14.恋する少年とお嬢ライダー②
商業ギルドの受付に立つ、とある女性職員は相変わらず、微笑んだらペナルティでもあるのかと疑うほどに愛想が悪い。
「おはよう。また、お世話になるわね」
「クーナ様、お待ちしておりました」
前日に予約したので、ギルド職員は私が訪問した理由を聞くことなく、椅子から立ち上がった。
「では、こちらへ」
依頼や商談等に利用される個室へと案内される。他の商人に聞かれては困る様な話は、周りから丸聞こえなカウンターでは出来るはずがない。
私は個室のソファーへ腰掛ける。
「貴女のおすすめのおかげで、良い宿に泊まれているわ。ありがとう」
「気に入って頂けて何よりです。クーナ様と同年代の娘さんがいらしたので、安心できるかと思いました」
「そこまで考えていたのね!とても凄いのだわ!」
「私が泊まった事のある宿屋を勧めただけなので」
私も宿を人に勧めるのなら、ジーゼルさんの所を勧めるだろう。食事も美味しいし、清潔感もある。その上、湯浴みまで出来るのだから。
「本日はエメリッカが担当させて頂きます。では、ご依頼内容をお聞きしてよろしいですか?」
「そうね。まず、私の用意する金属製の筒、これを八百本に切り分けて欲しいの。現物はこれね」
望遠鏡は長さの違う、二本の筒を伸縮させて、焦点を合わせる。だから倍の本数が必要なのだ。
エメリッカさんが、アルミパイプを手に取る。
「軽いですね……とても金属とは思えない。……精製法の登録はされていますか?」
「必要ないわ」
登録にはそれなりにお金が必要になる。現代の科学技術的に製造不可能らしい。魔導や錬金術を活用すればいつか出来るかもしれないし、二つが邪魔をして作れないかもしれない、と言っていた。
「切断の方法の指定は?」
「私が道具を用意するわ」
パイプカッターをテーブルに置くとエメリッカさんの長い耳がぴくりと動く。
「こちらでこの筒を切断するのですか?」
彼女の目が更に鋭く、不機嫌そうな顔になった。ふざけていると勘違いして、怒っているのだろうか?最初、どうやって使うのか、私も分からなかったし、当然かもしれない。
私は実際に実演してみる
「まずは、こうやって長さを図るの」
定規で測り、油性ペンで点を入れる。そこへパイプカッターの歯を点に合わせて、切断作業を始める。
私がパイプの切断を終えると、エメリッカさんの口が開いた。
「待って下さい。ナチュラルにサラッと、オーバーテクノロジーを連続で出さないでください」
エメリッカさんの顔が更に険しくなる。
「ひぇっ!」
「申し訳ありません……私、表情が硬いとよく言われるので」
「そ、そうね。ちょっとびっくりしたわ」
硬いとかのレベルでは無いのだわ!今の顔は、大切な何かを壊した者に向ける様な表情だったのだわ!
私はパイプを切っただけなのだわ!
「ひとまず、そちらの作業を依頼したいと言う事ですね。割高ですがら教会の運営している孤児院への限定依頼をお勧めします」
「それはどうしてかしら?」
つい先日、孤児院へ行ったばかりなので、タイムリーな話題で気になってしまう。
「道具の紛失、悪意を持つ依頼者に技術を盗まれる可能性があるからです。孤児院への指名依頼は寄付金が必要となりますが、信用できます」
「それでは、そちらでお願いしようかしら?」
「承りました。詳細な、依頼料と納期についてですが……」
エメリッカさんの丁寧な説明のおかげで、依頼作業が上手く話がまとまった。
「以上です。本日はありがとうございました」
「ありがとう。本当に助けられたわ」
「それでは、コストル支部ギルドマスター、エメリッカがお預かりします。またのお越しをお待ちしております」
「エメリッカさんはギルドマスターでしたのだわ!?」
「はい。ああ……忙しい時は私も受付のお手伝いをさせて頂いております。驚かせて申し訳ありません」
受付職員にしては、見かけない事が多いと思っていたのだ。そのおかげで、宿を紹介してもらったお礼を言いたかったが、顔を合わせなかった訳だ。
私がギルドのロビーへ向かうと何やら騒がしい。
「だからさ!もっと、難しい仕事をくれよ」
「何度も言うけれど、ランクが足りていないの。それに、子供が外への配送なんて出来る訳無いでしょ?」
「ケチンボババァ!」
「バ、ババァ!?私はまだ18よ!」
トルカだ。どうやら依頼受付のギルド職員と揉めているようだ。
「トルカ?あなた、何を騒いでいるの?」
「ク、クーナ!何でこんな所に」
「クーナ様は孤児院の子達とは面識がお有りでしたか?」
「先日、孤児院へ玩具の寄付をしたのよ」
「でしたら、司祭からの認可も簡単に得られそうですね」
子供を騙して、無理な仕事をさせる輩がいたら大変だものね。
「クーナって、もしかして親の露店を手伝ってるんじゃねーのか?」
「親は居ないわよ。私が出店しているの」
トルカはギルド職員の方へ顔を向き直す。
「な、なぁ!露店ってどうやるんだ!?」
憤怒の表情だったギルド職員の顔が、柔らかくなる。
「は、はぁーん。……なるほどーなるほどー?おねーさんそういうの嫌いじゃ無いわよ?1ヶ月で七千カクル」
「げ……足んねーよ!」
「一番安いのでこれよ。出店するのは良いけど、何を売るのよ?」
「あ……う、うっせばーーーか!」
トルカの言葉に、ギルド職員の表情に不満の色が見えた直後、屈託のない笑顔に切り替わった。
「………ちなみにそこの子、一日で五千カクルの所借りてるからね?隣にお店持ちたいなら、もっと必要よ?」
最初は安い所を借りていたが、客入りが全然違うので高い所へ場所を変更させた。商品の売れ行きも調子が良い。
「う、うそだろ……?」
「あー市場には沢山お金持っていて、強くてカッコ良い人、沢山いるからなー。クーナちゃんいつかは誰か好きになっちゃうかもねぇー!?クーナちゃん可愛いーもんねぇぇぇ!?」
「う、うぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
トルカは泣きながら、また何処かに行ってしまった。本当に良く逃げる子だ。ギルド職員のあの表情……あれ程の満足した顔を見せる人を私は知らない。
しかし、市場の人たちは良い人は多い。おじさまも、おばさまも、私に優しくしてくれる。
「市場の方たちは優しい方が多くて、みんな好きよ?」
「……クーナちゃんが尊すぎて、お姉さん浄化されてしまいそうだわ」
「テテト……あの子をあしらう手段として、遊んだのは不問にするとして……も。クーナ様の個人情報を勝手に口にするとは何事ですか?」
ひっ!エメリッカさんの表情がとても凄い事になっているのだわ!
「で、でも!露店の位置で分かるじゃ無いですか!?そんなに問題は無いかなーって」
「情報管理の規約に書いてあるでしょ?そういう問題じゃ無いのよ。まぁ良いわ……」
「ほっ……」
テテトさんは胸を押さえてホッとしている。
「ここではお客様の目もあるから、ギルド長室へいきましょうか」
「ぃ……や……いやぁぁぁぁぁ……」
私は魔物図鑑で似た、見た事があるのだわ……常に怒り猛るった様な顔を持ち、数多の冒険者たちに恐れられるという魔物……オーガ!!!
とっても……恐ろしいのだわ……!
商業ギルドから出ると、馬車や荷車を預ける停留所から商品を載せたリヤカーを引っ張る。
ギルドへの依頼も終わったことですし、市場へ行って出店の準備をしましょうか。
『依頼で新商品の製造に余裕ができましたね』
「そうね。目新しいものを作る方が楽しいわ」
露店に置かれているテーブルを組み立てる。そのままでは無骨で、可愛げもないのでリヤカーからクロスをバサリと広げて、テーブルの上に掛ける。
「クーナ、良かった。今日は休みかと思ったぞ。煙幕袋が欲しい」
弓使いのラルンさんだ。煙幕袋を随分と気に入ってくれている。今では常連さんだ。
「気に入ってくれているようね」
「これがあると魔物の群れを制圧するのが楽なんだ。ん?その袋は色が違う様だが……」
煙幕袋と見分けがつく様に、赤い色の布に包んでいる。
「新商品の催涙袋。鼻と目の粘膜を強く刺激する煙が出るの。煙幕袋の様に使ってはダメよ。風下にいる時に使うと、煙を浴びてしまうわ。風を読めらラルンさんなら使いこなせると思うわ」
これはラルンさんが気にいると思って作ったものだ。スキルの軍隊カテゴリーで、似たのを再現できそうなものはないか探して、マルが設計した。
「上手く使えば洞窟の中にいる魔物も燻り出せるのか」
「時間を置いて使える、導火線が付いた物もあるわ。こっちは少し高いけれど、使い方に幅が出ると思うわ」
「二種とも買おう」
新商品を気に入ってくれた様だ。考えた甲斐があるものだ。ラルンさんから冒険者向け商品の事を聞いて買いに来るお客さんも多い。
彼女の二つ名、風読みのラルンはその界隈では有名らしい。
「すいません。クーナさんお店はこちらかしら?」
訪ねて来たのは高齢の女性だった。
「ここであっているわ。どうぞ、いらっしゃいませ」
「ここに字が大きく見える道具が、お安く売っていると聞いたのだけれど。本当かしら?」
「ルーペのことかしら?二千五百カクルでお譲りしているわ」
「良かった……最近、字が読みづらくて困っていたのよ。本当に良かったわ」
眼鏡は市民の収入で買うには非常に高価だ。マーケットスキルを使えば、メガネを安く買う事は出来るけれど、メガネを作る工作技術は無い。
でも、そのうち道具を充実させれば、いつかはどんな物でも作れるかもしれない。




