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SWORD OF DESTINY  作者: ティケ
胎動
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10/19

過去

兵士達が右往左往《うおうさおう》しているその頃。


「うっ!!」

「きゃっ!」

ロイ達はふかふかのマットの上にいた。

「姉御!うまく行きやした!」

体格のいい男がにやりと笑う。

「リゴ、良くやったよ。」

聞き覚えのある声。

「あなたは!」

マットの隣に立っていたのはキサラだった。


ここは下水道。キサラの部下リゴが、二人の足元の下水道の入り口を開き、目にも留まらぬ速さで二人を下水道に引き込んだのだ。入り口の開閉も素早く、兵士達には二人が消えたようにしか見えなかった。

「危なかったねえ、良く逃げ切ったもんだ。」

「どうして、俺たちを?」

困惑するロイ。

「話しは後だ、感付かれる前にずらかるよ!」

二人はキサラ達に導かれるまま下水道を走り続けた。


しばらくしてキサラが立ち止まる。

「出るよ。」

真上の入り口を、リゴが先頭で慎重に開ける。

リゴの合図でキサラ、ロイ、サシャと続く。

外に出て目の前に広がった景色は、とても住居とは言い難い、ぼろぼろの家屋が立ち並び、かすかに腐敗臭漂うスラム街だった。

「こっちだ、急ぐよ!」

キサラの向かう先、夜の海が広がる。しかし何かが不自然だ。目を凝らすと、巨大な黒い影。真っ黒な布で覆われたキサラの海賊船だった。布には星空のような白い斑点が無数に打たれていた。夜空に溶け込ませる出の込んだ技工だ。

船の手下達はキサラを見つけると音も立てず桟橋をおろし、一行を迎えた。

「リゴ、二人を客間に案内しな。あたしは船長室に戻る。」

「承知しやした!ささ、あんたさん達こちらでさぁ!」

豪華な客間に通された。寝室、浴室も完備されている。

「船長があんたがたに御用があるそうで、お呼びがかかるまで風呂でも浴びてくつろいでおくんなせぇ。」

そう言い残し、リゴは持ち場に戻って行った。


形式としては船長との謁見《えっけん》となる。サシャに促され、身仕度を整え待つ事にした。

しかしここはいわば敵の本拠地。一風呂浴びるのも気が気でなかったので手早く済ませた。

不思議と海賊達は誰一人襲っては来なかった。キサラの統率力の高さが伺える。


仕度も済みしばしの沈黙、そこへノックの音

「リゴです、姉御がお呼びでさぁ。」

船長室は船の最後部《さいこうぶ》にあった。

「姉御、お二人を連れてまいりやした!」

「通してやりな!」

リゴは扉を開け、二人を入れると、自分は入らず扉を閉じ持ち場に持ち場に戻って行った。


部屋に入るなり、キサラの姿に二人は硬直する。丁寧に解かれた髪、腰から下の側面が大きく割れた、体の線がはっきり浮き立つ細身のドレス、ほのかな香水の香り。その姿は世の女達の欲しがるすべてを備えており、世の男達すべてをひれ伏させる魅力を放っていた。

「そこに座っとくれ。」

三人はテーブルを挟んで、向い合ってソファーに掛けた。

あまりの目線の強さにキサラは思わず吹き出した。

「ちょいと、なんて顔してんだい。」

顔面がはっきりと紅潮《こうちょう》するロイ。サシャも紅潮していたが、目線はロイに。明らかに睨んでいる。サシャは心で呟く。

(なんなのこの気持ちなんなのこの気持ちなんなのこの気持ち・・・)

そんなサシャを一瞬見たキサラがロイに言った。

「何もとって食いやしないよ。」

ロイとサシャは別々の恥ずかしさで下を向いた。


「さて、話しに入ろうかねぇ・・・少々込み入った話しになるけど、あんた達にも聞いてもらいたいんだ。」

急に顔を曇らせるキサラ。二人も平常心を取り戻した。

「あんた達を悪者に仕立てたあの巫女・・・あれは・・・変わり果てたあたしの妹なんだ!」

言葉を失う二人にキサラは続ける。

「あたしと妹のワズは、この国の生まれでねぇ、さっき通って来たスラムで育ったんだよ。あたし達が生まれたばかりの頃、王は民衆から次々と湧いて来る不満の解消のために、民衆より身分の下の存在を作り、小さな不満をすべて背負わせる制度を作った。スラムはそうして生まれた。各家庭の収入と債務《さいむ》が基準とされていたんだが、お人好しの両親は悪友に騙《だま》されて借金をふっかけられていたのさ。そのおかげであたしら一家はスラムに、悪友は体良く一般市民に分類されたんだ。そして、事件が起きたんだよ。」


遠い目をするキサラ。ロイとサシャは複雑な面持《おもも》ちで静かに耳を傾ける。

「ワズが迷子になってねぇ、探し回っている時、家には街に住む悪友の仕向けた取り立て屋達が来ていた。スラムの人間がどう頑張ったって、街で働かせてくれるところもなく、収入なんかありゃしない。だから取り立て屋達は自給自足がやっとの畑の作物に手をかけた。親父が止めるといきりたち、親父と、病気で寝ていた母を袋だたきにした後、家に火を放ったんだよ。

ワズをようやく見つけて帰った時にはみんな灰になっちまってたよ。その後すぐにあたしらは海賊達に拾われた。そして今に至る。」


一瞬の沈黙。再びキサラは語る。

「ここからワズは歪み始める。世界の海をまたにかけているうち、シグの事も、あんたのその剣の事もいろいろ学んださ、そして先代がシグの原石を見つけた時、ワズはいつの間にか身に付けた呪術で先代を呪い殺し、姿を消したんだ。あたしはワズを追い続けた。そして、この戴冠式《たいかんしき》を利用してワズがとんでも無い事をしようとしてる事を掴んだ。ワズは戴冠式の最中に海軍に砲撃させ、街も国も、全部ぶっ壊すつもりなんだよ!あたしはそれを止めるため、偶然にも動き出した守り人の剣を奪うつもりだった。同じシグの力なら、機人になったワズを止められると思ったけど、あんたに負けちまったからね。だから!頼むしか無いと思ったんだ!妹を止める助太刀を頼みたいんだ!」


切羽詰まる勢いのキサラは突然土下座する。

「お願いだ!この通りだ!頼む、妹を止めてくれ!」

ロイとサシャは顔を見合せ、すぐさまキサラの体を起こす。

「行きましょうお城へ!妹さんを止めよう!」

キサラは力一杯ロイの手を握った。

「ありがとう。作戦を話す。」

三人は再び掛け、キサラはテーブルに資料を広げた。


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