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43.マルクスセットアップ

「うむ! 店主の飯は毎日食っても良いぐらいだ。更に我が首都の海産物で、店主の料理に品数が増えるとは思わなかったぞ!」


 アスティルが城にある食材庫から海産物を色々ちょろまかして、ジーゼルさんに渡した。 中々使えない材料にジーゼルさんが腕を振るった。


 マーケットスキルの隠された機能、瞬間移動についての打ち合わせも兼ねて、マンションの部屋でジーゼルさんの作った夕食を食べることにした。


「あの行ってきますって、なんだったんだろうね。ルレの家に泊まった時よりも早く帰ったよ?」

 

 ハイラさんがスプーンに乗ったパエリアのムール貝を見つめながら、出発時の事を思い出し呆れている。

 馬車で1週間もかかるような、遠くの場所に旅立つような出発をしておいて。当日に夕食を貰いに来たのだ。いつもリアクションの少ないジーゼルさんも困惑していた。


「まぁ良いではないか。うまい飯も食えるし。ハイラは好きな時に家に帰れる。良いこと尽くめだ!」


 マーケットスキルの食べ物も美味しいけれど、ジーゼルさんが地球料理をアレンジしたメニューの方が口に合う。それに安い。

 一人なら気にしないけれど、人数が増えると馬鹿にならない金額だ。ジーゼルさんに産地直送で海産物を調理してもらえるのは大きい。


「いくら便利でも、ミェルの部屋の横に扉を付けっぱなしにはしておけないわ。アスティル、何処かいい場所はない?」

「なら守衛の詰所はどうだ? 侵入者が居れば直ぐに捕まえられるぞ?」

「好奇心旺盛な衛兵がいたら困るわ。勝手に入られては困るもの」


 衛兵も全員が素直にいうことを聞くわけでもない。


「適当な平民の家に貼り付けるのよ。どーせ気づかないわよ」

「家主には間違いなく気づかれるし、住んでいる人に迷惑なのだわ!」

「兵士の女子寮は?」

「俺が入れん。俺だってコストルへ行き来したい」

『私達以外の侵入者が入れば、大きな警戒音がなる様にすればどうでしょう。こんな感じの音を流します』


 マルからビーッと定期的大きな音が繰り返しなる。とても耳障りな音だ。こんな物をずっと聞かされたら気が狂うだろう。


「鳴子の様なものか、その音なら不埒な考えをした輩なら直ぐに逃げ出すだろう。しかし、入って一々なる様ではうるさくはないか? 私は耳が敏感だから勘弁してほしい」

『顔で区別するのです』


 誰かを雇うという話でも無さそうだ。悪いことの出来ない、人間以外に防犯を任せればいあのか。


「機械を使うのね」

『その通り。私が留守番する事も出来ますが、それは寂しいです。なので、もう一台のマルを購入しましょう』

「マルは別のマルを買ってもケンカとかしないの?」

『そっちのマルには感情はありません。内部データを移動させれば、そっちのボディに移動できますよ。最悪、私が壊れた場合はバックアップを移せば直ります』


 マルの体は、私のお母様が作った最初の一台らしい。それが壊れる事を想像したくはないけれど。


「それは嫌……お母様が作ったマルだもの」

『……パーツを取り替える事も出来ます。今度やり方を教えますね。とりあえず製品版マルを購入しましょう』


 検索でロボットとマルのキーワードで目的の物を探す。出てきたのは2つの商品。まんまるなマルと人間そっくりな女性のロボット。可愛らしい黒髪の女性。でも、何となく気持ち悪い。


「ねえ……この受付ロボット丸子って」

『昔に作られたロボットですよ。クーナのお母さんとマスターが子供の時に作られました。クーナがロボット技術に興味を持って、そこに踏み込んだ時に丸子についてお話しましょう』

「分かったわ。楽しみにしているわね」


 製品版マルを購入する。箱に入れられていて、マルの様に動ける状態で出てくるわけではない様だ。

 箱から出して、コンセントに、アダプターという物を差し込む。


『クレードルに置いてください。勝手に充電します。製品版マルは私とは違い、バッテリーは2日ぐらいで切れます』

「電池の性能が違うのね? 1ヶ月と2日って……違いすぎない?」

『今は月面用装備なので、装備が特殊なんですよ』

「月って、あの空に浮かんでる。まんまるな月?」


 人類は空のずっと上、宇宙で数日間生活出来る様になっているらしい。でも、それは一握りで選ばれた人だけが行けるらしい。

 マルは私と会う前に、宇宙へ行く予定があったのだろうか?


『初めまして。僕に名前をつけて欲しいな』


 マルとは違い、少年の様な声だ。真っ白なボディに青色のランプでニコニコの顔が描かれている。


「名前? マルではないの?」

『マルは商品名で、私の名前からとっています』

「名前ね……みんな何かない?」

「「名前……」」


 急に名前を考えるのも難しい。みんな同じ様な表情をしている。


「うむ……マルクスはどうだ?」

「お兄様、どの様な意味が?」

「こう……響きがだな。それにこれはオスだろう?」

『音声モードを切り替えれば変わるので、オスメスは無いですが。名前を付けるときには、今日から君はマルクスと言ってください』


 アスティルがマルクスが固定されているクレードルの前に座り込む。


「よし、今日からお前はマルクスだ」

『僕はマルクス! よろしくね!』


 マルクスは光で描いた顔で、喜んでいる表情を見せる。マルには無い機能だ。


「何というか、可愛らしいな」

『マルクスは決まった動きしか出来ませんが、学習をします。でも、自我と定義できるものがありません。喜ぶという条件を満たしただけです』

「名前を付けられて喜んでいる訳ではないのか?」

『その通りです。しかし……もしマルクスが自我を持ったときに、この記録を思い出して喜びが本物になる事もあるかもしれませんね』

「うむ……難しいな。俺の記憶全てが作り物だったとしても証明できる証拠がない」

「私にはさっぱりだよ。全然気にしたことないかも」

「私が本当にミェル王女なのか自信が無くなってしまいますね。お兄様にお父様やお母様がそうだと言って頂かなければ、証明出来ないのですから」


 ミェルには記憶がない。それは自分自身がどういった人生を送ってきたかすら説明できない。不安なにもなるだろう。


「ミェルは間違いなく俺の大切な妹だ。お前は忘れていても俺が覚えている」

「こんなにも大好きな人の事を思い出せないのが本当に申し訳なくて」

『お姉ちゃんが悲しいと僕も悲しい……』


 マルクスがミェルに近寄ると、悲しい顔をしている。


「私を慰めようとしてくれているのですか?」


 ミェルがマルクスを撫でる。今度は喜んでいる。まるで動物みたいだ。


『顔を覚えさせないと感情検出機能は反応しないはずですが……バグでしょうか?』

「そうだ、マルクスに防犯をお願いするのよね」

『クレードルから私が作ったプログラムを書き入れたので、私が一声掛けると記録モードになります。マルクス、自己紹介の時間です』

「私はミェルです。よろしくお願いしますね。マルクス」

『よろしくね!』

『これで警備モードになっても、ミェルだけは警報が鳴らなくなります』


 マルクス、可愛いのだわ。

 みんなが続いて、マルクスに自己紹介をしていく。


「城の無関係な者が入らぬ様には出来たな。後は保安上問題のない場所に配置すれば良いな。騎士の宿舎はどうだ?」


 ジーゼルさんの目を盗んで、私の部屋に入り込む事は簡単ではないとは思うけれど。念のために用心するに越した事はない。


「騎士にも宿舎があるのね。準貴族だし城下町とかに住んでいるんじゃないの? お母さんもそうだったし」

「質素な生活を好む者や、遠い場所に領地を持つ者は宿舎に住んでいる。ペニャやビドの部屋もあるぞ」

「結構広いわよ。まぁ……このマンションの過ごしやすさには負けるけどね」

「俺の部屋も同様だ。俺も一部屋欲しいが、トイレを貸してもらえれば十分だ」


 男の子だし、何かと婦女子の多い、このマンションは使いにくいだろう。別タイプの部屋もあるけど。そっちは一人向けの物件なのよね。


「お金を出してくれるのならアスティル用の部屋を用意するわよ?」

「いくらだ?」

「二万六千カクルよ。この部屋より全然狭いし、狭いお風呂とトイレが一緒になってるわ。その代わりに安いの。別途光熱費をもらう事になっているけど」

「それでいい。光熱費とやらを含めて金貨二枚で足りるか?」

「お釣りが出るわ。でも光熱費は記録が残らないから、いくら必要なのか分からないのよ」

「構わん、手間賃として取っておけ。じゃあ行くぞ」

「え?行くって何処へ?」

「俺の部屋を作りに」


 もう寝る人が居てもおかしくない時間だ。この人はこれから部屋を作らせるつもりか!?


「明日じゃ駄目なの?」

「報酬は出す。今すぐ欲しいのだ。俺一人で居られる。そう、気を使わないで済む部屋が!」


 アスティルは気を使う様な性格じゃないような気がするのだけれど。


「私、明日試験の申し込みに行かなきゃだからパスね。頑張って」


 当然、ルレは馬車で移動して疲れているはずだ。


「私も今日は色々あって疲れたよ」


 ハイラさんも後部座席で揺らされまくって目を回していた。だいぶ疲れているだろう。


「私もルレと同じ、疲れたから寝るわね。布団借りるわよ」

「重い物や細かい作業は私にお申し付け下さい」


 今はピニアのその言葉が嬉しい。


『では私も欲しい物を教えていただければ、ピックアップしましょう』


 マルの知識はすごく助かる。マーケットスキルの品数は何でもありすぎて、何を買えば良いのか、相変わらず理解できない。


「それではお兄様と私の部屋を作りに行きましょう!」

「待て……俺の部屋だ。婦女子が利用しているところに何度も足を運ぶのはよくないだろう?」

「でも、お兄様の部屋に私が入るのは問題ありませんよね?」

「そうだが……ミェルが入ってきたら意味がだな?」


 ミェルは兄離れが中々出来ないようだ。二人とも仲がいいのは良い事ね。


「思ったより狭いな。しかし、秘密基地感があっていいな! 今度、本棚にレールを付けさせて……」

「動かせなくなったら大変よ?」

「そうだな、少し高揚しすぎたようだ」


 王子の部屋の中に一室、1Kマンションという物件の扉を取り付けた。


「これでトイレを使うのに遠慮しなくて済むな」

「男女比に差がありすぎるものね。アスティルは子供だし、別に気にしないけど」

「俺が気にするのだ」

「お風呂とトイレが一緒なんですね。バスは狭いですが……2人ぐらいなら一緒に入れそうですね」

「お城にはお風呂があるのでしょう?」

「メイドが居るので落ち着いて入れません」


 私はピニアと一緒に入るから慣れているけど、ミェルはそうでもないのかしら? 


「なぁマルよ。パソコンとやらはニチイ語で使えるのか?」

『使えるとは思います。文字は読めますか?』

「漢字なら読めるぞ。大金貨二枚くらいか?」

『それだけあれば、普通のが一台買えますね』

「俺が持っても使えるか?」

『文字が読めれば簡単です。もしかしたら、クーナの部屋の回線から、ここへ繋げれられるのであれば私とマルクスがリモートでサポートしますよ』

「おお、それは助かる」


 王子なだけあって大金貨二枚は即出せる金額の様だ。しかし、パソコンなんて何に使うのだろうか?

 私は日本語を話せる段階にすら達していない。文字を読むなんて尚更だ。お母様が居た故郷の言語なのに、アスティル王子に負けているのは悔しい。もっと頑張って覚えよう。


「カーテンを取り付けますが、いかが致しますか?」

「白とかシンプルなのでいいぞ」


 アスティルの新しい部屋が着々と完成されていく。


「もっと隠れ家感を出したいが、いいだろう。ありがとう、助かった」

「どういたしまして……もう眠らせてもらうわよ」

「明日は学園を案内しよう。錬金学科も今年から復活だ。研究室には頻繁に足を運ぶことになるだろうしな」


 どんな先生が居るのかしら。初めて通う学園、とても楽しみだわ。

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