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15.恋する少年とお嬢ライダー③

「クーナちゃん、お疲れ様だね」


 トレイに夕食を乗せたハイラさんから、労いの言葉をいただく。


「ありがとう。だいぶ人づてにお客さんが増えてきて、結構忙しくなっているのよ」

「うちも食堂のお客さんが増えてきたよ。マルちゃんが料理のレパートリーを増やしてくれたおかげだね」

「クーナというのはあなたね!」


 振り向くと小さな女の子が私を指差していた。怒っている表情からは、友好的な感情では無い事が伺える。


「あれ?シュイちゃん!?日が落ちてから、孤児院の外に出たら、ダメだよ?」

「ハイラお姉ちゃんは黙ってて!」

「私に何か用かしら?」

「トルカ兄さんを誘惑しないでよ。この泥棒猫!」


 物凄い既視感を感じるわね……。


「シュイちゃんはトルカの事が好きなのかしら?」

「そうよ!あなたより、私の方が大好きなの!」

「クーナちゃん、そういうのは分かるんだ……」


 流石に色恋の話しぐらいは分かるわよ。物心ついた時には、私の周りには殆ど女性ばかりだから、経験は無いけれど。本でそういった話は知っているわ。

 しかし、トルカが私に懐いているとは思わなかった。今までの奇行は全部そういう事だった訳だ。

 実際に目の当たりにすると、解らないものね……。


「貧乳女!あたしと決闘しなさい!」


 この子、今なんて言ったのだわ!?


「まだ成長途中だから仕方ないのだわ!?」

「ハイラお姉ちゃんより、全然、全く、おっぱいが無いじゃ無い!」


 止めるのだわ!それ以上はやめて欲しいのだわ!周りの人が見ているのだわ!


「シュイちゃん……ちょっと、やめて……」


 ハイラさんが胸を押さえながら、シュイちゃんを嗜めている。

 しかし、シュイちゃんはポケットから生やした、冬用の防寒手袋を私に投げつける。


「さぁ!決闘よ!」


 この子はルレの姉妹か何かかしら?行動がすごいそっくりなのだわ!


「クーナちゃん、まさかとは思うけど、絶対にダメだよ?」

「まさか、とは思っているのね……。そんな訳ないでしょう?」

「だ、だよねー!冗談だよ!?本当だよ!?」


 あの慌て方は嘘をついている。ハイラさんは私をバーサーカーか何かだと思っているのだろうか?

 

「安心しなさい。私はトルカの事は好きでは無いわ」

「本当?信じられないわ!言うだけなら簡単よ」


 何かしらの説得材料が必要ね。例えば、好みに合わない。とかかしら?確か、ギルド職員のテテトさんが、トルカに好かれやすい男性の特徴を言っていたような。

 

「ええ、私はお金持ちで、強くて、カッコよくて、優しい男性が好きなのだわ!」

「そうなの!?じゃあトルカお兄さんは、強くてカッコよくて優しいけど、お金が無いから違うわね!」


 シュイちゃんが納得したところで、私が孤児院へと送る事にした。ハイラさんが連れて行くには心配だ。


「クーナちゃん、孤児院は近いけど……怖い人に気をつけてね!」

「大丈夫、リボルバー以外に、新しく沢山撃てる拳銃を買ったから。変なのが居たら、ゴム弾をお見舞いするのだわ!」

「だ、大丈夫だね……」


 シュイちゃんを連れて、人通りの多い路地を歩く。突発的な犯罪に警戒しながら歩く。私の様な小柄な女性は特に狙われやすい。

 私も何度か、怪しい男性に声を掛けられ、腕を掴まれそうになった事もある。

 もちろん全員、何かをされる前にゴム弾で、完膚なきまでにお仕置きした後、衛兵さんに引き渡した。


 

「帰ったら、クーナお姉ちゃんがトルカ兄さんのこと全然好きじゃないって、言わなきゃ!

「そうね」

 

 警戒に集中していたから、シュイちゃんが何かを言っていたのを適当に返事を返してしまった。

 孤児院へ着くと、シスターが狼狽えた様子で非常に心配していたよあだ。衛兵に捜索をお願いしようとしていた所だったらしい。


「本当にごめんなさいね」

「お気になさらないで下さい」

「クーナお姉ちゃん、ばいばい!」


 シュイちゃんが手を振る。私もそれに応える様にして、手を振り返す。


「はい、さようなら」


 幼い子は感情が爆発すると面倒な事になるけれど、こうして大人しくなると可愛いものね。


 子供は想像してなかった事を突発的に起こしたり。直情的に行動したりするものだと言う事を身にしみて感じた。


 翌日も同じように、子供が起こす暴走の恐ろしさを経験する事になった。それも、もっと大きな形で。


『扱い易く、機敏かつ……乗り物の中では航続距離にも優れ……』


 露店の店仕舞いをしてから宿屋までリヤカーを引いているまでの間。余裕があるからと、マルが新しい物を買わせようとしてくる。さっきからずっとそれについて熱弁して来るが、どうにもピンと来ない。


「馬より速いのはわかったわ。私はそんな早い乗り物、怖くて乗れないわ。乗馬をした事がないのよ?」

『馬とは違い、身体の一部と化します。クラッチが無いので銃器の取り扱いにも支障が出ません。ニーグリップも出来る上、ステップの上に立って射撃しても安定した……ユーザーからは愛され……パーツも豊富で、レーサーカスタムをしているユーザーが中にも……その上、ATでありながら悪路を走破する事が出来るのです』


 説明されてもよくわからないのだわ!マルが饒舌過ぎて、なんだか怖いのだわ!

 明日試しに買ってみるとしよう。マルが一押ししている物なのだ、購入して損をする心配はないだろう。


「分かったのだわ!明日お買い物するのだわ!もう、難しい説明を止めるのだわ!」

『是非!マーケットスキルで買いましょう!当時の価格であれば規制後と違い安いので』


 マルがアタッチメントハッチをパカパカさせているのだわ。

 最近、マルが『街の外に、これだけ広大な土地があれば楽しめそうです』なんて呟いたり『風と一つになりたくは無いですか?』とか変な事を聞いてきたり。『私に感覚器官はありませんが、ジャイロセンサーでエンジンの鼓動を感じたいのです』と狂った聖職者の様な事を言い始めたりと様子が変になることがある。

 マルが何かの病気になってしまったのでは無いかと心配している。


「クーナちゃん!トルカとシュイちゃんを見なかった!?」

「いいえ、今日は店にも来ていないわよ」

「孤児院に帰ってこないんだって。大丈夫かなぁ……衛兵には知らせたみたいだけど」

「心配ね……」


 違法奴隷目的の人攫いとかに遭っていなければいいのだけれど。私も探すの手伝おうかしら。


「私、少し探して来るわ」

『クーナ、レシーバーをハイラさんに渡しておきましょまう』

「とても便利な、あの機械ね?」


 マーケットスキルで、遠くの人と会話出来る道具である、無線機を取り出す。周波数を設定して、ハイラさんに渡した。


「ハイラさん、これを持っておいて」

「何この箱?」


 ハイラさんに無線機の使い方を説明する。とは言っても、こんな短時間に難しい操作は理解できないだろう。PTTスイッチを押している時だけ声を送れて、ボタンを離さないと私の声が聞こえない事だけを説明した。


「それじゃ、気をつけてね!」

「ええ、ひとまず私はソックさんの所へ行って来るわ」


 ますは衛兵の顔見知りから聞き込みをしよう。もしかしたら、街の外に出ている可能性がある。

 私は東門へ足を運んだ。


「っつ……、交代のやつは何をしてるんだ、たくっ!」


 街の東門の門番で、珍しく悪態をついていた。


「ソックさん……そんなにイライラして、どうしたのよ?」

「クーナか!どっかから適当に衛兵を呼んでくれないか?日が落ちるというのに、子供が二人帰って来ないんだ!こんな時に交代のやつは来ないとは……!」


 もしかしたら、トルカとシュイちゃんかもしれない。交代が遅れているのは二人を探しているからかもしれない。


『こちらの二人ですか?』


 マルが街の壁にプロジェクターで二人の写真を投影する。なるほど、これなら聞き込みも簡単に出来る。流石はマルだ


「うぉっ!絵が壁に!?いや……驚いてる場合じゃないな。ああ、そうだ」

「私が外に出て探しに行くわ」

「お前が言ってどうする!俺が行く、適当な別の奴を呼んできてくれ。夜は狼の魔獣が多く出るんだ!」


 ソックさんは簡単に納得しなさそうだ。

 ここはマルが言っていた、馬よりも早い乗り物であるバイクを購入して説得しよう。


 マーケットスキルを開くと、マルが買えと言っていたバイクを表示させる。

 しかし……高い。他にも沢山似たような物が星の数ほどあるけれど、どれも躊躇する値段だ。しかし、安いのがある。


「マル!この初期型C100なら五万円とちょっとで買えるわ」


 スーパーカブ……


『ダメです』

「でも、説明に信頼性が高く、生産台数一億台を突破して、世界中のユーザーから愛されていると書かれているわ!」

『ダメです』

「でも……」

『ダメです』


 間違えて買った事にすれば良いのだわ!こうすれば安いほうを!人気があるのは良い物だというのとだわ!


『もし、もしもですよ?クーナがルレに射撃や露店の売り上げで負けた時、どんな気持ちになりますか?』

「つ、つらいのだわ……?」


 仲良くなったとはいえ、ルレに勝てる所が一つも無くなるのは嫌だわ。


『……今クーナが、そのメーカーの機体を買おうとしているのは、私がそういう気持ちになってしまうとだけ言っておきます。はい、確かにクーナが運用するのにも使えますよ……はい』

「うっ……」


 そんな事を言われたら……。でも、五万円と二十七万円では大きな違いがある。望遠鏡を三十二本売る金額と八本ある金額だ。私だって、作るのは楽な作業では無い。


「おい!早くしろって!呼ばなくても、俺は行くぞ!?」


 時間に追われていた事に焦る私は商品選択を押した。その商品の名はストリートマジックツー110。

 商品の出力時に、マルから事前に言われ、別途購入したオフロードタイヤという物を取り付けた状態に変更する。

 さらにマルが横から追加パーツを指定して来て、跳ね上がる購入金額。


『CDIに……強化ベルト……ウエイトローラーのセッティングをシミュレーションすると……』

「お金が……お金が無くなってしまうのだわ!」

「クーナらしくも無い。遊んでいるんじゃ無いんだぞ!?」

『クーナ、購入してください』


 購入したバイクを目の前に出した。馬車の四輪とは違い、縦に二つの車輪が付いた乗り物。こんな物に乗って左右に倒れてしまわないのだろうか?

 とりあえず、マルに前々から見させられていた動画のように、バイクに跨った。

 

「ソックさん、これを預けておくわ」

「なんだ、この箱は?」

『『あー、テステス』』

「箱から玉っころと同じ声が聞こえたぞ!?」


 確か、鍵をオンにして、ブレーキを握りながら……。


「この後、どうするの?」

『右手親指でセルを回して下さい』


 馬の唸り声を何倍も大きくしたような音が響いて来る。

 ちょっと、びっくりしたのだわ!


「何なんだそれは?分かった……訳が分からんが……お前らなら大丈夫な気がしてきた。俺も後で馬で追いかけるから、絶対に無理はするなよ!」

「ええ、行って来るわ」


 右手首をゆっくりと捻ってアクセルを回した。断続的に続く音が大きく鳴り響くと、バイクが急加速を始めた。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『アクセルを捻りすぎです!ツーストロークなんですよらぁぁぁぁぁぁぁ』

「何だったんだ……あの、うるさい馬みたいな乗り物は……っと、急いで応援呼ばないとな!」

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