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アジ・ダハーカ

「八十一居た災厄は、どこまでが事実なのか、今となっては確認するすべがありません。神話のように語られる物もあれば、ミドガルズオルムのように存在したであろう証拠を残した物まで様々です。私も歴史学者では無いため正確なことは言えませんが、誇張が大きいところはあると思います。伝承を全て信じるのなら、規模だけで言えば、今尚恐れられている三厄災よりも大きいものばかりです。能力も、無限の増殖を行ったり、千の魔法を使用したりなど。三厄災より恐ろしいはずの八十一の災厄が恐れられなくなったのは、十中八九、エーテル学の発展があったからでしょう。エーテル学の研究によって、生物にはエーテル器官がある事がわかった。エーテル器官には法則があり、そうデタラメな魔術が放てるほど便利な物ではない。その事実が世間に浸透した時に、八十一の災厄の脅威は人々の中から消え失せたのです」


 ガイドのお兄さんによって語られる、八十一の災厄の話。

 つまり、伝承の中で誇張が大きくなりすぎていて、どこまでが事実なのかが分からない、と。

 無限の増殖、千の魔法、例に挙げられた災厄たちの魔法は現実にあったなら、月の魔物なんかの比じゃない。

 八十一の災厄の話は、あくまでも伝承。

 現在の観点から見ると、盛られた部分が大きいだろうというのが結論みたいだ。


 なんで八十一の災厄についての話を、ガイドのお兄さんをわざわざ改めて呼び出してまで聞いたのか、って。

 それは、これから僕らが相手する怪物が、紛れもなく81の災厄に属するからだ。

 

「八十一の災厄のうち、現存するのは七体だと言われています。そのうちの一体、古より解き放たれた怪物、アジ・ダハーカは、三つ首の龍とされています。ドゥンリファー山に封印されているという彼は、世界の終末には全ての生物を喰らい尽くすだろうと言われています」

「全ての生物を、喰らう……?」

「ええ。世界の終末が何を指すのかが不明ですが、その時になれば封印から解き放たれると。特徴として、硬い皮膚と不死性を持ち、傷が一瞬で癒えると言います。また、先ほど例にあげた千の魔法を持つと言われているのが彼です」


 不死性を持ち、千の魔法を使う。

 属性としてはこれ以上ないほどモリモリなわけだけど。


「ですがお察しの通り、それらはあくまでも伝承の話。現実の彼は、あくまでも生物。エーテル器官を所有した、私たちと変わらぬ、一生き物でした。数十年前程に、調査に赴いた冒険者が居ましたが、封印などされておらず、生態も至って普通の龍の範囲内だったと。伝承と一致するのは三つ首だったことくらいで、全長も、この世全ての生物が喰らえるほどのサイズは無かったそうです」

「じゃあその伝承は、誇張されたものだったと」

「そうなりますね。もしかすれば、ドゥンリファー山の奥深くに、本物のアジ・ダハーカがいるのかもしれませんが、三つ首の龍が同じ山にそう数体と居るとは思えません。これから皆さんが相手するアジ・ダハーカは、伝承のものとはまるで違うことでしょう」


 なるほど、ね。

 三つ首の龍、アジ・ダハーカ。

 依頼書を作成する時に依頼主が書く説明文には、81の災厄であり千の魔法を駆使する不死の怪物と合ったから、流石にビビってたんだけど、どうやら実物はそこまでのものではないようだ。


「ですが、舐めてかかってはいけません。相手は龍。規格外の強さを誇ります。冒険者さんに素人である自分がわざわざ注意喚起するのもおかしな話ですが、その……」


 言葉尻を濁して、僕を、正確に言えば"僕たち"を見るガイドのお兄さん。


「挑まれるのは、ここにいる皆様でってことなんですよね?」

「はい! 百三十四人で行きます!」


 僕が今回組んだパーティは、総勢百三十四人だ。


「えっと……皆様Sクラスの冒険者様とかでは」

「無いです! まず、僕がBですし、Eとかの人も大勢いらっしゃいます!」

「……」


 あまりの状況に、絶句するガイドの彼。

 まあ、そうだよな。

 百人越えの人数を引き連れて、向かう場所が伝承に名を残す龍の元。

 しかも、メンバーの大半はAクラス以下の冒険者。

 そんなの、傍から見れば。


「死にに行くんですか」


 そうも思われるよな。


 まず、クラス越えってのは、僕の感覚が麻痺してるけど本当はやっちゃいけない自殺行為みたいなものなんだよな。

 それを、大勢で行う。

 しかも誇張されていたとはいえ、かつては恐れられていた龍相手で、だ。

 こんなの誰が見たって、死にに行くとしか思えないだろう。


「大丈夫です。誰一人、欠けることなく生還してみせます!」

「……」


 再びの絶句は、彼の心の内をこれでもないという程に表していた。


「ごめんなさい。笑顔で送り出すことはやっぱりできないです……」

「仕方ないですよ。でも、ちゃんと帰ってくるので!」


 僕の発言に苦笑いを浮かべた後、ガイドのお兄さんはとぼとぼとギルドを後にした。

 

 さてと。

 僕と暁音さんを除いた、百三十二人を前に僕は、受注主として振る舞わなければならないわけだが、これだけ居るとやっぱり緊張するな……。

 ザワザワとする声を一度止めてもらい、僕は彼らに伝える。


「えっと、さっきの話を聞いた通りです。封印がなんだと言われたアジ・ダハーカでも、どうやらちゃんと生き物みたいです。つまり、倒せます。ここにいる皆さんの力を合わせて、ワンチャンス掴みに行きましょう!!!」


 そう言って、リーダーらしく拳を上に掲げて見るが、反応してくれたのは半分程度。

 うおおおおおおおお!!! と、共に拳を掲げてくれた半分と、もう半分は、お通夜みたいな雰囲気を漂わせてる。

 完全に二分した百三十二人だが、何がどうしてこうなったのか。

 発端は、僕の貼った依頼書の写しからだ。


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