48.お髭もこもこのドワーフはアニメ声
「いいと思うわよ?」
王様とアスティルからのお願いは、ルレに不都合がある物だったが、彼女はあっさりと納得した。
「あの人、剣が折れてギャン泣きしていたもの。私も気にしていたのよ。クーナが直してあげられるならやってあげて」
重さを考えても、ミスリルソードは一本七億円ほどする貴重な一振りだ。それを切られてしまったら、大の大人でも泣いてしまうかもしれない。
「全く、もしかして私がペニャがミスリルソードを使ったら不利になるから気を使ったの?」
「一応ね……」
ルレが、自分に有利だから修理するな。なんて事は絶対に言わないと思うけれど。念の為に本人に確認した。
「あなたが作った魔法剣は優秀よ。本気を出せばミスリルソードを切れちゃうんだから。試験では魔力超振動は使わないから」
「重量操作だけ使うの?」
重さ1キロの魔法剣を半分の重さにしたり。100キロ以上にも変化させられる。魔力次第でもっと重くする事が出来るだろう。
「だって、試合が一瞬で終わるし。私の実力じゃなくて、剣の性能だけで勝つのはちょっとね。それに技術評価が高くならないのよ」
「それなら受ける時に、軽く振動させると良いわよ。こっちの切れ味も悪くなるけど、向こうの切れ味も悪くなるから。頭身を傷つけずに済むわよ」
「そうだ。ついでに私のもメンテナンスしてもらってもいいかしら?」
「ええ、ルレも一緒に行く?」
「え、あの部屋の中に行けるの?」
「私と一緒なら入れるわよ」
ワフ姉とエルフさんも、連れてこれると言っていたから間違いない。
「じゃぁ私も行くわ」
あとはペニャからミスリルソードの修理依頼を受けに行こう。マンションから出て、ペニャの部屋に向かう。彼女の部屋は隣の扉だ。
「ペニャは部屋に居るかしら」
ルレは木製の扉をノックした。意外にもルレとペニャは仲が良くなっている。私とはあまり関わりを持って来ない。と言うよりかは遠慮しているかのようにも思える。
高圧的な態度は無くなったが、向こうから声を掛けてくることはない。
「今、出るわね」
ドアノブが回ると、ペニャが扉を開けるとスウェット姿で出てきた。以前、マンションの風呂に入った時に譲った物だ。
更にひんやりと冷やしてくれるシートを額に貼り付けている。その姿から、彼女が騎士であることは想像もできないだろう。
「2人してどうしたの?」
「王様がミスリルソードを直せないか聞いてきたの。私でよければ専門家に教えてもらいながら出来るのだけど」
「いいの……?」
ペニャは私ではなく、ルレの方を見ている。
「これから数日間、ルレと一緒にワフ姉さんの所に籠るの」
「籠るって試験はどうすんのよ」
「入ると時間が経過しない、鍛治のできる部屋があるの。だから試験には間に合うわよ」
「時間が……経過……しない!?」
「その顔は気づいたようね」
私も気がついた。ルレは剣のメンテナンスが気になるわけでは無かった。時間が経たない事をいいことに。この二人は試験勉強をするつもりだ。
「わ、私も……お願いします!」
「ど、どうしたの?」
ペニャらしからぬ言葉遣いをしながら、ゆっくりと近寄って来る彼女の姿に、私は威圧されてしまう。
「寝てないの……お願い、一睡だけでいいから……お願いします!」
がっしりと、私の肩を掴む。私をジッと見据えるペニャの目が怖い。
「分かった! 分かったから離して!」
ペニャに折れたミスリルソードと勉強道具を持って来させて、マンションに戻り。リビングからワフ姉さんの鍛冶工房に移動する。
「ワフ姉さん、ごきげんよう」
「お邪魔します」
「邪魔するわよ」
「おうクーナ嬢、久しぶりだな」
「2週間も経っていないけれどね」
以前、ツルツルに剃り上げていた筈の髭が元に戻って、モコモコの髭に顔が覆われている。
ドワーフとは言え、そこまで早く髭が生えるわけでは無いはずだ。多分、時間の経過が曖昧なこの空間のせいだろう。
私には数日間でも、ワフ姉さんには違うのかもしれない。
「クーナの家には、こんな小さいおっさんが住んでいたの?」
ペニャがワフ姉さんを指差して、おっさん呼ばわりをした。ワフ姉さんは長年生きているだけあって、簡単に怒るような事はないが、彼女の失礼な言動は愉快ではないだろう。
「いきなり失礼な奴だな。俺はドワーフの女だ」
「そんなしゃがれた声なんておっさんそのものじゃない」
「そんな、酷い……私だって女の子なのに。……これで満足か?」
ワフ姉さんからは、アニメ作品に出て来る女子が出すような声を出した。いつもの酒枯れ声の面影は無い。
「ごめんなさい……本当に女の子だったのね」
「ペニャってば、苦手な勉強漬けで、イライラしている分かってるけど。ワフさんに失礼よ」
「慣れてっから気にすんな。しかし、今日は友達連れか」
「ええ、この失礼な子……ペニャのミスリルソードを直してあげたいのよ」
「あー、じゃぁ。そっちの嬢ちゃんが魔法剣使いだな? そんで、この失礼娘と特訓してたらミスリルソードをぶった斬っちまったところか」
「そうなの。明日から試験でそれまでに直してあげたいのよ。どうやって折れた剣はどうやって継ぎ直せば良いの?」
「そいつは俺でも無理だぜ。継いだ剣は見てくれをよくしても。簡単に折れちまう」
ワフ姉さんが無理ということは。私にもできるはずがない。作り直すしかないのか。
「クーナってば、剣の事を知らないのね。直すって言うのは、鋳直すって事なのよ。一から作り直すの」
ペニャは得意げな顔をして、私に向かって言った。確かに直すと言っているのだから、知っているはずよね。
こんな空間があるとは思わないだろうし。
「そうだったの、知らなかったわ。ペニャは剣に詳しいのね」
「ま、まぁね。騎士としては当然の知識よ」
「ミスリルは硬い、マジで硬い。だがクーナ嬢は並のドワーフと同じぐらいの腕力があるからな。叩けると思うぜ」
「私の身長をディスってるなら、メチルアルコールを振る舞うぞ酒乱野郎」
「ど、どうしたのクーナ?」
私が絶対にしないであろう言葉遣いをしてしまったので、ルレが驚いて心配している。つい、ワフ姉さんとの会話の癖が出てしまった。前回の来訪時に散々身長についてからかわれ、お互い軽口を叩くようになった。
「心配するなって、成長期はまだ何年もあるだろ。そういう意味で言ったんじゃねぇ」
「早とちりしてしまったわね。ごめんなさい」
ルレとハイラさんの身長が、最初にあった時から半年で、目に見えて高くなっている。それなのに、私には大きな変化がない。一応伸びてはいるけれど。数ミリという小さな数字だ。
「ドワーフはガキでも腕力が強いんだ。それとミスリルの扱いだな。この金属は不純物だけじゃなくて、魔力を抜かないといけねぇ。これはドワーフから教えてもらわねぇと出来ねぇから。俺が教えても、ドワーフ以外の種族には秘密にしてくれよ。守らないと祟られるからな」
「込めるのではなくて、抜くの?」
「そうだ。魔法剣作るのに魔力プラチナ触媒があっただろ」
私が散々、作り直し、失敗すると素材ごとやり直す羽目になった部品だ。あれには本当に苦労させられた。たまに作らないと、勘を忘れてしまいそうね。
「あれはミスリルの特性を擬似的に作る部品の一つだ。満遍なく通した刀身に質量変化を起こす仕組みだ。ミスリルに含有している魔力をいじれば、アルミみてぇに軽くなるし、重くも出来る」
「あるみって何?」
「鉄よりも軽い金属だよ。柔っこいから剣にはむかねぇ。ミスリルは鉄よりも硬くてアルミみてぇに軽く出来る」
「私、軽いのが良いのよ。使っている時はいつも思ってたの!」
「ペニャは速い攻撃が得意だし、軽くて硬い剣が合っていそうね」
「かわりに重い攻撃への防御が無くなるけど、化け物相手には嬢ちゃんの軽さじゃ、半端な防御は意味がねぇ。軽くしても良いだろうな。そうさな……嬢ちゃん、これ持ってみな」
ワフ姉さんは、壁に飾っている細い刀身の一振りと短い短剣の一振りを手に取り、細い方をペニャに渡した。
ペニャが鞘から剣を抜くと、ピッタリと収まっていた剣が抜ける心地よい音が、聞こえて来る。剣の為に鞘があり。鞘の為に剣があると思えてしまう。ワフ姉さんが優れた匠で。全ての作業を一人で完結させている事を物語っている。
「気持ち悪いくらいしっくりくる鞘ね。こんなに技術の高い鞘なんて初めてよ。細くて、華麗な剣ね。でも、こんな刀身で攻撃を受けたらすぐに折れちゃうわよ」
ペニャは引き抜いた鞘をワフ姉さんに差し出した。
「よせやい。照れんだろ。それは攻撃を受け止める剣じゃねぇ。隙を作って、急所を刺す武器だ」
そう言いながら、ワフ姉さんは短剣の柄をペニャの左手に持たせる。彼女が引き抜くと、刃が鞘から現れた。背中には櫛状の装飾が施されている。
「こっちは見た目よりも重いわね……。二刀流なの?」
「これはパリイングダガーだ。こいつで防御をするんだよ。レイピアが無い土地柄のようだから、レイピアの破壊には使えねぇけど。こいつで相手の刃をロックすんだよ」
ワフ姉さんはダガーの背中にある櫛の部分を指差しながら言った。よく見ると、先の部分に返がついている。そこで刃先を引っ掛けるようだ。
「凄い使ってみたい……けど、慣れるのに時間がかかるし。戦闘試験があるのよ」
「それなりに広い部屋がある。樹脂製のおもちゃで、そっちのルレ嬢と剣が出来るまで遊んでろよ」
「ペニャの実力なら新しい武器を使うぐらいが、試験で丁度いいハンデになるんじゃない?」
「初めて触る武器で私と拮抗するルレは、相当おかしいんだからね」
「魔法剣が使いやすかったのよ」
「まぁ触ってみろよ。合わないようなら、元の形と似た物をクーナに作らせてやるから。ルレ嬢は色々ある武器を使って、使い勝手を試させてやれ」
「壊しちゃったのは私だものね。一応、槍とか大剣も使えるから。いくらでも付き合うわよ」
そういえばソックさんはいつも片手剣を腰に据えている。スタンピードの時は大剣と槍を背中に背負っていたわね。
「その前に……寝かせて?」
「何でスウェット着て、額を冷やしてんのかと思ったぜ。試験勉強してたんだな。いいぜ、寝てこい。そっちの方にある適当な部屋を好きに使え」
ワフ姉さんは客室のある扉を指差しながら言った。ペニャはそれに従って、ふらふらと扉の向こうへと向かった。ルレはそれに付き添った。
「クーナ嬢はどうする?」
ひとまずペニャの意見を聞くまでは作業はできない。ワフ姉さんもそう思っているのだろう。私が、彼女の為に買い置きしておいた酒瓶の一つを冷蔵庫から取り出して、瓶ごと呷った。
「あ、そうだわ。これも置いておきましょう」
冷蔵庫に、マーケットスキルで甘酒を購入して置いておく。
「それならクーナ嬢でも付き合える訳だ」
「ワインも飲めない事は無いのだけど、美味しく飲めないのに我慢して飲んだら、作った方に悪いもの。美味しく飲める方に好んで飲んでもらった方がお酒も幸せでしょ?」
リェースにいる時には、水代わりに仕方がなく飲む事はあった。お父様に似なかったのか、アルコール耐性は強い。一本開けたところで泥酔する事はないけれど。酒気の匂いが苦手だ。やはり私は、水やお茶の方が私に合う。
マルも成長期が終わるまでは、飲まない事を勧められた。マルが言うには、様々な食べ物を食べて、匂いに耐性をつければお酒の匂いも好きになると言っていた。
「奈良漬とかブランデーケーキの食い物。ノンアルコールビールでも酔うから気をつけろよ。酒に関連する物は何でも加護の対象だ」
元々、私が信仰していたヒェザム教は亜人を崇拝しないので、ドワーフの神が存在しない。酒の神でもある神の加護は得られない。だから、私は酒精の低い甘酒で酔う事は出来なかった。
しかし、ドワーフの神様からは嫌われていないようだ。ワフ姉さんの所で何日か過ごしたあと、私にもその加護が授けられた。今は甘酒でも酩酊感を得られるようになった。感覚的には甘酒一本がワイングラス一杯分かしら?
一本飲んでぐでぐでになったピニアとビドさんは、ワイングラスの一杯で同じような状態になる。加護を超えてしまった分は、本当に酔ってしまう。そうなると、酔いから覚めるにはアルコールの分解を待つしかない。
「ワフ姉さんのところに来てから加護が付いたのだけど。どうしてかしら?」
ワフ姉さんに関係あるとしか思えない。
「さ、さぁな、ここ自体がドワーフの女神が用意したからじゃねーかな?」
「女神なの?」
「俺は女神じゃねぇよ?」
それに近い存在である事には違いがないでしょうけど。
「そうじゃなくて。ドワーフの神様って女性の神様だったの?」
「そっちか……そうだぜ。男神でもある世界もあるけどな。異世界は無数に存在するから、死んだ人間が神に至る事も簡単にある」
「教会の方が聞いたら発狂しそうな話ね」
「簡単つったけど、何かの功績がないとダメだぜ。何かに関する事柄で功績を残したとかだな」
死んだ人が神になる事があるのね。普通は知り得ない事だ。ここは常識を超えた場所だから。信じるか信じないか以前に、この話は事実だろう。
「口を滑らしちまったな。外では言わないでくれよ」
「誰も信じないわよ。狂ったのかと思われてしまうわ」
「ちげぇねぇや!」
ワフ姉さんは新しい瓶の王冠を指で弾いて、グビグビと飲んだ。まだ寝るのには早い時間だ。私も甘酒を飲もうかしら。
「ペニャを寝かせてきたけど……すごい、お酒の匂いね」
「ルレも甘酒飲む?」
「え、ええ。あのお酒のジュースね。私も頂くわ」
甘酒は健康に良いらしい。飲む点滴と日本では言われているそうだ。点滴はこの世界に無いから実感は出来ないけれど。とにかく栄養満点だそうだ。
「どうぞ」
ルレに甘酒を渡す。彼女も前に飲んでいたけれど、アルコールの耐性が強いのか、それほど酩酊していなかった。
「ルレってお酒飲めるの?」
「一回だけ飲んだら、ついそのまま、家中のを全部飲んじゃって。お父さんに禁止されちゃったのよ。これならいくら飲んでも悪酔いしないから」
「クーナ嬢、つまみを沢山ストックしてくれよ。ここにある好きな銃のグリップ持って行っていいからよ!」
「後で見させてもらおうかしら」
私はスキルで酒の肴になりそうな物をスキルで用意する。ワフ姉さんが歓喜の声を上げて、何を食べるのか吟味している姿を見ながら、私は甘酒を飲んだ。
あ、ハイラさん……誘うの忘れていたわ。前のキャンプも仲間はずれで、いじけていたから。今回もいじけなきゃ良いけど。
連れてこれるなら、後で誘おうかしら?




