竜人
ロイの帰還を大喜びで受け入れたアールは、再び全員を集め、フファの兵器の『回路』の話を始めた。アールは回収した回路を、四つの『存在』に託していた。ユウ達はこれを狙ってくると想定し、ロイ、サシャ、キサラ、レナの四人が一人ずつ、その『存在』の居場所に向かい、こちらで回路を先に回収するという作戦を打ち出した。
「敵さんは七人、といっても自陣を空っぽにはしねえだろう。おそらく一カ所につき一人ずつの布陣だろうな。しかし奴らはかなりの強敵だ、無茶は禁物で頼むぜ!」
全員力強く頷く。そしてそれぞれに、回路を託した『存在』の説明と、大まかな地図が手渡された。
その『存在』のひとつ・・・
この世界において、全ての生物の頂点に立つと言われる存在、竜。その知力、魔力は、人知を超ゆる。
古の時代、彼らは他の生命たちと、共に世界を見守るべく、その強大な力はそのままに、人の姿を形取る。そして密かに人の世へと流れ行き、その力で時に人を導き、時に人を戒めた。そして竜達はいつしか竜の力を使いし人、竜人と呼ばれ始める。
そして・・・世界の災厄・・・
災厄の後、竜人の元に災厄の業を背負う者が訪れ、願いを乞うた。竜人の長は、その者の苦しみを受け入れ、願いを聞き入れた。竜人王シュウは、その願いの元を手に取り眺めていた。
「竜人の巫女シノ、ミク、試練を乗り越え、覚醒を果たすのだ。時代が動いた。」
「座標に到達、探索開始・・・」
レナは装備された飛行能力により三人を送ったあと、自らの目的地に到着した。しかし町や村はおろか、集落らしきものも無い。
辺りを見回していると、一頭の飛竜が舞い降り、騎士の姿に変わった。その肌は銀色。
「・・・シグエネルギー反応大、七機神の可能性あり。」
レナは木陰から、騎士の入る洞窟を見ていた。
「・・・なぜに戻った、ヒイロ。」
竜人王シュウは銀の騎士の名を容易く呼び当てた。
「久しいな、竜人王シュウ、いや・・・父よ。」
「負の力に溺れしうつけよ。主の目的はわかっておる。これであろう。」
シュウは懐から、特殊な布に包まれた何かを取り出した。布を取ると奇妙な形の金属が姿を現す。が、すぐに懐にしまう。ヒイロは目を細める。
「我らが力のあり方を見誤り、魔道に堕ちた貴様には渡すわけには行かぬ。去れ。」
「笑止な。渡さぬなら、殺して奪うまで!」
「やはりか・・・だが・・・ただでは沈まぬぞ!」
互いに竜と化し激しくぶつかり合う。両者の力は拮抗しており、戦いは無限に続くかのようだった。
その頃、竜人の祠の試練に挑む二人の娘。竜人の巫女、シノとミク。
「もう何日歩いたことか・・・」
「もう!どこまで続くのよ!ずっと迷路じゃない!」
祠の中は複雑に入り組んだ迷宮。ただ、何も起こらず、誰もいない、虚無の空間がひたすらに続いていた。
「何事もないことが、これほど重いとは・・・でも、負けるわけにはいかない!」
「あたしだって!」
ミクがふと左肩をなでる。
「お姉ちゃん、肩のアザ、なんだかうずく感じしない?試練と関係あるのかな?」
「ミクもなんですね、私もです。悪い予兆でなければ良いのですが・・・」
シノも右肩に触れた。二人の肩にはそれぞれ竜の頭部を模したアザがある。二人が生まれた時すでに父親はおらず、母に育てられた二人だったが、幼少期からぼんやりとアザが浮かび、年を追うごとにそれは形を成した。母はいつもアザを見るたび、神妙な面持ちをしていた。自立して身の回りのことを自分で全て出来るようになった頃、突然母は、『役目を果たす』と書き置きを残し、行方をくらましてしまった。アザの事、母の素ぶり、役目、多くの謎が残された。
二人は歩き続けた。果てしなく。
「お・・・お姉ちゃん、少し休まない?」
「ん、いや、このまま歩き続けましょう。今の状況で歩みを止めたら、もう足が言うことを聞かなくなるわ。」
そう言うシノだが、その表情には焦燥と疲労がにじみ出ていた。
「少し休んだ方がいいよ!お姉ちゃんも疲れ切ってるじゃない!何かあったら対応出来ないよ!」
ミクの心配をよそに、シノは進み続ける。
「もうっ!頑固なんだから!」
「ミク、休んでていいわよ、私は先に行きます。一刻も早く試練を乗り越えたいから。」
「そ、そんな事言わないでよ!試練を乗り越えたい気持ちはお姉ちゃんにも負けないんだから!」
話しながら歩き続けていると、迷宮に変化が。どこまで続くとも知れない長い一本道。二人は顔を見合わせ進んで行く。突然周囲の空間が歪み、闇が二人の視覚を遮った。得体の知れない力に二人は飲み込まれる。
「うっ!ああああああ!」
「お姉ちゃん!お姉ちゃあああん!」
「うっ・・・!?ミク?」
視覚を取り戻しシノは広間に立っていた。その奥に人影。ゆっくりと近づいてくる。シノはその人影の正体に言葉を失った。
「ようこそ、もう一人のシノさん。」
生き写しの自分が、無表情で、冷ややか視線を向けている。
「私であって、私ではありませんね。」
シノは槍を構え、さらに問うた。
「ミクをどうしたのですか!」
「今ごろ私の妹と遊んでるんじゃないかしら。」
ミクもまた、別の広間で別の自分と対峙していた。
「あんた、何者!」
「あたしはあんたの心そのもの、本当の魂。表に出るために、あんたを闇に包んであげる!」
突如襲いくる分身のミク。突き、蹴りの雨嵐しかしミクも得意の体術でなんなくかわす。
「それだけの腕があるのに、出来もしない槍術に没頭して・・・一体何になるの?」
「あたしは・・・お姉ちゃんに・・・認められたいだけだ!」
ミクの乱打、しかし決定打にはならない。
「あたしはお姉ちゃんの一番でいたい!お姉ちゃんのとなりは誰にも譲りたくない!だからお姉ちゃんの出来ることは、全部出来なきゃ気が済まないんだ!」
二人の乱打戦が幕を開ける!空を割き、地を揺るがす激しいぶつかり合いが始まった!
一方シノは・・・
「始まりましたね。あなたの妹さんと私の妹・・・表に出るのはどちらかしら?」
「表に出る?それは一体・・・」
「私達と同じ関係です。私はあなたの本当の心、本当の魂。私もあなたを闇に包んで、表に出るわ!」
分身のシノの鋭い槍の一閃を見事にいなすシノ。
「分かりました。あなたこそが、試練なのですね。ならば私はあなたを退け、私を・・・超えます!」
「民を導くはずが、民に振り回されてるあなたに出来るかしら?」
「何・・・を・・・」
ニヤリと笑う分身のシノ。にらみ返すシノ。
「あちらを立てればこちらが立たず。どう決断するつもりなのです?早くしないと民が分裂して紛争が起こるわね。簡単ですのに。自分に肌の合うどちらかを選ぶだけでしょう!」
「私は・・・皆が歩み寄り、幸せを得られる里を望みます!」
シノの返した一閃を皮切りに、一進一退の攻防が始まった。
ミクもまた、一進一退の攻防を繰り広げていた。
「そうやってお姉ちゃんにくっついてばかりいても、お姉ちゃんはあんたなんかかまってられなくなるよ!民を従え、民を導く、竜人を担う存在になるお姉ちゃんには、あんたの存在は足かせになるかもよ!」
「足・・・かせ・・・」
一瞬の隙を分身の一撃が襲う。壁に叩きつけられるミク。
「あんたとお姉ちゃんはいくら頑張っても別の存在、いつまでも一緒でいられる訳ないのよ!」
「一緒じゃ・・・ない・・・そうか、それもありか!」
「なにぶつぶつ言ってんの、終わりにするよ!」
分身が渾身の一撃を放つその刹那、ミクの竜のアザから強力な力が溢れ出し、分身を壁に叩きつけた。
「そうよ、お姉ちゃんと私にはそれぞれ得手不得手がある。なら私は、お姉ちゃんの得手を一緒に伸ばして、不得手を助ければいい!お姉ちゃんの死角をあたしが守って、一目おかれるあたしになればいい!それがあたしの決意だ!」
ミクの想いの増幅に呼応して、強大な力と共にミクは姿を変える。強靭な四肢で大地を掴み、大地の力を我が物とする伝説の地竜。
「これが、真のあたしなんだね、もう迷わない!腹をくくって突き進む!」
地竜となったミクのブレスが分身をかき消す。と同時に、ミクも人の姿に戻る。そして脳裏に声が響いた。
「お見事です。」
シノは肩で息をしていた。なおも激しく襲い来る分身。
「人の心は移ろいやすいもの。居心地のいい、性分に合うところにすぐに流れて行くわ。片時もあなたから離れない人なんて絶対にいません。だからあなたも・・・自分に合う人とだけ繋がって、あとは切り捨てればいいのよ!」
分身の凄まじいなぎ払い。シノは大きく弾き飛ばされる。
「いいえ・・・私は貫きます。私にわずかでも接してくださる方すべてに感謝し、去る方も必ず戻ることを信じ、すべての声に耳を傾け、肌で感じ、人の輪を築いて行きます!すべての人を愛し、愛される自分になります!これが私の信念です!」
ゆっくりと立ち上がるシノの竜のアザから力が溢れ出す。その力と共にシノは、雄々しき翼持ち、天の力を我が物とする伝説の天竜となる。
「これが、私の力、力を見誤らす、持て余さず、私は翔ぶ!」
天竜となったシノの翼のひとなぎが分身を切り裂く。そして再び人の姿に戻ったシノの脳裏に声が響いた。
「お見事です。」
二人の脳裏に響いた声はとても暖かく懐かしい、よく聞いた声だった。その声の主は、昔突然、役割を果たす時が来たと姿を消した人の声。
シノとミクは再び歪みに引き込まれ、同じ部屋にたどり着いた。目の間には、とても流麗な、全身銀色の美しい竜が、優しい目でこちらを見ていた。
「あなたは、マーリお母様?」
「母さん?母さんなの!」
二人の問いかけに銀竜が答える。
「その通り、マーリです。二人とも大きく成長しましたね。よくぞ試練を乗り越えました。私の役目がひとつ終わりました。」
「お母様、竜人を担う者への試練を与え、相応しい力を導き出す、これが巫女の大きな役目なのですね。」「そうです。そして見事にあなた達は応えてくれました。シノ、ミク、それぞれ右肩、左肩に竜の頭部のアザがありますね、それこそが、天竜と地竜の転生の証し。二人こそが、天竜と地竜そのものなのです。私は意を決しました。伝説の双竜の覚醒の道しるべは、母である私でなければならないと。そしてすぐさま、祠にこもり、覚醒の時を待っていたのです。突然去り、悲しませてごめんなさい、シノ、ミク。」
「あたし達が・・・伝説の原初の双竜だったなんて・・・」
「お母様、私達なら大丈夫です。二人きりになったからこその成長を遂げられたのですから。」
「そうだね!二人三脚、あたし達は強くなった!」
「シノ、ミク、ありがとう!」
マーリは人の姿に変わった。しかし銀色の肌をしている。
「お、お母様、その肌の色・・・」
驚愕のシノに、マーリは厳しい眼差しで語る。
「祠に入る直前、災厄を背負いし者に会いました。時代が動くやもしれないと。その時に備え、私は力を受け入れました。災厄の再来に、立ち向かう力を。そして、やはり災厄は再び訪れようとしています。私は止めに行きます。最果ての地に!」
「お母様・・・」
「母さん・・・」
「あなた達は里に戻り、民を守りなさい。里を、民を、お願いします。」
「お母様!世界の運命をお一人で背負うなんて!私達にも手伝わせてください!」
「そうだよ!危険すぎるよ!絶対一緒に行くんだから!」
戸惑うマーリにシノが被せる。
「地竜、大地の力にて全てを育み、天竜、空より全てを包む。双竜その力にて、全てを導く、とあるように、私達が全てを導く存在ならば、世界の危機を止めるのは私達の役目でもあるはず!お母様、共に行かせてください!」
はっとするマーリ。しかし、マーリは黙って歪みを生み出す。
「里に戻りますよ。」
三人は歪みに引き込まれ、王の元へと一気に飛んだ。
歪みから出た三人の目に残酷な光景が飛び込んだ。
「シュウ様!」
そこには満身創痍で横たわるシュウと、壊れた機械仕掛けの女性がいた。女性は自力で自己修復しながら、シュウの命を繋ぎとめていた。
「シュウ様この惨状はいったい・・・」
マーリがシュウに語りかける。
「ぐ・・・覚醒・・・出来たか・・・よくぞ・・・しかし、回路が・・・ヒイロに・・・」
「やはり動いたのですね、時代が。急がねば!シュウ様、私は最果てに向かいます!最後の役目を!」
「マーリ・・・ならん・・・一人では・・・」
シュウはマーリを制止すると、懐から武具を取り出した。
「シノ、ミク、共に行くのだ、これを・・・」
シュウはシノには両端が刃先になっている双身の槍を、ミクには鉄甲と膝当てを差し出した。
「災厄を背負いし者アールが我に託した希望だ・・・マーリと共に災厄を止めよ!」
「シュウ様、このような事態では、里はどうするおつもりなのですか!」
機械仕掛けの女性が割って入る。
「皆様わたくし、アールの使いのレナです。この度の失態、深く陳謝いたします。王様は急所を外され、一命を取り留めています。またご自身の回復力とわたくしの治療で、約3時間あれば全快されます。敵組織は回路の回収成功により、この後は守りに入るためしばらくは里も安全。今のうちに最果てに向かえば、里も民も守れるはずです。」
「災厄を背負いし者アール様の使いの方ならば、その言葉、信じましょう。シノ、ミク、行きますよ!二人は私の背に乗り、力を蓄えて起きなさい!」
竜のマーリに飛び乗る二人。世界の行く末をその背に背負い、今、飛翔する!




