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アジ・ダハーカ 3

 全員をテレポートさせるには、どうやら三千万Gほどかかるらしい。

 代償変換のスキルの良いところは、代償の払い方が柔軟にあることだ。

 この代償で起こせる分だけっていう風な、代償を基準とした変換がまず主流。

 宝石一粒で、起こせるだけの魔法を起こすみたいな払い方だ。

 それ以外にも、事象を基準とした変換も出来る。

 今回で言うと、百三十四人を馬車で半日の距離をテレポートさせる、って事象を基準にして、払う代償が足りれば起こり、足りなければ代償は変換されず何も起こらないというもの。

 どちらにもメリットデメリットがあって、瞬間で発動させるには代償基準、時間がある場合には余計な消費を抑えるためにも事象基準、と使い分けが重要だ。

 

 僕がいつもイメージしてるのは、車のガソリンの払い方みたいだなってこと。

 年齢的に僕は払ったことないんだけど、親が車のガソリンを入れる時、二千円で入れれる分だけガソリン入れてるのと、満タンまで入れてそのかかった額を払うのとで二通りの払い方をしていた。

 前者は、代償変換で言うところの代償基準。

 後者は事象基準だ。


 少しずつ代償の価値を増やしていき、テレポートが起こったのが、価値が三千万Gに達した時だった。

 傍から見れば、握る宝石を少しずつ増やしていく光景は奇妙に写ったことだろう。

 なかなか起こらないテレポートに、不信感を募らせてしまったかもしれないが、余計な代償を払うほうが嫌だから仕方ない。


 テレポート先は、アジ・ダハーカから一キロ、の所に設定した。

 こういう起こす事象の柔軟さも、代償変換がチートスキルだと思う点だ。

 例え相手の居場所がわからなくても、代償変換の事象の起こし方を工夫さえすればこの通り。

 あとは、徒歩で少し散策すれば……。


「……居た」


 山の中腹あたりの少し開けた場所に奴、アジ・ダハーカは。

 僕らに背を向けている四つん這いの三つ首。

 尾から頭までの全長は、民家ひとつならゆうに越える。

 大規模パーティの先頭、岩陰からターゲットを見守る僕は、とりあえず皆に伝える。


「いいですか、無茶だけはしないでくださいね。僕か暁音さんが危険だと判断したら、即時テレポートさせます。特に戦闘経験が少ない方は、まず生き残ることだけを意識していてください。ダメージは他が出しますから」


 目で合図を送ると、ファズさんたちSクラスの前衛部隊は岩陰から前に出る。

 たかが一歩だが、そこから先にはもう遮蔽が無い。

 彼らの後ろから、隊列を整えた僕らはぞろぞろと顔をだす。

 奇跡的に、僕らは相手の背後を取ってる。

 その隙に、全員がバトルフィールド上に立つ。

 これで百三十四人の一人一人が、戦闘に関与することが確定した。

 これだけでもう、紛れもない快挙と言っていいだろう。


 相手には、まだ気づかれてない。

 これは絶好の機会だ。

 僕の指示で、メイヤさんを筆頭にした魔法職の皆がエーテルのチャージを行う。

 万全の持てる最大火力を、ファーストアタックでぶつけてもらうつもりだ。

 魔法の連射が出来る人には連射可能な分だけのエーテルを蓄えてもらう。

 理想は、この攻撃でトドメまで持っていくことだ。

 誇張されていたとはいえ、鎧のような皮膚に不死性を持っていると言われた龍だ。

 持久戦なんて挑もうものなら、確実に負ける。

 

「……?」


 相手の動きがピタリと止まった。

 まだ魔法は放っていない。

 嫌な予感がするが、エーテルのチャージは続けてもらう。

 報酬金七十億の災厄相手だ、不意打ちで決め切るくらいじゃないと勝ちは見えてこない。

 まだ、エーテルを貯め初めて六秒ほど。

 エーテル器官の加速度が強い人でも、打てて一発が限度という具合。

 まだ気づかれてないことを祈って、ギリギリまでチャージを。

 この間は、生きた心地がしなかった。

 どこまで続けてどこで切り上げるべきなのか、全ては僕の合図にかかってる。

 バレれば、絶好の機会が全てが水の泡だ。

 もし動き出されたら、魔法を打ってる余裕はない。

 魔法職は自衛の手段が無いに等しいから、回避に専念する他ない。

 前衛の守備も、あの巨体相手じゃどこまで出来るか分からない。

 奴のエーテル器官の能力も、未だ不明だ。

 千の魔法は……流石にないとしても、それでも強力な物であることに違いはないだろう。


 いつだ。

 今か、今かと判断を自分に迫る。

 毎秒大きくなる恐怖に、すぐさま合図を出したくなるがグッと堪える。

 無自覚な奴との我慢比べ。

 額の汗がポタっと落ちても、まだだ。


 削り切るなら、まだ欲しい。

 もう一分、いや三十秒は……。

 慎重に、でも強欲に行かねば、倒すには至らない。

 早くなる鼓動に、漏れそうになる息を殺して、僕はタイミングを待った。

 そして、その時は訪れた。


 

 いや、訪れてしまったのだ。


 

 そして三つ首のうちの一つが、不意に背後を振り向いた。



 

「……!」


 


 やつの視界に僕らが映る。

 その刹那、僕は構えていた手を振り下ろす。


「……ちっ、今だ!」


凍てつく冷線(ブリザードレイ)!」

穿つ連雷(ランスボルトハイ)!」

灼く火炎弾(プロミネンスショット)!」

荒ぶる風撃(テンペストラッシュ)!」


 皆それぞれの得意技を、ありったけの火力で放つ。

 火炎に雷、竜巻に氷が混じり吹き荒れる嵐の様相。

 一人の威力は並程度でも、それが数十と重なれば桁違いの破壊力。

 フルチャージにはまだ足りなかったが、それでもダメージは確実に。


 

「って……まじか」



 連射はまだ続いてる。

 放ったほとんどがアジ・ダハーカに命中し、表層に傷をつけ続けている。

 絶え間なんてない無限の攻撃を全身に受け止めて、平気な生物なんているはずが無い。

 多少はどこか傷を庇い、狼狽え始めるはずだろう。

 だが、四つん這いから体を起こした奴は、平気な素振りでこちらに振り返る。

 その動作にどこかを庇う様子はない。

 全ての攻撃を受け止めながらも飄々とした三つ首は、僕らを一瞥するかのように眺めた後に、放った。



「「「ばおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!」」」



 空を裂かんと言わんばかりの龍の咆哮。

 鼓膜が破れそうになる程の音圧は、魔法部隊の手を止めさせ、自らに降る攻撃の全てを止ませた。

 龍は、たった一声で、戦況をひっくり返したのだ。


 奴が口を閉じても尚、まだ脳には響き続ける。

 衝撃が強すぎて離れていかないんだ。

 先手を取ったこの戦いは、最悪な形で幕を開けた。

 未だこびり付くその咆哮。

 それはまるで僕らにこう告げているかのようだった。


 俺の勝ちだ、と。



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