38.王都へ向かう、ルレの道(終)
「硬っ、全然びくともしない! 絶対におかしい、ずるいわよ!」
ペニャとのスタミナの差は大きい。時間がかかれば、私の不利になっていく。優れた武器を使って、劣っている所を補う技量が必要だ。
迫る斬撃の軌道に剣を置いて、【スイッチング】で柄の上側に魔力を流すだけ。そうすればペニャは瞬間的に鉄の塊を剣で弾こうとしている状態になる。
簡単そうだけど、無駄に流せば剣は重くなって地面に向かって落ちてしまう。その上、魔力も消耗する。軽い時に受ければ、私の剣が弾き飛ばされてしまう。
油断すれば直ぐに負ける。こんなステータスお化けに油断する気なんて無いけどね。
「鉄剣相手にミスリルソード使う奴に言われたくないわよ!」
勢いで攻めて、たじろいだ相手を斬りつけるスタイルのペニャは力任せ過ぎる。最大出力で重くした魔法剣は鉄の壁と変わらない。そんな物に勢いで攻めても意味は無く、自分の体力を減らしているだけだ。
高いステータスでも、全力で鉄の壁に何度も打ち付けていれば当然、疲労で動きがぶれてくる。
ペニャの胸元に剣先を突きつけ、刺さる寸前で重くする。血は出ないし、怪我もしないが、刺す時の抵抗が手元に伝わるのと、ペニャの体重が剣に掛かるのが生々しい。勝っても気持ちがいい物でもない。
直ぐに引き抜き、ペニャの反撃を弾く。心臓に致命傷を与えても、人は直ぐに死ぬわけではない。ペニャは負けが確定していても、私を勝たせない事に貪欲になっている。
「悪ガキみたいに単純過ぎるわ。他の騎士とは訓練していないの?」
「子供を斬るのはちょっと、とか言ってみんなが避けるのよ! 木剣でも怪我させると不味いって、やってくれないし!」
「そりゃそうよ。貴族様のご令嬢にそんな事をまともな大人が出来るわけないでしょ。父親から騎士になるの反対されなかったの?」
ペニャの年齢で騎士になる子は居ない。今なら学園に通って二、三年目ぐらいだろう。浪人する人も多いので全員が同い年という訳でもない。試験自体は貴族にも厳しい。
兵士にはペニャと同じ歳ぐらいの人は大勢いる。この実戦訓練魔法で負けた事がないと言うのは、兵士達との訓練だろう。
聖剣スキルを持っている人間が兵士に負けたら大恥だ。
「されてるわよ。兄弟の中で私しか騎士になれないんだから仕方がないでしょ! 私の家は騎士で名誉を築いてきたのよ。私、勉強苦手だし。貴族としての箔を付けるには、これしか無いのよ!」
「大声で宣言する事じゃ無いと思うんだけど……」
ペニャは剣を構える。試合再開の合図だ。
「だから、剣だけは負けたく無いの」
さっきと同じようにひたすら私に攻撃するだけ。また疲れた所を斬られたいのだろうか?
でも何かがおかしい……。
気づいた時には遅かった。ガードした直後、剣の重さを軽くした時だった。
剣の反発で後ろに弾き飛ばされる筈のペニャが、弾かれたフリをして私の剣を叩きつけてきた。
「っくぅ!」
ペニャを圧倒して油断していた。お父さん以外の人と初めて剣で戦って、少し勝てたから調子に乗っていた。
何とか重量を切り替えて、飛ばされる剣の慣性を殺し、防御にかまえ直そうとする。スピードも速いステータスお化けの繰り出す斬撃には間に合わず。
縦から、ざっくりとやられてしまう。私はお尻丸出しでうつ伏せに倒れた。
「ばっっかじゃないの!? 普通、上段から縦にバッサリと行く!? 服が全滅した上に、下着も脱げたじゃない」
「うっさい! 私なんか全裸よ、全裸よ! あんたは下着あるだけマシでしょ!?」
「斬られた上に、ずり下ろされて、おしり丸出しでぶっ倒れたうえに、ゴムが壊れてびろびろよ! 最悪だわ!」
クーナから貰ったショーツは肌触りも良く、ゴムという伸び縮みする素材が使われていて、使い勝手が良いのだが。それがミスリルソードの一撃で、ゴムを完全に破壊されてしまった。
「分かった、次は私が殺すわ」
「やってみなさいよ!」
「あのぅ、一回休んで着替えませんか?私……と、みんなが目のやり場に困っています……」
こっちも恥ずかしい。だけど、服が何着も駄目にしたら、着る物が無くなってしまう。
「「服がもったいないから、いい!」」
「それにその……私の魔力も……そろそろ〜」
「「代わりの人呼んで来て!」」
それからしばらく、全裸で剣を一本なんて滑稽な格好で、ペニャとの試合を連続して続けた。お互いに戦闘スタイルの弱点を学習していく。ペニャが学んでいく度に、私が不利になり、負けが増えてしまう。
「もうルレには負けなくなってきたわ。ざぁぁーーーこぉ!」
「レベル9の相手にイキってんじゃないわよ。レベル9に負けたザコ騎士が!」
「違いますぅーーー手を抜いてただけですぅーーー!」
「低ステータス相手に、初っ端からアビリティぶちかまして、殺す気満々だったじゃない!」
もちろん、私も負けてばかりではなく、魔法剣の幅広い使い方を模索して。勝ち筋を探せるようになると、お互いの勝率が半々になった。
「何があったの? この部屋凄く暑いけど」
「ペニャ様とソック兵士長の娘さんがやり合ってるの。二人とも服が破れてもやめないから。訓練魔法にチャージしまくるわ。風邪ひかないように気温操作魔法であっためてるんだけど……そろそろ辛い……吐きそう……」
「真冬だからねぇ〜じゃあ、私変わるよ。マリョポあげるから飲んで横になってなよ」
「ありがと、助かる……うぇ……」
随分とギャラリーが増えてきた。同性だけど、裸を見られると恥ずかしいものは恥ずかしいわね。隠したり気にする余裕は無いけど。
「ルレって子……授けられたスキルが魔力操作だったせいで、ウィルックの名前を返したはずよ。何でペニャ様とやり合えてるのよ?」
よくご存知ね。私のファン……というわけでは無さそうだけど。騎士が好きなのかしら?
「そうなの!? じゃあ、凄く頑張ったんだ! だって、技術が凄いもん。ソック兵長に特訓して貰ったんだよ! 頑張れルレちゃん! 剣聖スキルがあるからって偉そうにするペニャ様に負けるな!」
私も魔力操作スキルと魔法剣があって戦えているから。何かに頼っているのは同じなんだけど。ペニャは技量。私はレベル。お互い欠けているどころがあるから出来る戦いね。
「はぁぁぁん? ペニャ様は貧しい村に率先して、魔物討伐へ向かわれる。慈愛に満ちた素晴らしい騎士様なのよ! 神は授けるべき人に剣聖スキルを授けられたのよ!」
見学している兵士が大声で言い合いを始める。
平民、平民って言うから性格の曲がってる子だと思っていたけど、ペニャにも良いところがあるのね。
「あんた……恥ずかしく無いの?」
「女性しかいないから、耐えられなくは無いけど……恥ずかしい」
「イライラしてた。でも、途中からあんたと戦うのが楽しいって思えてきちゃった」
「遊びも実力が拮抗してる時とか、工夫すれば勝てる時が一番好きよ。今度はトランプの特訓してあげる。上手くなればみんなと楽しく遊べるようになるわ。その前にお風呂に入って……寝たい」
「そうね。あんたと兵長が私に教えたい事は分かったわ。正直、私も疲れてきたわ。あ〜止め。止めよ!」
ペニャが剣を納めた。とは言え鞘も剣先も無い。それをみて私も剣を納める。
「そうね。ペニャのおかげで自分の実力が分かったわ。ありがとう」
「えっと……私も自分の弱点が分かったと言うか……ありがとう」
「さてと……服はどうしようかしら。そこの兵士さん、ごめんなさい。何か服を借りられないかしら? それか適当な物を買ってきて頂けると助かるのだけど。請求はソック兵長につけといて?」
「私のも買ってきてもらえると助かるわ。二人分、私が払うからソック兵長から取らなくても良いわよ」
「あら良いの?」
「服と殺しそうになった謝罪よ。その、ごめんなさい」
そういえば、殺されそうになっていたのを忘れていた。正直、未遂でも問題なんだけど。
「実戦訓練魔法が動いてると勘違いしていたのでしょう? それなら事故だから良いわよ。事故が無くて良かったわね。そうよね……兵士さん?」
「そ、そうですね〜。いゃ〜解除とリセットを間違えそうになった事って、ついついありますからねぇ〜」
ついついミスってたら大事よ。死人が出るわ!
さっきの管理術式を使って、魔法陣に試合中の魔力を補充してくれていた兵士達は地面で横になっている。魔力枯渇でぐったりとしていた。
「お待たせいたしました。お二人の服を買ってきました!」
「早っ! 今さっきお願いしたばかりよ?」
「必要になるかと思い。先程、市場まで走り、買ってきました!」
さっき、ペニャを誉めていた兵士だ。走って買いに行ったとしても早すぎる。ニンジャかしら? いや、兵士よね。クーナのとこに居るのはニンジャだけど。そんなにニンジャがぽこぽこいてたまるか。
買ってきて貰った服に着替える。下着は馬車にあるから。体を拭く時に着替えよう。
「その……ありがとう。ディマ」
「お名前を覚えて下さって、光栄です!」
「一兵卒って馬鹿にして、人のなまえとか覚えないと思っていたんだけど?」
「全員は無理だけど、仕事で一緒になった兵士の名前は覚えているわよ。私に命を預けてくれたりするんだもの。名前ぐらい覚えないと可哀想でしょ?」
「そう言う所をちゃんと出せば仲のいい人とか出来そうな物だけど。普段の高飛車が良くないのね。ハイラぐらい包容力ないと無理だわ」
「その……ルレは……違うの?」
「戦った後に仲良くなるって、なんだか癪なのよね。男の子向けの物語みたいで。上品さが無いじゃない?二回もそれで仲良くなっていたら野蛮よ」
最初は殴り合いからの二回目は剣だ。どこの荒くれ者の物語かしら?
「そ、そう……そうよね。私と仲良くなんかしたくないわよね……」
「カウントもしてないし、勝敗も何もない戦いをしていたもの。決着はトランプで遊んで決めましょう? 仲良くするしないを考えるより。楽しく遊べるかが大事じゃない?」
「分かったわ!」
「じゃあ、非番の子集めてくるね!」
猫耳の付いた獣人の兵士が他に同僚を集めてくれるそうだ。トランプで遊ぶなら数は多い方がいい。
「ピオル!お二人に馴れ馴れしいわよ!」
「ペニャ様にお近づきになりたいからって、一番乗りで私に服を買いに行かせたディマが言うかな〜」
「よ、余計なこと言わないで!」
「ええ、多い方が良いわね。数が増えると、楽しいわよ」
友達がどうとか言う以前に楽しいかどうか……。
ミェル王女と話していて、私は喜んでいた。馬車がこの街に着いて、彼女と行動が別になることに残念だと思っている自分がいた。
そう思うほど、過去のミェルが遠ざかってしまう様な気がして、悲しくなってくる。だから、まだ結論は出ない。
だけど、ペニャと戦って分かった。私は魔法剣があれば剣士として学園に入学出来る。本当は自信が無かっただけだ。魔導技師としての逃げ道を用意していたのが証拠だ。
本当はウィルックの名を継ぎたいし、王位継承争いでミェルに危険が迫っているのなら助けてあげたい。
クーナが用意してくれた道だ。ありがたく歩かせてもらおう。王都で再開したら、お礼を言わないとね。




