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さかな達のanthology≪アンソロジー≫  作者: 七海 みな


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第八話 水が苦手なさかな達

「泳ぐのが苦手な魚がいるらしいよ」

「魚なのに?」

「泳ぐより歩いた方が速いんだって」

「それもう魚じゃなくない?」

「そういう魚がいるってこと」

「ヒレで歩くのかな? カメみたいに? 泳いだ方が速そうだけど」

「岩の上とか海底とか、ヒレを使って歩くんだって」

「その魚は、自分達の頭上を他の魚が悠々と泳いで行くのを見てどう思うんだろうね」

「羨ましいとか?」

「逆に、優越感を持っていたりして」

「自分達の方が進化しているって?」

「うん」

「海から陸へ進化した時の生き残りってこと?」

「生き残りって言うのかな? でも、それにしても何で彼らはそのタイミングで進化を止めたんだろうね」

「案外気に入ったんじゃない? ずっと泳いでるのも疲れるし」

「確かに。彼らのご先祖様は、本当に泳ぐのが苦手だったんだろうね」

「または、単に面倒くさがりだったのかも」

「あり得る」

「そう言えば、魚って、まぶたがないから目を開けたまま眠るらしいよ」

「まあ、ないものは仕方ないよね」



「それでさ、ご先祖様が陸へ進出する時に、最初のうちはまだ水の近くに住んでるでしょ?」

「うん、いきなり水のない所はさすがに無理だろうしね」

「水が苦手な魚がいるらしいよ」

「意味が分からないんだけど」

「長く水没すると、溺れて死んじゃうんだって」

「それ、本当に魚?」

「干潟とか水際に住んでいて、エラが退化したんだって」

「でも水際に住んでいるということは、水から離れては生きられないってこと?」

「そうなんだよね。身体の表面は濡れてないといけないらしいんだけど」

「でも溺れる」

「そう」

「その状態で種(しゅ)として固定されているのが不思議」

「進化の記憶ってことだね」

「何だか、頑張ってるなと思う気持ちと共に、微かな同情を感じるよ」

「分かる」



「でも、そういう彼らの努力があって、今の僕らがいるんだよね」

「そういうことになるね」

「一周回って海に戻って来たご先祖様は、どんな気持ちだったんだろう」

「陸での生活が期待外れだったのか」

「海での生活が恋しくなったのか」

「どっちだろうね」

「どっちもかもしれないね」

「じゃあ、また海から陸に戻る可能性もあるのかな」

「どうだろう」

「今の海の状態に満足できないなら、考えるかもね」

「だけど、今の陸上に、夢や可能性が期待できるのかな?」

「まあ地球は広いから、今もどこかで誰かが何らかの進化をしているかもしれないよ」

「その可能性はゼロではないね」

「歩いてみたい?」

「歩いたことがないから分からない」

「ステージの上に上がると、動きにくいし、重いよね」

「水の中の方が楽(らく)だね」

「それに、広い海の中をぐんぐん泳ぐのは間違いなく楽しい」

「生きてるって感じがするね。あの感覚、大好き」

「同感」

「まあ、ここもそんなに悪くないけどね」

「うん」



「そろそろじゃない?」

「そろそろだね」

「そう言えば、あの新入りの子、昨日餌のアジを何度も滑って掴み損ねてたよ。ずっと口を開けて待ってたの、ちょっと疲れた」

「もう死んでるのに、活きが良すぎたんだね」

「味はいつも通りだった」

「今日は思い切りジャンプしたいな」

「人間の子どもがいたら、また水をたくさんかけてあげよう」


イルカ達はおかしそうに笑って、くるりと体を回転させる。

彼らの深い瞳が見つめる先で、ゲートがゆっくりと開き始めた。


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