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47.王様からのお小遣い

 開店初日を終えて、エレルさんと打ち合わせをする。客商売は初めてらしいけれど、無線で連絡していたこともあり、何とかうまくいった。トラブルもなく終えることができた。

 外から、建設仕事の就業時間を終えた人たちが打ち上げで酒を飲んでいる。楽しそうでなによりだ。


「老眼鏡と望遠鏡、やっぱりレンズ系が売れているわね。ポーションや鉄矢はあまり売れないわね」


 シャフトをステンレス製にして、鋼鉄製の矢尻を交換できるようにしている。重いけれど、繰り返し使えるようにしてあるから、回収さえできれば矢が切れる事態にはならない。

 鋼鉄プレートアーマーぐらいなら貫通できるから、重量があるのでストッピングパワーもあり魔物相手にも有効だ。


「女性冒険者の方が買ってくれました。クーナさんによろしくと言っていましたよ」


 ラルンさんね。ルレが王都に来ていると言っていたけれど、まだ会っていないのよね。それにしても、良く私のお店が分かったわね。

 プレハブの異様な外観が気になったのかしら?


『マンマルのチェック終わりました。即席で作ったPOSプログラムですが、問題ありませんでした』


 マルが新しい製品版マルのマンマルに刺していたケーブルを引き抜くと。コロコロと転がり始めて、掃除機アタッチメントを取り付けて、店内の掃除を始めた。


『お掃除をするね』

「この子、賢いですよね」

「私もお掃除出来るもん」


 マニルが不貞腐れている。今日は良く動いてくれていたのだから、この子も褒めて欲しいのは当然だろう。お父様との関係でそれは良く分かっている。


「マニルもよく頑張ったわね。偉いわよ。あなたはマンマルに出来ない事をやればいいのよ。この子は上の方は掃除できないからお願いね」

「分かった!」


 コストルと違って人口も多いから、子供達の識字率が心配ね。その辺りもおいおい考えておかなくっちゃ。マニルにも仕事ばかりではなく、勉強をさせてあげないと。教えられる人が少ないのかしら?


「マンマルちゃんに文字や計算を教えてもらえるので凄く助かります」

「マンマルから教えてもらっているの?」


 大陸語もインストールされているし、マニュピレーターアタッチメントを付けているから、文字は書けるはずだけど。

 

『マニルには勉学が必要だと思って用意したのですが。学習教材としてのプロジェクトもあったので。開発用サーバーから拾って、大陸語に対応させてインストールしておきました』

「製品版マルを先生にした学校が作れそうね……」

『マンマルには失敗や誤解が理解できないので、複雑な事は難しいですね。決められた通りの行動しか出来ません。ですが、子供に文字と数字を理解させる授業ぐらいなら出来ます』


 マルは私が理解できない事を把握して、それを分かりやすく別のことに例えたり。言葉を易しくしてくれたりするので、理解できるようにしてくれる。だけど、マンマルにはそれができない。


『識字率が低いのは、紙の生産性や印刷にも関係していると思います』

「紙の生産ね。アスティルに相談しておきましょう」


 勝手に事業で作り始めると、失業する人たちが増えると言われているので。うまくそれをまとめてくれると言っていた。

 それに大規模な産業だから、私1人で実行するには不可能だ。


「計画はマルにお願いするとして、ゆっくりとやっていきましょうか。まずは、このお店のことを考えましょう」

『製紙産業のプランニングしておきますね』


 やはりコストルの市場とは違う。治安はそこまで悪くはないにしても、人通りが少ない貧民街との境目なだけあって客入りが悪い。

 買う買わないのは別問題で、まずは入ってもらわないと売れる機会すらない。


「外と中の見た目が入りづらそうよね」

「そうですね。ちょっと慣れない見た目で……お客さんは冒険者の方と衛兵さんだけでしたから」

『異世界の方々に受け入れられるような外装と内装のデータがないので……私には専門外ですね』

「外で食べ物の屋台でもやろうかしら。ハイラさん、やってくれないかしら?」


 ハイラさんはマンション経由でコストルに行って、手伝いに来ている孤児院の子達に仕事を教えている。

 

「料理が得意な人、知ってるよ。みんなのご飯作ってるおばちゃん」

「シュイラさんね。そういえば、台所が狭いから、アパートで大人数の料理を作るのは大変だと言っていましたね。炊き出しの時に使っていた魔導具は使えませんか?」

「いっそ食堂でも作りましょうか」


 幸い隣にも土地はいくらでもある。しかし、建材代もプレハブ代もタダでは無い。アスティルに何か珍しいものを納品して、資金を作らなくては。


「邪魔するぞ」

「ごめんなさい、もう閉店なの……」


 カラカラと扉が開いて、男性の声が聞こえたので振り返ると。頭が真っ白になり、言おうとしていた言葉が途中で途切れてしまった。私の背丈と同じくらいの見慣れた少年と、まずくる事はないだろうと思っていた初老の男性が立っていた。


「店じまいか……それは残念だ……」


 一国の王がしょんぼりとした顔をしながら、扉をしめようとしている。


「帰らなくてもいいですよ!?」

「そうですよ。閉店したこの時間を選んでいるので、遠慮する必要はありません」

「アスティルは分かるけれど……王様が何でこんなところに」

「王城から出るときに通路で鉢合わせてな。クーナの店に行くと言ったら、一緒に行きたいとゴネたから連れてきたのだ」


 普通護衛とかを何十、何百も連れて歩くものだけど。騎士が数人しかいないわね。


「開店祝いと、貧民街の改善に協力してくれる

褒美にこれをあげようと思ってな。クーナ殿、手を出してくれ」


 私は王様から言われた通りに、手のひらを上に向けて置いた。


「好きに使うと良い」


 ポンと私の手のひらに置いたのはミスリル銀貨だ。硬く、割れることもなく。何年経とうと曇る事はないミスリル銀がキラキラと輝いている。二千万カクルという大金だ。

 金貨であれば、一千四百万円にもなるだろう。ミスリル銀貨を投入した場合幾らになるかは分からない。使う機会がないだろうと調べていなかった。

 

「え、あ……ありがとうございま、っびゃ!」


 突然の大金に舌を噛む。こんな額を、お小遣い感覚で渡していいものじゃない。


「失礼しました。ありがとうございます」

「よい、クーナ殿ならば有意義な使い方をしてくれるだろう。……しかしこの部屋は明るいな。あの光る棒はなんだ?」


 王様が天井を指差したのはLEDのシーリングライトだ。発電設備はまだ作っていないので、ソーラーパネルで蓄えたバッテリーで光らせている。ついでに、外で宴会をしている人たちにも、投光器で照らしている。


「電気の力で光る。LEDという物です。魔法や魔導具よりも明るくて、コストパフォーマンスに優れています」

「電気は魔法か魔導具で作るのだろうか?」

「今は別の方法で作っていますが。まずはこの開発地に魔導具で電気を作る設備を作って。これから増えてくる建物に売る予定です」

「なるほど、その電気で利益を産むのだな。それで、王城にはその電気を配る事は出来るのだろうか?」


 大きな建物だから、小型の魔力発電所を設置できそうだけど。銅線をどうやって繋げればいいのか分からないし。出来るといっていいのかしら?

 銅線を剥き出しにしたら見た目も悪いし。


「電気を流すには縄のような物を繋いでいくので。それを隠す工事が必要になります。それに技術者も教育しないといけないので」


 こればかりはマルに教えて貰わないと人数を増やせない。技術を教えられるようになれば増やせるけれど、すぐには無理だろう。


「時間がかかりそうだな。気が向いたらやってほしい。その前に、明日は学園の試験日だ。友人が戦闘試験最終日に参加できれば見学もできるぞ」

「応援しに行けるのですか?」


 それは是非、ルレの応援に行きたい。流石に筆記とかは出来るわけが無いし。筆記試験の応援って、意味があるのかしら?


「ああ、3日間で受験生どうし実戦訓練魔法で戦闘をしてもらう。人数が多いので、見学は出来ない。見学が出来る4日目は、優れた成績を出した受験生でトーナメント戦を行い、主席を決めるのだ」

「そこまで行けば、合格は決定している状況ですね」

「平民が騎士や宮廷魔法士などの役職を得るには、ここで印象を得ておくといいだろう。卒業までに何かしらの功績を残す道もあるが」

「平民が勝つのは難しいですか?」

「そうだな。優れた装備をそろえ、優秀な剣術指南役がいたり、剣術で功を成している子息令嬢に勝つのは難しい。もちろん前例が無いわけでは無いぞ」

「ペニャと実力が同じなら心配はあるまい。あいつは優勝候補だ」

「一人勝ちするだろうから、試験に参加させたくなかったのだが。もしかしたらペニャと実力が同じ者がいるのなら友人が出来たら良いと思ってな」


 ペニャは騎士家に生まれているから、優秀なスキルさえ持っていれば、騎士家当主を襲名出来るはず。家の力もあるけれど、魔物の群れで生き延びる程の戦闘能力を持っている。

 

「あいつが実力を認めているくらいだ。心配なのは筆記試験ぐらいだ」

「そうだクーナ殿は剣も作れると聞いたが。ミスリルソードの修理は出来るか?」

「ルレとペニャが実戦訓練魔法で戦っている時に、切れてしまったらしい」

「俺もミスリルソードが切れてしまうなんて話は信じられないのだが。実物を見て驚いた」


 ルレにあげた魔法剣に搭載されている魔力超振動で切断されたのだろう。私とルレの魔力を混ぜた時に起きる反発を使って、刀身に分子融解をさせる程の魔力超振動を起こす。

 これは相性が悪ければ悪いほど振動が早くなる。


「名工は今、手が空いておらん。クーナに修理する気があるのであれば、ペニャに一声かけてやってくれ」

「分かったわ」

 

 帰ったらペニャに話を聞いてみましょう。最近、ワフ姉さんにも会っていないし。でも、いい物を作り過ぎるとルレが不利になるのよね。

 相談した方がいいのかしら?

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