龍の巣
「対龍式兵装の用意は出来てるな」
「大丈夫です。俺らスクルド臨時一番隊、抜けも漏れもありません」
「そうか。ここから先は、いよいよ龍の巣になる。どんなイレギュラーが発生するかも分からない。備えだけは万全にな」
「イレギュラーって、そんなん起こりますかね。ここらの龍は火炎の形質だって研究結果が出てはるじゃないですか」
「それを覆すかもしれない反応があったから、こうして我々が実地調査に赴くことになったんだ。今回の調査で、三厄災が更新されるかも分からない。全滅だけは避けなければならん。最後に立つのがカイナ、君だけの可能性だってある。そうなった時のために、備えは十分にだな」
「全滅って、そんなんありえへんと思うんですけどね。だってここにいるのは、俺ら含めた直属護衛でも上澄み部隊。そこに独立部隊のNo.3、金色の英傑リッサ・A・フォルフォード。加えてNo.5、虚ろの姫君を取り押さえた旧歴戦部隊の隊長ジャール・オトバダ。そして、魔導具の宝物庫、使い分けの鬼たるNo.4ジーク・フラウドルフ。これだけの強者が集まってて全滅なんて、目を瞑ってても無理っすわ」
「無理などという言葉は、想像力の足りない者が使うものだ。現実は、いつだって無理も無茶も超えてくる。ここにいる者たちの想定を覆すことなんて、平気であるさ」
「そうですかね。少なくとも、全滅は無いでしょ」
「そうですね、僕も流石に全滅は有り得ないかと……」
「ほら、ここにいるユーリもそう言って……ってはあっ!?」
カイナさんの大声で、全員の目線が一気に集まる。
「な、なんでおるんお前……」
彼の疑問はごもっともで、おそらく何かしらの作戦中だった王国直属護衛隊の集まりの中に割って入った僕の存在は、イレギュラー中のイレギュラーだ。
「ほら、私の言った通りだ。現実はいつだって想定を覆す」
そう少し得意げになるエリッサさんと、
「いやいやいや。そんなこと言ってる場合じゃありませんって」
と、慌てながら僕に武器を向けるその他大勢。
「いつからつけてきたんお前! 公務執行妨害で取り押さえや!!!」
「え、いやいや待って!!!」
「待ってもクソもあらへん!!! お前はいっつも迷惑ばっか運んできはる!!! なんなんやほんま!!!」
「なんなんやって……しがない一般冒険者ですって」
「一般冒険者が、こんな辺境まで来れるはずが!!!」
「まあ、そうですね。テレポートを使いましたけど」
「ほらっ!!!何がテレポートや、このカスぅ!!! デタラメな言い分引っ提げよって。やっぱりお前はあの日牢の中に入れとくべきやったんや!!!」
衝動のあまり、斧の刃が僕のもうスレスレまで来てる。
「驚かせたのは申し訳ないですけど、僕まだなんにもしてないですって!!!」
「そうだぞ、カイナ。他の皆もその手を下げてくれ」
エリッサさんの一声があって、僕への包囲は解かれた。
が、まだ空気は突如現れた僕への警戒で澱んでる。
カイナさん達を筆頭に、ピリついてるのが肌に伝わる。
そんな中でも、エリッサさんだけは普段と変わらずに接してくれるんだ。
「ユーリ、久しぶりだな。元気にしていたか」
「はい!エリッサさんもお変わりなく!」
「今日はどうしたんだ。まさか目的地がたまたま被ったなんてことはないだろう?」
「えっと、エリッサさんからの手紙を今日受け取って」
「なるほど、それでか。すまないな、今日はこれから龍の巣の調査に赴くことになっていてな」
「なるほど。それはご迷惑おかけしました」
調査があるのなら、忙しいのだろうし出直そうかと思ったが。
「いや、せっかく来てくれたのに追い返すのは無礼だ。そこでだ、ユーリが嫌でなければだが、共に調査に同行するのはどうだ?」
「え!」
「はいぃ!?」
エリッサさんのその提案を、断る理由は僕には無いんだけど……。
「いやいやいやいや。エリッサさんさっき言うてはったじゃないですか、イレギュラーに備えろって。こんな奴庇いながら戦闘なんて、自分したないですよ!!!」
カイナさんに、僕はギッと睨まれる。
まあ猛反発が来るのは薄々分かってはいたよ。
チームの士気にも影響するし、流石に帰ろうと思っていたのだが。
「庇う? 見くびるのはおかしな話だな。カイナ、君は一度彼に負けている」
「なっ!?」
「あの時の勝敗だけではない。彼には十分な実力があるのは、実績からも明らかであろう? ユーリには護衛対象ではなく、助っ人として加入してもらうつもりだ」
「いや、だって……。あれは……」
宝石の指輪ありの代償変換という下駄を履いた状態だったけど、まあ確かに勝ったっちゃあ勝ったな。
それを引き合いに出されると、カイナさんも何も言えないようで……。
「はぁ……分かりました」
と、諦めて僕の加入を渋々認めてくれた。
「確認するが、ここから先は龍の巣だ。文字の通り、龍が巣食う根城ということになる。それ相応の準備は欠かさないで欲しいが、大丈夫か?」
「大丈夫、だと思います」
何があってもいいように、魔導具と、これまでの稼ぎの内の少しを宝石にして持ってきている。
魔法ではまだ足元にも及ばないかもしれないけど、流石に代償変換があれば、足を引っ張ることは無いはずだ。
「では行こうか。目的地は龍の巣、その最奥だ」




