夜明け
ワズの元へ急ぐキサラとロイ。
「ロイ、降ろして、もう大丈夫、ごめん。」
サシャが目を覚ました。
「ちょいと頑張り過ぎだねぇ、配分を考えないと生き抜けないよ。」
キサラは厳しい言葉を向ける。
「すみません、もう足は引っ張りません。」
深く長い階段。まだまだ終わりが見えない。階段を降りながらロイはティーダと対話していた。
「何か方法はないのかティーダ。キサラさん、場合によっては刺しちがえるつもりだ。ワズさんからシグを取り除けないか。」
「シグにはシグを。方法がないわけではない。シグを粒子レベルで吸引し、体外まで誘導は可能、しかしこの方法を成功させるには強力な生命力が必要になる。シグとの融合を果たし、無尽蔵の生命力を得た機人であれば容易く出来よう。しかし我が行うにはロイ、主の生命力を使用する事になる。主の命を脅かしかねない、実行する訳にはいかぬ。」
「ティーダ、俺はもう目の前で誰かの命が失われるのはもうごめんだ!いざとなったら頼む。」
ロイはティーダとの対話を一方的に遮断した。
ちょうど目の前には扉。ゆっくりと開く。奥には特殊な形状の椅子。ワズが掛けていた。
「フフフ・・・この時を狙うとは。来るとは思っていたが。」
ワズは立ち上がり、不敵な笑みを浮かべた。
「残念ね、姉さん。私の力は戻った!もう誰も私を止められない!」
ワズが手をかざすと、4体の何かが現れた。
「精霊・・・呪術で操られてる。ワズお得意の精霊魔法。」
キサラは構えた。ワズが次々と精霊達の力を繰り出す。風の刃、火柱。凄まじい破壊力でロイ達を翻弄する。サシャが光の壁で攻撃を止める。すかさずロイが切り込み、キサラは鞭を振るう。ワズは土の壁で防御、水と火で霧を作った。
「これでは捉えられまい!」
しかしその霧の向こうで何かが起こった。
「貴様!何・・・ぎゃあああぁ!」
晴れて行く霧。三人の目に映った光景に衝撃がはしる。
ワズの心臓に、手刀を突き立てる者。銀色の肌、長い髪、切れ長の瞳。機人だ!
「ユウ!」
ティーダがその機人の名を言う。サシャが突然震えだす。
「あ、あ、あいつ・・・村を、エタさんを・・・」
「サシャ!あいつなのか!あいつが村を!母さんを!そして今度は・・・」
感情に任せてロイが斬りかかる!
「どけえええええ!」
しかし凄まじいエネルギーでロイは弾かれた。強く壁に叩きつけられる。
「邪魔をするな。」
キサラとサシャも強力な攻撃をくらう。身じろぎも出来ないダメージ。
「ティー、ダ、あ、いつ・・・」
「あやつは、災厄に最も深く関わりし者。災厄の根源に最も近い者。」
ユウと呼ばれた機人は、ワズからみるみるシグを抜き取る。人に戻っていくワズには、ユウの手刀のダメージは大きい。悲痛な叫びをあげ、ワズは倒れた。
「違う、これではなかった。グスクには無かったか。しかしなかなかの高純度、持ち帰るか。」
ユウがシグを確認した一瞬の空き、ロイは全身全霊で一撃を繰り出す!ユウの背中にひと突き!
「ぐ!しまっ・・・核をかすめたか!」
攻撃の反動でシグを落としたユウはロイの髪を掴み振り払う。ロイはティーダと共に飛ばされた。空間を歪め飛び込み、ユウは消え去った。
絶命寸前のワズ。三人はにじり寄る。手を握るキサラ。
「ワズ!ワズ!助けるから!また昔みたいに楽しく暮らそう!全部水に流して楽しく・・・」
サシャは回復魔法を全力でかけている。しかし戦いの疲弊からか、魔力は弱い。
「しぼれ!もっともっと!」
サシャは涙を浮かべ、自分に言い聞かせ魔法を続ける。
「ね、姉、さん・・・私、許せな、かった、この国を、王を・・・私、が、王になって、平和な国、作って、姉さん、と・・・」
ワズはついに大量の血を吐いた。
「ワズ!しゃべるな!ワズ!」
力が抜けていくワズ。キサラは目を閉じ、魔力を振り絞るサシャの腕を握った。
「サシャ、ありがとう、もう、いいよ。」
決意を固めたキサラの顔を見て、サシャは・・・魔力を・・・止めた。
キサラはワズをおぶり立ち上がる。
「日が昇る前におらさばだよ。」
キサラの目に、ユウの落としたシグが目にとまった。
キサラがそっと手に取ると、キサラの脳には、はっきりとワズの声が響いた
「姉さん・・・一緒に・・・」
キサラはそっと懐にしまった。
地下を出て城の一階にたどり着いた頃、大砲の砲撃音が響き始める。絶え間無いその音は砲撃の激しさを物語る。しかし、なぜか弾は全く届かない。
「始まったねぇ!屋上へ行くよ!最後の確認だ!」
三人が屋上へたどり着く頃砲撃は止んでいた。その理由が、眼下の海で展開されていた。グスク海軍を取り囲む、おびただしい数の海賊船。その数はゆうに海軍の倍。白旗を振る海軍。
「あたしの仲間が集まってくれたんだよ。グスクで派手にやらかすって言ったら、海の事は任せろってね。さあ何もかも終わった。ワズ、見送りするよ。」
登り始める朝日を浴びながら、三人は城を後にした。
キサラがワズを連れてきたその場所は、スラムの端の、両親が眠る場所。
「これでいい。ワズも寂しくないだろ。」
ワズの弔いの儀式を終え、船に戻ろうとしたその時、小さな存在達がキサラを取り囲んだ。
「よっしゃあ!間に合ったあ!あたしはモミィ!地の精霊だよ!」
キノコの傘を被り、様々な花びらで出来た洋服の少女のような姿の精霊だ。
「俺はキーン!燃え盛る火の精霊様よぉ!」
屈強な真っ赤な体、その胸の中で炎を焚いている火の精霊。しかし衣服は短パンのみである。
「私はカーム。風の如き速さを追いし者です。」
人間の下半身に、四つの車輪のついた不思議な形をした下半身を持つ風の精霊。
「私はナツ。水の精霊です。」
青い肌に波のような髪、渦のようなローブをまとった女性の姿の精霊。
「おまえたち、ワズの。」
ワズの使役していた精霊たちが、なぜかキサラを追って来ていた。
ナツが事を説明する。
「先程は操られていたとはいえ、横暴な立ち振る舞い失礼しました。実は私達は、精霊の大長老様に世を学ぶよう言われてワズさんに使役して頂いていたのですが、悲しい事態になってしまいました。私達は主人を失うと消えてしまいます。まだ半人前の私達、まだまだ学ぶ事も多く、今消えてしまうわけにはいきません。キサラさんにも精霊術の心得があるとワズさんから伺っております。どうか私達を使役してくださいませんか?」
「おやおや、精霊術の事バレてたのかい、まぁ、ワズが可愛がってたんなら、ほっとけないね。ついといで!」
ぱあっと笑顔になる精霊達。そして。
「キサラさんっ!この子も一緒にお願いしますぅ!」
モミィの後ろに少女がもう一人。白と赤の不思議な服を着ている。東方の巫女の姿だ。
「私はラン!精霊の力を大きく出来るの!みんなと勉強中なの!」
「へぇ、そんな存在は初めて知ったよ。こうなりゃまとめてみてやるさ。おいで!」
キサラは描いていた。精霊達と楽しく過ごしているワズを。そして思った。ワズの大切なものは自分も大切にしたいと。そしてロイに声をかける。
「ロイ、あんたの旅にあたしをまぜてくれないか。ユウってやつが許せないのもあるけど、すべての発端のこのシグの災厄、知らなきゃいけない気がして来たんだよ。その力ゆえに、悲しみを生んでしまうシグの事をね。」
「キサラさん、とめても来るでしょ!」
ロイが笑って返す。キサラにも笑顔がこぼれる。
キサラは天を仰いでから声をあげた。
「みんな!あたしの船に来な!新しい船出だ!」
そしていわばワズの形見のシグを抱きしめ歩き出した。




