。そこのクーナが出店している、シュイラが調理している焼きそば。

 それは明確な設定で検索すれば、マーケットスキルでも購入する事ができる。お値段500カクル。宿屋の素泊まり並みのお値段だ。

 日本では大衆的な食事らしいが、この国で豊富なスパイスを大量に使った料理は高級な料理とされている。むしろ、たかが小麦粉の麺に、それを使うなんて事は贅沢の極み。

 列の中に貴族の学生が並ぶのも当然だ。


 更に、食品の安全性と味を追求するのに余念がない国で生産された食材も豊富に使っている。食通で名の通っているアスティルの舌を唸らせる事ができれば、味は保証されたも同然だ。


「カップ麺とは大違いだな。既に香りが違う。具材も沢山入っている。あれはあれで好きだが、夜中に小腹が空いた時に食うのがいいよな」

「よく分かるわ。作業中、お腹が空いた時に私もよく食べるわ」


 アスティルとミェルは焼きそばを食べ始める。彼はマンションにいる時は啜るが。ここではマナー違反になるので啜らない。箸で器用に口に運んでいる。口元にソースで汚すなんて事はせずに。綺麗に食べている。


「豚肉とキャベツが程よい火加減で炒められているな。麺も丁度いい。とても良い味だ。醤油は人を選ぶが、この香辛料のソースはデセンドの食文化に合う。だが……啜れない状況で食う物じゃないな。気取る必要のある上流階級では食えん代物だな。一生後悔するだろう」

「とても美味しいですね」

「上流階級どころか、アスティルとミェルはこの国の二番目に偉い階級じゃない」


 ドレス姿のミェルと焼きそばの場違い感がえげつない程に合わない。それでも難なく汚さずに食べられるミェルはやはり王女様だ。


「つまらん飾りで、うまい物を食い逃すくらいなら必要ない。人間はいくら偉くなろうと、食欲の奴隷なのだ。現に、お前が父上に売ったワインを求め、アンデットの様に彷徨う貴族が大量におるのだ。……次は城の客室を全て、地球製のマットレスにしてみるか?」


 不眠症の人が続出したら可哀想なのでやめといてあげましょう。

 デセンド国内有数の食通に、シュイラさんの焼きそばは高評価を受けた訳だけど。それを侮辱した方はどう思っているのかしら?

 横目で第一王女の様子を見ると、私の事を睨みつけていた。親の仇を見る様な目だわ。ちょっと怖い。


「やはりクーナ殿も来ていたか。ゆっくりしていくといい。先日のアレを飲んだ貴族達はとても喜んでくれた」

「お役に立てて何よりですわ。他にもウィスキーという物もあるので。今度、お試しください」

「今、飲んでも良いか?」

「度数が高めですので。おすすめは致しかねます。他にも薄めの物にいたしましょう」

「他にもあるのだな。楽しみだ……ところで、アスティルとミェルが食しているのは何だろうか?」


 アスティルの食いしん坊の遺伝子は当然親から譲り受けた物なのだろう。馬で子供の帰りに駆けつけ、見知らぬ料理に食いつく王様だ。焼きそばに反応しないわけがない。


「焼きそばですよ。私のお店で作っている商品でして。お二人にご試食をお願いしました」

「とても食欲をそそる香りを放っているな」

「王様も召し上がりになりますか?」

「ああ、是非とも」


 王様まで椅子に座った。平民、貴族騎士、伯爵令嬢、王子と王女、王様が同じテーブルを囲んでいる。何かしらこのテーブル、何かのボードゲームの様になっているわね。


 第一王女の眼光は更に激しくなる。目があったので軽く微笑んでおく。声をかけてはいけないルールなので、愛想笑いは範囲内だろう。


 スキルで新しく焼きそばを出した。当然、スキルで出したものは毒物混入の危険が一切ない。王様もアスティルとミェルも知っている事だ。


「ご賞味いただけます」


 メイドさんは一言、王様に掛けた。焼きそばに鑑定スキルを使ったのだろう。このスキルだけは生まれ持った素養で、とても貴重だ。

 食事の鑑定ともなれば、その為に時間を取って料理を冷ましてしまわない様に素早くスキルを使いこなさなければならない。

 便利なスキルを持つと、周りから楽そうに思われるけれど。マーケットスキルも知識が無ければ、何も出来ないのと一緒で、理解を得られないと、それがストレスになるのよね。


 ウィッテさんというメイドさんは、以前に城の中で、ミェルの部屋へ案内してもらった事がある。


「そうか、では頂こう」

「フォークと箸、どちらを使いますか?」

「箸がいいな」


 王様に箸を渡すと、そのまま箸を進め始める。彼もあらゆる食に精通しているのだろう。


「成程、これはフォークで食うには食べづらいな。見た目も王宮料理として出すには彩に欠けるがとても美味だ。しかし、あそこの観客席で食事するのであれば非常に優れた食べ物だ。気にせずに食せる立場で本当に良かったと思う」


 王様も経木に乗った焼きそばを綺麗に平らげた。高評価を貰えて良かった。それにしても、私が買ったことによって、売上に変化はあるのかしら?


『クーナ、焼きそばを三つ買いましたか?』


 マルはお店にお留守番してもらっている。いつでも連絡出来る様に、インカムを耳に入れているけれど。スキルで購入した事によって、何か起きたのだろうか?


『ええ、買ったわ何かあったの?』

『焼きそばの温度を見るために、サーモカメラを起動していたのですが。人間ではあり得ない熱源を持った人がいました。ついさっき、その人が焼きそばを3個買って行ったのです』

『2回に分けて来た?』

『いいえ、一回で3個でした』

『おかしいわね。さっき二つ買ってから。今、一個買ったのよ』

『不思議です……しかし、我々の為に動いてくれているという事でしょう』


 害どころか、私の為に行動してくれているみたいだものね。あまり深くは考える必要は無いかも知れない。とりあえず、商品は対価を払って、実物を用意してきているという事だ。


「クーナ殿、さっきの酒の話はどうなっただろうか?」

「父上、一応はこれも執務ですよ」


 ミェルは王様に向け、不機嫌そうに言った。それを聞いた王様はポリポリと指で頬をかく。


「クーナ殿と会話できる機会がないものでな。飲んだことがない酒を試飲するというは、仕事でもあるぞ?」

「父上に飲ませられる物で、何かあるか?」

「ビールはいかがでしょうか」


 リェースは水が貴重だから、日照りが続く時には薄めたビールを飲む事があった。栄養価も高いから重宝されるけれど。喜んで飲みたい物では無かったわね。

 地球で飲まれるビールは、私達と同じように生活物資として愛飲されていたけど、現代では嗜好品として進化しているらしい。

 

「ほう、クーナ殿が用意した物であれば期待できるな」


 ビールジョッキに量り売りのビールを注ぐ。マーケットスキルの良いところは、食品は食べる際に、最善の状態で出てくるところだ。

 コンビニ弁当や冷凍食品なら暖かく。飲み物であれば、温かいものと冷たい物を選択できる。

 ビールのツマミとして唐揚げを入れると、最強のコンボが完成するとマルがいっていたわね。


「どうぞ」

「フライか……これは何をあげた物だろうか?」

「チキン、唐揚げという料理です」

「これは……かなり冷えておるな。そなたの収納魔法は氷室まで用意してあるのだな。フライも揚げたてか……」


 唐揚げと生ビールは居酒屋というお店の商品のメニューの一つだ。元々、ビールサーバーを用意して、唐揚げを作って売るのはどうかとマルが提案した。しかし、食堂をやるのであればシュイラさんに仕事慣れをさせる為にも、焼きそばを提供するのはどうかという、ハイラさんの提案に決定した。


「むむ……これはいかん」


 王様は気がつくと一瞬でビールを飲み干して、唐揚げを平らげてしまった。


「クーナ殿……おかわりを」

「お父様、試飲……の筈ですよね?」

「駄目、だろうか。思ったより直ぐに無くなってしまったのだ」

「父上、それは俺も庇う事は出来ません。他にも食事があるので、それで我慢してください」


 ツカツカとヒールの音を立てながら、こちらへ歩いてくる女性が一人。教養が見て取れる歩き方は、相応の立場にあるという事が見て取れる。当然だ、その人物は第一王女なのだから。

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