第7話
その日付を、見てしまったのは、まったくの、不注意だった。
日曜の、朝だった。
彼の部屋で、わたしは、先に、目を覚ました。カーテンの隙間から、春の終わりの、まだ柔らかい光が、差していた。彼は、わたしの隣で、まだ、眠っていた。寝息が、規則正しくて、まつげが、長くて、口が、ほんの少し、開いていた。わたしは、その寝顔が、好きで、しばらく、ぼんやり、眺めていた。しあわせだった。たぶん、人生で、いちばん、何も、こわくなかった、朝だ。
だから、油断した。
彼の寝顔を、見ているうちに、視線が、自然と、上に、ずれた。
彼の頭の、すぐ上。
そこに、日付が、浮かんでいた。
あと、三日。
わたしは、息を、止めた。
心臓が、どん、と、一回だけ、大きく、鳴って、それから、おかしいくらい、静かに、なった。耳の奥で、自分の血の流れる音だけが、聞こえた。あと、三日。今日を、入れて、三日。その日付の意味を、わたしは、誰よりも、よく、知っている。祖母の上に、見たのと、同じ種類の。近い、近すぎる、終わりの、日付。
彼は、何も知らずに、眠っていた。
あと三日で、終わるなんて、何も知らずに、わたしの隣で、規則正しく、寝息を、立てていた。
わたしは、声を上げそうになるのを、両手で、口を押さえて、こらえた。涙が、出た。理由を、彼が起きたときに、どう説明すればいいのか、わからなかった。何も、説明できない。説明したところで、信じてもらえるわけが、ない。それに――もし、信じてもらえたとして。それで、何が、変わる?
知っていることと、変えられることは、違う。
あの夏から、それは、ずっと、変わらない。
でも。
わたしは、布団の中で、震えながら、決めた。
今度こそ。
今度こそは、見ているだけには、ならない。
祖母のときの、何もしなかった自分を、十六年間、許せずに、きたのだから。逃げて、自分で終わらせてしまった、美月のことを、後悔し続けて、きたのだから。今度こそ。わたしは、あがく。あがいて、あがいて、この、三日を、変えてみせる。




