31.ルレのプライド
「ミェルはクーナが初めての友達って言っていた。私の事なんて覚えてなんか無かった」
「やっぱり……知り合いだったのね」
「ええ、あの子は私が王都に住んでいた時の友達よ。私が空想のクーナを真似たり、学園の入学を目指していたのもそのためだった」
王立学園の競争率は激しい。ハイラさんからもルレは勉強に時間を費やしていると聞いた。ルレと行ったキャンプ中も、眠らずテントの中で書物を読んで勉強していた。
それほどミェルとの思い出は大切な物だったのだろう。
「あの子は記憶を失っているって言っていたわ……ミェルは悪く無いの」
「……それだったらなおさら学園へ行く意味が無いじゃない。別にいいの。そもそも……平民で勉強しか出来ない私が王女様と友達になるなんて妄言だったのよ」
「そんな事ないわ。ミェルは記憶を失ってもルレと友達に……」
彼女は優しい人だ。分け隔てなく、人を見る。きっとルレとも仲良くなれるはず。
「それはクーナの友達だから友達になってくれるのよ」
ルレの言う通り、私の信頼で得た交友関係だ。結果だけ見れば友達だけど、過程はそうじゃない。
「そうね……。分かったわ。でも、私はルレと学校に行きたい。それじゃダメなの?」
試験を免除出来る事は言わないでおこう。ルレは間違いなく断る。
「ええ、クーナも大切な友達よ。魚のフンじゃ無い。学園に行ったところで対等な友達になれるとは思えないわ」
「そんなことあるわけないわ。私はスキルに助けられているだけよ」
マルと出会わなければ、私はどうなっていたか。考えるだけでも恐ろしい。盗賊から逃げられたとしても、スキルがなければただの世間知らずのお嬢様だ。
「おい、トイレは何処だ?」
「……そこの扉。横に付いてる光ってる所を押したら明かりが点くわ」
「うむ、すいっちとやらだな。さっきマルから教えてもらったぞ」
アスティルがトイレに入ると、沈黙で静かになる。
「能天気な王子様ね……」
「彼は彼で頑張っているわ」
「分かってる。あの時は人が変わった様に動いてた。きっと王族だし、凄いスキルを……」
「彼、戦闘スキルもアビリティも使えないの。それなのに妹の為にレベルを26も上げたのよ」
「アビリティが習得出来無いって……魔力が無いの!?何でミェルの為にそこまで……」
「帝国の王子と決闘で勝つ為よ。相手は剣豪スキルを持ってる。負ければアスティルは殺されてミェルは帝国の王子に嫁へ行く事になる」
「自殺行為だから、すぐにやめさせて。決闘に銃は使えないのよ。剣圧を飛ばす様な相手に勝てるはずがない」
「王子を勝たせる為に、ミェルを守る為にルレの力が必要なの」
「嘘、どうせクーナのスキルでどうにか出来るんでしょ?」
「刀や剣を作るスキルと錬金術スキルは最上位で手に入れられる。だけどアビリティを覚えないとまともに使えない。スキルだけ手に入れても無理なのよ。魔力操作を覚えてもルレの方が上手いに決まってる」
アビリティは持っているスキルに関連する行動を取らなければ覚えられない。スキルが無くてもアビリティは覚えられる。
生産スキルを成長させるのに集中する為、魔力操作スキルを覚えて成長させる余裕はない。
「……分かった。クーナの為に手を貸すわ。だけど、記憶を無くしたままのミェルとは友達にはなれない」
「ありがとう」
「すまない。話が聞こえてしまったのだが……お前も俺を手伝ってくれるのか?」
「はい。クーナが困っているので」
「もしや、記憶を失う前のミェルと友人だったのか?」
「幼い頃の話です。もう王女様と私には繋がりはありません」
「ミェルは自分の母上を殺されてる所を、その目で見てしまい。そのせいで記憶を閉ざしてしまったのだ」
私のお母様も毒で亡くなってしまった。辛くて悲しい思い出だ。でも、消し去りたいとは思わない。
「……待って。そんな話聞いた事がない。嘘は言わないでください」
「これは周りの者もミェルも知らん。亡くなられた第七王妃は代わりの者に演じさせ、生きているように見せかけておる。彼女はその者を母親として思っている」
「何て酷い事を……ずっと受け入れる事なんか出来ないじゃない」
「俺だってこんな事はしたくは無い。ミェルの母上を弔い、ミェルに悲しみを受け入れさせる事が人として当然の事だと思っている。だが、今は道理を通せる状況では無いのだ」
王女1人の慰めに、王妃の存在を偽装するなんて事はないだろう。何か政治的な理由があるはず。
「王位継承の派閥争いかしら」
「ああ。暗殺に失敗させたと見せかけて、次に送られてくる暗殺者をぶちのめして身元を割り出す。味方の貴族や民衆に知らせて大義を得る。支持するものが多ければ多い程、流れる血は少なくて済む」
最悪の場合、デセンドで内戦が起きる。王位争奪戦というものはそういうものだ。分裂し勢力が均等であればあるほど、その傷跡は大きくなる。
「アスティル王子を疎ましく思った、他の王子は帝国の王子と結託した訳ね。アスティルが決闘を申し込むと分かっていて」
「ああ、クーナが俺の事を知らなかったという事は、この国の王族について詳しくないのだろう?第一王子は俺が生まれるよりも昔に幼いして事故で亡くなられている……という事になっている」
「第二王子が、そのろくでなし。後はアスティルを殺せば第二王子の一人勝ち」
「俺が決闘で死ねば、魔力無しの癖に無謀な戦いを仕掛けた愚かな王子で終わる。あいつは帝国との戦争を避ける為に俺がこうする事を分かっている。あいつらの誤算は、俺が負ければ父上が帝国に報復する事だろう」
現国王はアスティルがお気に入りな様ね。現状アスティルが次期王として期待されているのかしら?
「ディグスの母は貴族強権主義を掲げる家の出だ。奴が王になれば奴隷制度を復活させようとするだろうな。もっと優秀な王子がいるのなら王権ぐらいくれてやり、俺は世界を回って外交でもしていたいぐらいだ」
デセンドは国民に優しい国だ。無理な税を取ろうとはしない。市場も税金が安く、毎度賑やかな街だ。商売に携わる者として実感している。
私も市場にお金を落とせとマルから注意されている。マーケットスキルは街の経済に影響するからだそうだ。
「やっぱり、生きる世界が違うのよ。でも……分かりました。ミェルの為ではありません。クーナの為、それと第二王子が気に入らないから手伝うだけです」
「俺としてはミェルとは仲良くして欲しいのだが……。国民親和派の俺たちは位が高い貴族の友人は少ないんだ」
「殿下が次期王に相応しい方だと私は思っています。でも、ミェルの友達にはなれません。それだけは理解してください」
「そう言っていられるのも今のうちだ。俺のかわいいミェルはとても優しく良い子だ。お前から友達にならせたくなるからな」
「そんな事……知っています」
ミェルが悪くないのはルレも理解している筈だ。数年かけて努力し、大好きな父元を離れようとしてまで目指していたものを突然失ってしまったのだ。心の整理がついていないのだろう。口先ではああ言っているが、ミェルの為にできる事をしようとしている。
「試験を受けず。俺の推薦で入学できるがどうする?お前にはまだスタンピードに対する報酬を払っていない」
「私はただ箱に金属の棒を突っ込んでいただけです。誰でも出来ます。銃を貸し出したのはクーナです」
「ハイラという娘から聞いたぞ。風の人が銃を撃つ際に必要な物をずっと用意していたと。弾薬だったか?リロードとやらに時間をかけず、次々と大型の魔物が沈んだのは大きな貢献だ」
「試験は受けます。私をこれ以上惨めにしないでください」
ルレが自分の実力で合格したいと思っているのは私が思っていた通りだった。私から推薦を誘っていたら、絶対に怒られていたとこだろう。
「分かった。部下の命を助けてくれだのだ。学費ぐらいは出させてくれ」
「それは是非お願いします。私のお金ではなく父のお金なので。私の為に家を空けることのない門番になって収入が減っている筈なので」
「兵士長ソックの妻はとても優秀な騎士だったと聞いておる。そうか……思い出した。確か、あの葬儀の日はミェルが俺からはぐれて、王宮から姿を消したので大騒ぎになったな」
以前ソックさんは騎士団からの誘いを断ったと聞いた事がある。兵士長は下士官としては最高の階級だ。士官学校を卒業もせずに誘われるという事はだいぶ能力を買われているのだろう。
騎士は準貴族で王都から離れる事も多く、基本は暇だが、忙しい時には長期に渡って家を空ける事も多い。収入の多い仕事を蹴って、ルレと一緒にいられる時間を作るために、生活費の安いコストルに移り住んだのね。
「……明日は馬車でで王都に向かうけれど、クーナはどうするの?」
「車を買って、それに乗って向かおうと思っているわ。1日前には着くけれど、トラブルがあると困るから2日前には出発したいわね」
「俺も乗りたいな……。さっき、乗らせてくれる様な感じの事を言っていたよな?」
「ええ、その通りよ。今……一千万カクルまで貯まったから大人数が乗れる高い車でも買えるわよ」
確か……今のところ最大の輸送力だと。10人乗りが最大で、詰めればもっと乗れる筈。
「私は馬車でいいわ。護衛クエストをギルドに依頼して準備してもらったから。キャンセルしたら迷惑かけちゃうし。明日は早く出るわ、先に眠らせてもらうわね。おやすみクーナ」
「おやすみなさい、ルレ」
「王都ではよろしく頼む」
ルレは王都で住む際、使う予定の部屋に入っていった。ベッド等の寝具は用意してある。王子にはピニアの部屋を使わせてあげよう。
「……ルレは騎士になりたかったのでは無いか?」
「なんでそう思うの?」
「ミェルの母上の近衛騎士はルレの母だ。彼女の葬儀は王宮で行われた。あの日、俺はミェルから目を離してしまい。騒ぎになった。何処を探しても見つからず。2人が出会ったのはその時だろう。騎士になるには貴族の者が王家に寄付金を出すか、例外的な実績を持つか、王立学園で優秀な成績を収めるかの三つだ。騎士になった後、ミェルから選ばれると近衛騎士になれる」
「でも、ルレのスキルは魔力操作よ」
魔力操作は繊細な魔力を放出して魔法を行使できる。極めれば、時間のかかる複数人で発動させるような大規模魔法を一人でも構築できる。だけど、近接に特化した様なスキルではない。ソックさんから剣を教えてもらっているらしいけれど。その実力は見た事がない。
「確かに難しいな。過去には魔力操作を持った騎士もいた。近接に魔法をくみわせた魔法剣士という戦闘スタイルの使い手だ。しかし、錬金術が衰退した近代では魔法剣が造られなくなった。それと同時に魔法剣士の優位性が無くなってしまった」
「魔法剣……存在しないの?」
「ああ。何処かにはあるだろうが。失われた技術だ。そう簡単には手に入らんだろう」
「錬金術と鍛治があれば作れる?」
「通常スキルであれば相当な修行が必要だ。しかし、お前ならどうにか出来るんじゃないか?」
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アスティルに武器を作る際にも覚える必要がある。必要なのは鍛冶場。
私はマーケットスキルから必要な物を探す。
「おい……何をしているんだ?聞いておらぬか……まぁいい、俺は寝る。空いている部屋を借りるぞ。エクストラヒールは肉体疲労は治せても精神疲労は治せんからな。無理はするなよ」




