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35.王都へ向かう、ルレの道①

 王城の庭園には見たことの無い綺麗な花が咲いていた。でも私はそれを見て喜んでいる気持ちにはなれなかった。

 見たことの無い綺麗な花よりも、お母さんの顔が見たかった。


「あなた……キュレの子どもなのですか?」


 城下町のショーウィンドウに飾られた、最高級の陶器人形に魂が入ったような綺麗な女の子が私に声をかけてきた。お姫様だ。

 いつもなら興奮してしまうはずなのに。目に入る物が全部つまらないものに見える。


「うん」

「そうなのですね。キュレは強いのにあなたは弱い子なのですね」


 いきなり言われた一言にイライラする。でも、怒ってもお母さんは帰って来ない。


「知らない……お母さんはもういないもん」

「ルレ•ウィルック」


 お母さんの先祖が昔の王様から貰った、セカンドネームという物があった。

 お母さんはお祖父さんの反対を無視して、お父さんと結婚したから。ウィルックの名前はお母さんと私にだけについている。

 お父さんだけ仲間はずれだ。お父さんは「騎士はいろいろ面倒だからな。城下町を守る方が楽しいぞ」って笑っていた。


「あなたは弱い、だからこのままではずっと大人になっても、ウィルックの名を口にする事は許されないなのです」

「どうして?ウィルックは私の名前だもん……勝手に取らないで!」


 お母さんも居なくなって、お揃いだった名前も無くなるなんて嫌だ。このお姫様は何で私に酷いことを言うの?


「ルレは成人の儀で神様の使いからスキルを貰うのです。その時に騎士になれるスキルを持ち、王に認められると、ウィルックの名前でいる事が出来るのです」

「スキルが違うのだったらどうなるの?」

「強くなって、王立学園ですごい成績を取るのです。でも、とっても難しいのです。強いキュレとぜんぜん違う、泣いているばっかりのルレでは絶対に無理なのです。辛いことがあっても笑っていられるような子ではないと騎士にはなれないのです」

「じゃぁ泣かない……」

「キュレは私のお母さんの騎士なのです。ルレが私の騎士になれば、お揃いなのです」


 イジメに来たのかなって思ったけど、このお姫様は私を慰めに来てくれたんだ。


「うん、私はお姫様の騎士になる!」

「それでは、騎士になった時の練習をしましょう?」

「分かりましたお姫様!」

「私は王女なのです。六番目の王女、ミェル・デセンドなのです。城下町を案内するのです。困っている国民を助けるなの」

「それではまいりましょう!」


 私は絶対に、この優しい王女様の騎士になるんだ。スキルが違っても絶対に諦めない。


 王女と騎士家の没落娘が二人で、考えも無しに王女様と騎士ごっこ。本物の王女様を護衛も無しに勝手に城下町に連れ出して、今を思えば、とんでもない大事件ね。国が国なら、お父さんと私は二人揃って処刑されてもおかしくない。きっと、王様も優しい人なんでしょうね。その子どもである二人が、平民とぽんぽん友達になってくれるのだから。


「目覚まし時計という物は便利ね……ありがたく借りていくわ」

「ルレ、王都に行くのですね。お嬢様に挨拶はされていかないようですが」


 ピニアが暗闇から話しかけてきた。少し驚いてしまう。


「彼女、疲れているでしょ?見てこれ」


 私はクーナから貰った剣を抜いて見せる。貴金属の装飾品が施されている。電気の消えた真っ暗な廊下で、白と黒と虹が混ざり合う、不思議な宝石。


「あの子がくれた物だからとても良い物だろうし、綺麗なんだけど……この宝石、悪目立ちするだけよね?」

「剣は切れなくても刺せれば良いので……私からはなんとも。ですが、お嬢様が用意した物ですので……何か意味はあると思います」


 主人が友人にプレゼントした物なだけあって。従者からは、実用性に欠ける装飾についてはノーコメントのようだ。

 クーナは私に合う、魔法使い用の武器と言っていた。剣とステッキを組み合わせた物だったりするのかしら?


「お嬢様から、いつもと違う匂いがしました」


 いつもの異常な忠誠心に加えて、普段の匂いを覚えているという発言に、少し変態くささを感じるけど、彼女は狐の獣人。鼻が目と同じくらい敏感な種族だ。そう思ってしまったのは彼女に失礼だ。反省しなくちゃ。

 

「そう言えば……これをくれた時、クーナの髪が濡れていたの」


 何で一度、お風呂に入ったのに。再び入浴したのか。いくらクーナがお風呂好きでもそんな事はしない。

 

「何か新しい事を始めたのでしょうか?」

「従者としては複雑?あの子が強くなって、離れていきそうで」


 それを感じてしまっているのは私だ。自分の立ち位置を遥かに超えて、対等に並べないような存在。そんな二人目の友達。ミェルに加えて、クーナまでそうなってしまうなんて考えたくもない。


 今では馬鹿らしい笑い話。お父さんと仲良くしている姿を見かけて、こっそりと覗いていた。

 そのあとに、お父さんが「紹介したい人が居るんだが、ルレときっと仲良くなれると思うんだ。クーナという子なんだが……」なんて聞いた瞬間、持っていたフォークを置いて半泣きでベッドにこもった。私の憧れる人と同じ名前を聞いて、あの時は冷静でいられなかった。


 しかも、友達のハイラまでクーナの名前を出し始めたのだ。自分よりもレベルが低いはずで、見るからに弱そうな女の子であるクーナから、私の全てを全部奪われるような気がした。

 でも、それは私の勘違いで、クーナに酷いことをしてしまったのに、あの子は許すどころか友達になってくれた。

 

「お嬢様が強くなり、私を超えたとしても。あの方は争いを好まぬ優しいお方です。躊躇われ、御身の危険を排除するのが私の役目なので。それに……お嬢様は弱き物を見捨てる事は出来ません。あの小さな手で全てを救おうとするでしょう」


 クーナは優しく、私から奪うどころか、大切な人達が住むこの町を守ってくれた。あの子のスキルは異常で、大きな力を持っている。自分とは関係のない事ですら責任を負ってしまうだろう。だから、あの子の側で支えたい。


「そうね。だから、クーナがどんなに凄い存在になっても友達で居続けてやるのだわ」

「その為にも、試験をとっとと合格してくるのだわ!」

「ピニア凄い!クーナにそっくり」

「どこぞの球体が新しい芸を覚えて調子に乗っていますが、私には造作もありません」


 いつも平静を装っていても、すぐ動揺する。いくらスキルがあってもクーナは普通の女の子なんだ。私はそれを支えられる友達でいたい。


「それじゃあピニア、一足先に都会を満喫してくるわ。クーナによろしく」

「承りましたり。行ってらっしゃいませ、ルレさんのご武運をお祈りしています。それとこちらは野営に使えるだろうとお嬢様が用意された物です」


 ピニアから渡されたのは、車輪のついたケース。中に何が入っているのか想像出来ないが、クーナの事だ。役に立つ物が入っているのだろう。


「クーナにありがとうって伝えて」

「それは王都でお嬢様にルレさんの口から言うのが一番だと思います」


 クーナの部屋から出ると、ジーゼルおじさんとハイラが朝食の準備をしている。彼女は毎日こうして、大人と変わらないぐらい仕事していてすごいと思う。


「おはようハイラ」

「ルレ、おはよー。ご飯は食べてく?」

「大丈夫よ。一旦お家に帰らなきゃ」

「分かった、いってらっしゃい!」

「……いってらっしい」


 おじさんは相変わらず愛想が悪い上に人相も悪い。この街に来たばかりの時はおじさんが怖くて、近寄れるようになるまでだいぶ時間がかかった。


「おばさんによろしくね」


 自宅まで歩く。お父さんは一兵卒の仕事をして収入も少ない、だけど、この街の衛兵や駐屯兵を管理している自慢のお父さん。

 私が騎士になりたがっているのもお父さんは知っている。だから剣を教えてくれるし、魔物の倒し方も教えて、一緒に狩に行ってくれる。

 

「ただいま」

「おかえり。困った事に予定が変わった」


 もうすぐ仕事に向かうはずのお父さんが、他所行きの格好をしている。


「突然どうしたの?」

「別の仕事が入った。すまない、急いで準備してくれ。ルレの独り立ちの為に我慢してたのに、俺を指名しやがった」


 お父さんと二人で馬車の停留所へ向かう。


「護衛に雇っていた冒険者達だが、メンバーが一人だけになった」

「久しぶりだなルレ、兵士長」

「ダルンさんじゃない!こんなすごい人にたかが護衛を依頼したの!?」

「驚くのはそこじゃない……」

「ルレさん、お待ちしておりましたわ」

「そういえばあんた、ソック兵士長の娘だったのね。私一人で十分だって言ってるのに……」


 ミェルとペニャの二人がそこにはいた。王族と騎士が着るような上質な服装ではなく一般的な服装だ。


「この方は……スタンピードの時に兵舎でお目にかかっただろ?そういうお方だ」

「突然の護衛任務、申し訳ありませんわね。ソック兵士長、王都までよろしくお願いします」


 王子の方ならともかく……よりにもよって王女の方とは。王都までの1週間、彼女と同じ馬車に揺られる事になるとは思ってもいなかった。


「ルレさんもよろしくお願いしますね!」

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