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SWORD OF DESTINY  作者: ティケ
集結
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18/19

尊きもの

「さてと、どうしたもんかねぇ・・・。」

アールの選別により、キサラはとあるポイントの海辺に立っている。

「人生のほとんどを海で暮らして来たのは間違いないけどさぁ、海の底に駆り出されるとはね・・・。」

腕組みして立ち尽くすキサラの目に、海底から湧き上がる巨大な影が飛び込んだ。大きな波と共に、それは姿を現す。キサラは素早く下がり、それを見据える。

「鯨《くじら》・・・。」

それは見上げるほどの巨大な鯨。しかしその風体《ふうてい》は、自然に生きるものとは明らかに違っていた。

「まさか実際していたとはね・・・海の中を走る船・・・潜水艇。」

機械音を響かせ、鯨は口を開いた。その奥から。

「ほほぅ、アールの認めし遣《つか》いが、こんな美しいオナゴじゃったとは。しかしその力・・・これ程の人間が世に居ようとは。世界は広いのぅ。」

潜水艇から話しながら出て来たのは、人に魚の部位があちこちに見られる不思議な姿の種族。腰が曲がり杖をついていることからかなりの老齢と見て取れた。

「目にするのは初めてだ、あんた、海人《うみひと》だね。回路の守護者はあんた達かい?」

「ほっほ、元気のいいオナゴじゃな!いかにも!ワシは海人《うみひと》の長老フォーリー。お主、名は?」

「あたしはキサラ。」

「キサラ、良い名じゃ。さぁ船へ。我が都へお連れ致そう。」


二人は鯨の船に乗り込むと、機械音と共に口を閉じ、

沈み始めた。

「この船、どうやって手に入れたんだい?」

「作り上げたのじゃよ。海の都の創始者がな。」

フォーリーは目を細め語り始めた。遥か太古、海人《うみひと》が、安住の地を暗き水底《みなそこ》に求めるに至ったあの日の事を。


フファ。過酷な自然環境に、科学という力を用いて適応し、強大な国力を見出した国。やがてその力は他国へと向けられ始め、凶悪な兵器を生み出す。国の暴挙。しかしそれを諌《いさ》めんとする者もあった。全ての引き金、鉱石シグを生み出した科学者アールと、幾人かの仲間。アールは仲間の一人に出来るだけ多くの国民の大陸脱出を託した。戦いの収束と未来の帰還を願って。アールが国と戦う準備を急ぐ影で、国民を託されたその者は、脱出した国民が二度と戦火に包まれることの無いであろう海底を安住の地と定め、かねてから研究、開発を進めていた潜水艇を完成させ、保護した国民と共に水底に移り都を築いた。しかし水中という環境に人間が適応する事は困難を極めた。そして苦悩の末、国民を守るため、平穏を維持するため、地上に戻る道を選ばず、海の生物から最低限の必要な機能を人間に移植した。そうして海の民、海人《うみひと》が誕生、潜水艇は万一に備え、都に保管される事となったという。


「都が出来てすぐ、創始者は単身アールの元に向かい、共に国に戦いを挑むも深手を負い、息絶え絶えで回路を持ち帰り、アールかその使いが来るまで回路を守護するよう言い残し、絶命したそうじゃ。」

「身体に手を加えてまで、なんで海の底に・・・。」

「フファは唯一、海中だけは手を出せなかった。術を持たなかったのじゃ。先祖が国に潜水艇の技術を渡さず、あえて海底へと技術を閉じ込め、門外不出とするために、地上に戻る道を閉《とざ》したのじゃよ。そしてわしが長老として認められたその日、アールは訪れた。再び災いが起こると。アールはフファが自ら海底に進む術を生み出す可能性が拭えないと、我らに幾《いく》ばくかの戦う力を残し、時が来たら使いをよこすと言い去って行った。」

「・・・憎しみの亡霊・・・。」

「キサラよ、我ら海人《うみひと》が徹底的に魂まで刻んだ教えがあるんじゃ。我らは逃げるためにここにいるのでは無い。立ち向かう力を見出すために、フファの悲しみを知り、フファを暖かなる国へと変える為にここに来たのだとな。都の創始者は命を賭して、その教えと、悲しみを生みし兵器の回路を持ち帰ったのじゃよ。」


話している間に、海底の都が姿を現した。同時に船内に警報が響く!フォーリーとキサラは操舵室に急ぐ。遥か前方に無数の船のような影。

「・・・時は・・・来てしまったようじゃのぅ・・・。」

フォーリーは意を決し乗組員に一声を放つ。

「戦闘配置じゃ、このまま迎撃じゃ!都の船も出撃させるんじゃ!」

にわかに沸き立つ船内、しかしキサラは静かに相手の船影を見ている。

「相手は十《じゅう》・・・こっちはいくつだい?」

「残念ながら数では負けておる。この都の周囲の地の利を活かし迎え撃つつもりじゃ。その間に主を都に下ろし、回路を渡し小型潜水艇で退避して頂く。」

フォーリーの言葉にニヤリと微笑むキサラ。

「飲めないねぇ、しっぽ巻いて逃げたんじゃ、一体何しに来たんだか・・・この戦、あたしがもらった!」

「何を言う!我らとて先祖より再び立ち上がる意志を継いでおる!何を捨ててでも回路を守り、戦いに打ち勝つ!これは、我らの戦いじゃ!」

「あんた間違ってるよ、あんたのご先祖さんは、あんた達みんなが再び国に戻ることを強く望んだんだろ、だったら無駄に命を捨てるんじゃなく、あんたのくだらない意地を捨てて、民衆一人残らず国に返す方法を考えな!それに、あたしは心に決めてるんだ、大昔に世界を、そしてこの時代に妹を魅了し狂わせたシグの引き起こす悲劇は、このキサラが断ち切るってね!だからこの戦は譲らないよ!」

「・・・なんという強き心、強き意志・・・それに比べてわしはなんと小さき事、すまぬ、我らを率い、光をもたらしてくれ!」

「・・・早速行くよ!この船の舵はあたしに取らせな!」


操舵席についたキサラは、フォーリーに各潜水艇の構造を入念に確認する。

「なるほどね、シグを動力炉と砲台に使い、直結させてシグの力をそのまま砲弾としてぶっ放す、あいてがシグでもどうにか戦える仕掛けだね。お次は・・・。」

キサラは周囲の地形を見渡す。前方には障害となるものは全く無い深海平原。右側には海山群があり、左側には巨大な海溝がある。

「あんた達出番だよ!そして・・・ワズ、一緒に戦っとくれ!」

精霊達を召喚しつつ、ワズを操舵輪に同化させ、動力炉に直結する。技術だけでなく、思念で船を動かす為に。都からも潜水艇が現れる。その数、三隻《さんせき》。

「三つか、上等だね!」


「ほぉ〜あれが都か!」

敵艦の中で一回り大きい母艦に鎮座する、銀色の肌の少女。しかし立派な軍服に身を包んでいる。

「遂に着いたか!しかし、敵さん護衛《ごえい》も無しの丸腰かい?こりゃ獲ったも同然だね・・・て、おい!取舵一杯!!」

突然の砲撃。敵影は全く無い。間髪入れず次々と砲弾が来る。

「なっ!?どういうこっちゃ?船なんて居ないのに!」


「うまく行っているようですね!」

「その調子だ、ナツ。」

水の精霊ナツの力でわずかな光を屈折させて船体に当たらなくしている。いわゆる『目くらまし』だ。


「舐めるなよ・・・弾の出どころを狙え!見えなくてもそこに居る!反撃だぁ!」

しかしカルナ軍の弾は海の奥へと消えて行った。

「移動したか!どこだ!」

カルナは目を凝らし思考を巡らせる。

「海山群に身を隠すか海溝に身を潜めるしかないはず・・・。」

カルナは気づいた。続く砲撃の位置、そして船が移動する時にどうしても出来てしまう泡の様子。キサラ軍は海山群に移動している。

「見〜っけ!追っかけて沈めてやるぅ〜!!」


「掛かった!出るよ!」

海山群に向かったと思われたキサラ軍が海溝から現れる。カルナ軍は完全に背後を取られた!

「な!後ろ!じゃあこっちは・・・あの砲撃と泡は・・・ニセモノ!」

カルナが目を丸めて捉えたものは、地の精霊モミィにより海底の岩から造られた模型。砲撃は火の精霊キーンが生み出した熱エネルギーの光弾だった。更にキサラ軍の艦隊は、風の精霊カームの力で泡を消す事で、カルナの目をおとりに集中させていた。


「さあワズ!力を貸しとかくれ!」

キサラの生命力がワズのシグエネルギーを増強し、砲台に充填される。

「全艦最大出力!ブッ放せ!!」

キサラ軍の全力の砲撃がカルナ軍全艦を包み込む。強大な力に消滅していく艦隊。

「なんと見事な戦術!キサラよ、アールが見込んだだけの事はあるのぉ!」

感嘆するフォーリー。しかし・・・。


「おのれ・・・おのれ・・・おぉのおおぉれええぇ!!!」

討たれる刹那、カルナは自艦をシグエネルギーの防護膜で包み、砲撃を凌いでいた。

「アタマが残っちまったね、ただじゃ転ばないか。」

唯一残ったカルナの船底が開き、何かがゆっくりと海底に落下していく。それは海底につくと弾け、もやもやと広がっていく。

「死ね、みんな死ね、海人共!海の藻屑《もくず》になっちまええええぇぇ!!」

狂気の笑顔で叫ぶカルナ。そして・・・。


「これは、魚達が・・・。」

「ああ・・・ああ!海の命が!海が死んでしまう!」

精霊ランが現れ、悲しみに叫ぶ。

「これは毒!シグの力が乗った凄まじい殺傷能力の猛毒だ!広がる速さも尋常じゃない!これじゃこっちも相手も船ごとやられちまう!海の底のあらゆる命も自然も、根こそぎ一緒に自爆とはね・・・。」

愕然とするキサラ。


「これでいい。元々アタシはユウ様の尖兵に過ぎない。この作戦も時間稼ぎ。そろそろ目的は果たされてるはず・・・フファの悲劇で半死にのアタシをシグで救ってくれたユウ様の助けになれば・・・アタシは!」


遂に船内に毒が回って来た。苦しむキサラ、そして精霊達も。

「ぐ、くそ・・・」

「苦しい!」

「ヤ・・・バイよ・・・これ。」

窮地の中、ランは必死で立ち上がる!

「頑張らなきゃ、私が頑張らなきゃ!みんな!私に力を集めて!」

ランの声に、精霊達は力を振り絞る。四人の力がランに集まる。

「命が生まれ、命が帰るまでの長い間、その命達は互いを支え合う。どんなに小さくても、どんなに遠く離れた命でも、巡り巡って連鎖して、新しい命の輝きを生むの。精一杯生きて、生という素晴らしさを伝えながら、燃え尽きたとき、死という悲しみを伝えるの。そして新しい命に受け継がれるものが、命の尊さ!この世に大切じゃない命なんて、一つもないの!命の灯火は、無理やり消してはいけないの!」


「ああ!その通りだ!そして俺達四精霊は、その命を生み出す自然なんだ!」

「そうですね!そして私達は命を見守る!」

「そして命を導く!」

「んで、帰る命を迎えるんたぞ!」


ランと四精霊達の思いが重なった時、ランの姿は光の塊に変わった。強く、眩しく、しかし温かいランの光は海底を包み、毒を浄化していく。

四精霊達も姿を変える。キーンは立派な鎧に身を固め炎の槍を持つ騎士に。カームは風を切るような鋭い翼を持つ竜に。ナツは氷の冠と飛沫《しぶき》のマントを身に着けた美しい女王に。モミィは花冠と花のドレスに身を包む姫君に。

「お前達、覚醒したんだね・・・。」

キサラは笑みを浮かべ精霊達を見ていた。

そこに都からの緊急連絡。

「何事じゃ!・・・なんじゃと!」

「どうしたんだい!」

詰め寄るキサラに無念の表情のフォーリー。

「回路が奪われた。突然空間が歪み、現れた機人に護衛が倒され、持ち去られたと。」

「ちっ!まさか一軍が囮とは・・・。」


「ウソだ・・・あの毒を・・・上回るなんて。」

硬直するカルナの背後に影。回路を持ったゲインだ。

「あんたは!」

「・・・。」

「ぐは、ユ、ユウ、様・・・ご・め・ん・な・さ・い・・・。」

カルナの心臓を手刀で一突きするゲイン。消えゆくカルナ。そしてゲインは空間転移で姿を消した。


突然、全ての機能を停止し、水底に沈むカルナの潜水艇。

「なんだ?」

見つめるキサラにワズが語りかけた。

「あの船の中で一瞬、シグの力が二つになって、片方は静かに消えて行きました・・・とても寂しそうに・・・。」

「そうかい・・・。」

キサラはため息を一つ、そのまま沈黙した。


「キサラよ、よく戦ってくれた、ここでの役割は終わったと言えよう、陸に戻られよ。新たな役割もあるじゃろうて。」

「ああ、済まない。」

キサラは一瞬目を閉じた。

「追っかけようぜ!キサラ!」

キーンが発破をかけて来た。

「私達で終わらせましょう!負の連鎖を!」

「フファに乗り込もうよぉ!」

「我も望む。悲しみの終焉《しゅうえん》を!」

ナツ、モミィ、カームも続く。

「フッ、もちろんさ!全てを終わらせるんだ、それには必ず、あんた達の力が必要になる。今のあんた達となら、出来るよ・・・。」

キサラは心で呟く。

「全てを無事に終わらせるには・・・ラン、特にあんたが一番必要なんだ、頼むよ、ラン。」


キサラはこの時確かな手応えと、この世の全ての行く末を朧気《おぼろげ》ながら感じていた。

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