金魚のフン
ファズさんとの依頼が終わり、そして一夜明けて。
「二人とも、依頼をかなりこなしてるだけの動きではあった。特にアカネ、実力はSクラスと遜色ないな」
と、ファズさんからお墨付きを頂いたこともあり、僕らの受注した依頼には人だかりが出来るようになっていた。
アジ・ダハーカ戦によるインパクト、ファズさんによる実力の保証、そしてテレポーターという役割。
宣伝効果としては抜群で、受注した依頼には冒険者たちが殺到する。
僕らが受けるのは、スクルドの街に居た時と同様に、金額的にもSクラスの依頼のみ。
だから、基本的に求めるのもSクラスレベルの人たちだ。
「ごめんなさい、今回はSクラス以上を募集してて……」
と、暁音さんはダメ元で来たAクラス以下の人達に断りを入れる。
自分がSクラスじゃないのになんてダブルスタンダードなんだって思われるだろうけど、暁音さんに関してはファズさんからのお墨付きがあるからそこまで変には思われない。
問題は僕だ。
Sクラス未満のくせして、何を言うのかという状態。
動きも別に順当にBクラスくらいの実力だし、速射と連射は未だ安定しない。
足を引っ張らないようにはしてるが、明らかにSクラスの人たちとの力量の差がある。
そんな僕を入れたパーティでも人が集まってくれるのは、あくまでもテレポーターという役割に需要があるからであり、実力だけを見てしまえば、お荷物もいいところだ。
そのまま依頼に挑み続けてしばらく経った。
依頼達成率は九割越えで、今のところ死者や負傷者はゼロ。
一日一依頼のペース保ちながら、いい具合の稼ぎを得ていた。
暁音さんの名はギルド内で段々と上がり始め、とうとうSクラスになってしまった。
名実ともにSになったので、もう遠慮はいらないだろうと、彼女は堂々Sクラスの依頼を受けて、強そうな人を選り好みしていた。
暁音さんは、順調だった。
問題は、僕だ。
実力は、やっとA下位クラスにはなったと思うが、課題の速射連射は安定しないまま。
受ける依頼は、金額的にSクラスなので難度も高い。
そのため、なかなか見せ場を作れもしない。
やれることといえば、油断せずに戦場に立つことと、あとはケツァルコアトル戦のように、何かしらの要因で相手に隙が生まれた時のダメ押し要員。
僕が居てもいなくても変わらないんじゃ、と思うほどだ。
パーティを組んだ人から何か言われた訳ではないが、逆に言えば何かを言われる訳でもないんだ。
働きで感謝されるのはいつも暁音さん。
そりゃそうだ、僕以上に働いているのだから。
今のところ、テレポーター暁音に付随してくる分前泥棒の金魚のフンというのが僕の扱いだ。
そんな生活を送っていると。
「はぁ……」
たまには、ため息をつきたくもなるんだ。
「なぁに? そんなため息なんてついて。今のところすごい順調なんだよ? もうすぐで目標の半分。ペース的にもちょっと巻いてるくらいだし」
「それは、そうなんだけど……」
貢献出来てない感で悩んでるなんて、言って通じるんだろうか。
いわば窓際社員。
元の世界でその存在を知った僕は、一時期憧れもしたんだ。
だって、仕事しなくてもお金が貰えるなんてそんなの天国じゃないかと。
だけど、いざ自分がそんな状態になってみると、色々苦しいものがある。
お荷物、給料泥棒、向上心、etc……。
色んな要因が絡まっていて、そう気楽にいれるものじゃないんだ。
「はぁ……」
「またため息。悩み事なら言ってよ」
「悩み事ってほどのことじゃないんだけどさ。なんて言うか……。貢献出来てないなって」
「貢献?」
「いや、Sクラスの依頼で、一人だけなんにもできてないなって思って。それが辛くてさ」
「別に迷惑かけてる訳じゃないんだし、堂々としてればいいんじゃないの?」
暁音さんはそう言ってくれるけど、やっぱりこのままの実力甘んじてちゃいけない気はするんだよなぁ。
「うーん、別に悠里くんを迷惑だって言ってる人居なかったと思うけど」
「直接は言わないけど、みんな心のどこかでは思ってると思うよ」
「ネガティブ思考だねぇ。悠里くんらしいといえばらしいけど」
明確な解決法は出ないまま。
まあ、気持ちの問題だからなぁ……。
「……そうだ、もうそろそろヨルズの街の手頃な依頼も尽きることだし、別の街の話でもしようよ」
暁音さんは、どこかから二、三枚紙を持ってきて、あそこにしようここはどう、と話してくれる。
でも、僕は正直乗り気ではなかった。
また新しい地で関係を築き直すのも、テレポーターを広めるのも色々大変だなという方が勝ってしまったのだ。
それは僕の反応からも明らかなようで。
「一度、スクルドの街に戻ってみよっか」
と、暁音さんは広げた紙を戻して言う。
「うん、ごめん……」
「謝らないでよ。旅行気分な私の方がおかしいんだから」
どこかブルーな気分の抜けないまま、その日の会話は幕を下ろした。
そして翌日。
僕らは代償変換によるテレポートで、スクルドの街に戻ってきた。
約一月の間不在にしていたけど、流石にその程度じゃ代わり映えもなく見慣れた街の景色がそこにはあった。
とりあえず僕らはギルドへ向かった。
以前、手頃な依頼は僕らが受け尽くしたために、スクルドで残るSクラスの依頼ははるか高難度のものだけになったが、一ヶ月経ってどうなったか。
Sクラスのボードを見て、あったのは。
「一月分間隔を空けただけじゃ、Sクラスの依頼は二つ増えただけだね」
僕らのターゲット層になる依頼はわずか二つ増えただけ。
二日もあれば、受け尽くせてしまう量だ。
「悠里くん、いよいよどうしよう。今日明日はここの依頼でいいんだけど、それ以降となると、依頼が尽きちゃうよ」
「じゃあやっぱり新天地開拓が必要になるのか」
妙案は特に思いつかない。
新天地開拓となれば、またアジ・ダハーカの時のように名を広める必要がある。
でも、あの方法も賭けに近しい行為だったわけで、全然確実な方法では無い。
「確実に、名を広める方法……か」
「うーん、どうしようね」
二人で悩むが、いい方法は思いつかない。
「私がSクラスになったから、その効力でごり押すのは?」
「それでもいいとは思う。けど……」
不安なのは、やはり僕の存在。
テレポーターが広まってない場所だとただのSクラスのパーティリーダー。
そこにBクラスの金魚のフンがくっ付いてくるとなると、参加する人も少なくなるだろう。
「悠里くんも別に動けない訳じゃないんだし、さっさとSクラスにあげてくれてもいいんじゃって思うんだけどなぁ」
「それは言い過ぎだよ。全然できないことの方が多いし」
うーん。
さて、思考が八方塞がりになってきたな。
「こういう時は誰かに相談した方が良いんだけど……私異世界に友達悠里くんぐらいしかいなくてね」
「相談できそうな人か」
エリナさんは、居場所が分からないし。
ルフローヴさんは、まあ貴族だし色々忙しそうだしな。
そういうのも加味して、場所が分かってて比較的時間を作ってくれそうなのは――。
「そういえば元気にしてるかな、ゼラさん」




