49.訳ありミスリル
カツンと軽いものが勢いよくぶつかり合う音が、部屋の中で響き合う。ルレがロングソードを模した樹脂製の剣を縦に振るうと、ペニャが左手に持つダガーで斬撃の軌道を逸らせた。右手に持つレイピアが、ルレの胸元へと迫る。樹脂製で丸みを帯びてはいるが、一点に集中した衝撃を受ければ、痛みで悶絶する事は間違いない。当然、その痛みを防ぐ為の防具を二人は装備している。
ペニャは急所に自分の攻撃が当たると確信していた。しかし、ルレもパリィの事を把握している。当然、対策も立てずに攻撃したわけではない。左手を剣から手放し、左の胸を後方に下げるようにして、身をよじって避けた。隙を見つけた彼女はそのまま、蹴りをペニャに向けて回し蹴りを放つが、当たる直前で後ろに飛び退かれた。
お互いのリーチ外に入った二人が、剣を構え直す。
「これでレベルが私より下って、どうなってるのよ。本当に自信無くしそう」
心なしか、ペニャのレイピアが下に少し下がる。
「ステータスで魔物を圧倒できる訳じゃないから、低くても絶対に負けるわけじゃない。それに人間と魔物は違うわ。わざと攻撃を当たると思い込ませて、油断を誘う罠を仕掛けて来るの」
「筆記で合格点超えられなかったから、戦闘試験に参加できなかったけれど。ルレと対人戦できてよかったわ」
「二人とも私からすれば強いわよ」
「クーナもスポーツチャンバラあるからそれで試しにやってみろよ」
酒を飲みながら見学していたワフ姉さんがニヤニヤとしながら言った。当然、二人にはなすすべもなくやられるだろう。
「クーナはレベルが高いから相手にはなるんじゃない?」
ルレからスポンジ製の剣を貰う。これなら本気で打たれてもそこまで痛くはない。肉体にダメージが入るような痛みは、軽減できるがそれ以外の地味な痛みは普通に感じる。
「そうかしら」
試しに、剣を軽く振るってみると。凄まじい風切り音が鳴った。
「は、速い……スタンピードで魔物を大量虐殺しただけはあるわね」
ペニャが私の振るうスポチャンのスピードに驚いている。私もステータスの向上ぶりに驚いたわ。
「大量虐殺って……もう少し言い方があるでしょう?」
一方的な攻撃だったのは間違いないけれど。
それでも、悪行みたいに言わないで欲しい。
ペニャだって沢山倒してる筈だ。
「助かったのはそうなんだけど。兵士がどんどん戦えなくなってる筈なのに、何故か不利な状況で、魔物がみるみると減ってくのには恐怖を感じたわ」
「鐘の塔で見てたけれど。側面から魔物を蹂躙するクーナとピニアは凄かったわね」
私はスポチャンを構える。それに合わせて、ルレも構えた。
「クーナはレベルいくつなのよ」
ペニャが私に質問してきた。そういえばレベルを教えた事がなかった。多分、彼女とそんなに変わらないと思うけど。
「コストルにいる時で48ね」
「よし、やめましょう。私まだ死にたく無い」
ルレが構えていたスポチャンを下げた。
「私の倍以上じゃない!」
「迫撃砲の経験値って私にカウントされたとしか思えないのよね。マルの倒した魔物の経験値は私に来るみたいね」
マルは神様的に、装備品として分類しているようだ。物ではなく、大切な家族と思っている私には悲しい事実だ。
「おもちゃで私を殺す気なの?」
そう言うセリフを読み物で見た事があるが、相手の武器を侮辱するセリフであって。殺せるはずが無い物で、殺人未遂を指摘するような意味ではなかった筈だ。
「死ぬ事はないでしょう。おもちゃよ!?」
「あんたね……。魔族と普通に戦えるレベルよ。私の倍、修羅場を越えないとそこまで行かないわよ!」
「だって、私はピニアやソックさんにも勝てないのよ。拳銃の弾だって効かないし。魔族に勝てるわけないでしょう?」
ピニアは平気で飛んでいる拳銃の弾を摘んで拾う。それを見たソックさんも同じ事をしていた。
「ピニアやラルンにお父さんは規格外だから。三人とも時代が時代なら、英雄になれるクラスよ。街の防衛が無いなら、あのスタンピードの中に放り込んでも三人で全滅させるわよ」
「あの宿の主人も尋常じゃないわね。どうなってるの、コストルの防衛力。下手な要塞より安全じゃない」
ピニアは私がいてもスタンピードの真ん中を直進できると言っていた。彼女は出来ない事は出来るとは言わない。
「おまけにコストルと王都を繋げられるクーナがいるのよ。ヴェイゼアとゼゼンダルが同時に侵略戦争を仕掛けて来ても圧勝ね」
「その時は向こうのお城に、人がいない場所にへラジコン飛行機で爆弾を大量投下して、警告する予定よ」
アスティルが安全に決闘で勝てる装備を作れなかった時の場合だ。
ただ、相手が理解できない攻撃をすると、恐怖で冷静さを失って、がむしゃらに攻めてくる可能性があるから、それは最終手段だ。私もむやみやたらに人を殺したくはない。
「この子、一国の王を脅迫しようとしているのね。こんな規格外な生き物に対抗心持っていた過去の自分が恥ずかしい……」
「落ち込む必要はないのよ。私たちの周りがおかしいの」
ペニャが俯いたのをルレが慰める。そのおかしいのは私も含まれているのかしら?
「分かるわ。殿下って凄いのよ。アビリティも無いのに、私よりもレベルが高いのよ。護衛が居るから経験値減っている筈なのに、20超えよ。私、護衛対象よりレベル低いのよ?」
「今度一緒にダンジョンに潜りましょうね。沢山レベルを上げましょう?」
「わ、私も一緒に」
私もダンジョン探索はしてみたい。
「そうね。一緒に行きましょう。そして、私たちの経験値を減らすがいいわ」
「そ、それは」
「嘘よ、嘘。クーナとピニアがいた方が安全だもの。戦闘に加わらなければ、経験値もそこまで削られないわよ」
入学して、落ち着いたらダンジョンに行ってみるのも良いかもしれない。リンドル領には複数のダンジョンが組み合わさった、巨大ダンジョンも近くにあるらしい。
「さてと、大体コツは掴めたわ。感じていた通り、私の望む戦闘スタイルね」
「スピードに特化したペニャなら使いこなせそうね。完成したらちょっと怖いかもしれない。これは私も負けていられないわ」
「それじゃ、作るのはレイピアとダガーでいいのね?」
レイピアは細身剣なので、余ったミスリルでダガーを作れる。もう少し材料が欲しいけれど。
「足りねぇから。手軽にミスリルをくれる奴が居るから、そいつに何か渡せばくれるぜ。エロ本の一冊でも用意してやったら満足するだろ」
「エロ本というものを買えばいいのね?」
エロ本という物をマーケットスキルで探すと、そこには目を覆いたくなるような物が並んでいた。女性の裸がスクリーン全体を支配している。
「エッチな本じゃない!」
「だから、エロ本だっってんだろ!」
「こんなのでミスリルくれるとか、その人は絶対に頭おかしいわね……」
スクリーンから目を逸らして、適当なエッチな本を購入する。そのままワフ姉さんに渡した。すると、床にインゴット五つ重なっておかれていた。数億円分の価値はあるかもしれない。
「女の子からエロ本もらって、すげぇ興奮したから奮発したってよ。泣いて喜んでいたぜ」
「私に感想を聞かせないでくれるかしら!?」
「え、私の剣はエッチな本の対価で作られるの?」
「こんなに沢山あるなら、魔法剣をミスリルで作って貰えるかと思ったけれど。うん、せっかくクーナが作ってくれた剣だもの。今のままがいいわね!」
「遠慮しなくてもいいのよ?」
柄を付け替えるだけだし。時間は沢山あるから作れる。
「まだそんなに使ってないからいいのよ!」
「別の! 別のミスリルは無いの!?」
「他だとエロDVDとプレイヤーとか、パソコンのエロいものとかだな。エロ本が一番安くて済むぜ。ははは、野郎は単純でいいな!」
「全部エッチじゃないの!」
「ミスリルはミスリルよ。この子に罪はないわ!」
余った分はアスティルに押しつけましょう。彼なら、ミスリルの取り扱いにツテがあるはず。その売上を貧民街の開発に使って……。開発された貧民街や、ペニャのレイピア見るたびに、エッチな本の事がチラついたらどうしよう。それはとっても嫌だわ。
「ぐむぅ……仕方ないわね。その代わり、いい物を作ってよね!?」
「任せて、いい物を作るのを約束するわ!」
ペニャの剣を作るのに集中して忘れる事にしましょう!
残りのミスリルを売って、重機を買って下水道を王都の下水道までつなげたり、道の舗装をしてみるのも良いかも知れない。
最先端のコンクリート舗装を使えば、黒色ではない舗装が出来るらしいから、景観を損なわない。
スキルを使えば石畳の舗装を一気に出来るけれど。街の中を全部、私がやる訳にもいかないものね。材料だけ用意して、他の人にやり方を教えて工事してもらいましょう。
「運動後のおやつを食べましょ!」
「ペニャってば……終わったら、勉強するのよ。私が教えてあげるから」
「ここからでなければ……試験は来ないのよ……ふふふ」
私がレイピアを作るまでに、ペニャはちゃんと勉強を終えられるのかしら?




