売り込み
「英雄トールの魂、ここに眠る……か」
銅像の前に辿り着けたのは、門をくぐって十分してからだった。
ミドガルズオルムを倒したという推定ハイエーテルの彼、トールは、齢十八の若さで亡くなったという。
雷に貫かれ、ミドガルズオルムと共に命を落とした彼の亡骸はこの銅像の真下に埋められているそうだ。
どんな人だったのか見上げると、身長自体は僕とさほど変わらないように見える。
台座の分彼の方が高いだけで、恵まれた体格をしていたとかではないようだ。
そんな彼が不死性を持つミドガルズオルムという怪物を討伐できたのは、やはり持ってた能力によるものだろう。
能力の無効化なんて、まさにチートだ。
不死性なんて並外れた物を持つミドガルズオルムをこの世界に生み出してしまった神様の後始末として生を受けたんじゃと勘ぐってしまう。
ハイエーテル、僕もそんな能力を持って生まれたら違う人生だったかなとか、そんなことを考えてしまう。
あれこれ浮かぶ妄想が良いものばかりなのは、きっと僕がハイエーテルの良い面しか見てないからだ。
今でも差別されている彼らが当時どれだけの僻みを受け、虐げられてきたのかを知らないからそんなことが言える。
生前、彼が最後に放った言葉が唯一支えてくれた母への感謝だというのがその人生の苦しみを物語っている。
満足いくまで銅像を見た僕は、先に掲示板を見ていた暁音さんに合流した。
「どう? いい依頼はあった?」
「うん、まあまあ色々。五、六億程度の丁度よさそうなのがざっと十くらい」
僕も後ろから依頼を眺める。
条件に合致しそうな依頼は、暁音さんの言うようにだいたい十ほど。
それ以外にも目を通してみたら、上は七十億、下は数千万円と幅広い。
内容は討伐や探索など、見覚えあるものばかりだ。
「じゃあ、そこら辺を受けようか」
ギルドの受付に、スクルドの街で発行してもらった団員証明書を渡して、僕らはこの街でも依頼を受けられるようになった。
報酬金が五、六億程度の依頼を受注し、受注主になった僕は早速ここでも併設されている酒場のブースへ。
いつものように募集要項に、分前はきっちり四等分、当方魔法職二人、前衛職を求む、テレポーター有り〼、と書いて、いざ貼ろうとしたところで暁音さんに止められる。
「多分、いつものままの文面じゃ中々集まらないよ」
「え?」
「だって、いつものように募集をかけて集まるのは、私たちの名前、もといテレポーターって役割が浸透してるから。この街じゃ、多分テレポーターのテの字も知られてないから、ただ募集をかけるだけじゃいくら待っても来ないよ」
「じゃあどうすれば……」
「簡単な話、自分から売り込みに行くんだよ」
暁音さんは依頼書の写しを僕の手から取ると、それを持って明らかに強面の男性達に声をかける。
「すみませーん」
「ああ?」
「私たち、パーティメンバー募集していて。お兄さん達強そうだなぁって思ったので声をかけたんですけど」
「……へっ、こんなガキ。クラスはいくつだ?」
「私がAで、あそこの彼がBです」
「それで受ける依頼がSクラスかよ。はははっ、冗談は止せよ嬢ちゃん」
「分不相応だぜ。出直してこい」
「実は私、"特別なエーテル器官"を持ってまして。一瞬でパーティメンバーを瞬間移動させることができるんです」
「ほぉ? 要するに嬢ちゃんは、ハイエーテルか?」
「はははっ、ハイエーテルを自らバラすのかよ。変わってるな」
「移動には手間がかかりませんし、依頼達成したらすぐにここへ戻れます。万が一失敗しかけても、瞬間移動が有るので死ぬことは確実に有り得ません。快適な狩猟が行えると思いますよ」
「そう聞くと、良さげに聞こえるが……」
少し悩んだような素振りをした男たちだったが。
「やっぱり帰んな。俺たちはハイエーテルなんぞと組む気は無い」
「そうだな。ガキに背中は預けられんわ」
と結局、一蹴されてしまった。
戻ってきた暁音さんはと言うと。
「はははっ。ダメだったー!」
と、元気に笑う。
「こういうことはままあるから、気にせず次々!!!」
そして次のグループに話しかけるも。
「得体が分からないし、いい」
「実力がなぁ……」
「ハイエーテルかよ、こっち来んな」
クラス、ハイエーテルのような扱い、加えて年齢。
色んな要素が障壁になって、まともに取り合っては貰えない。
それでも何度もアタックし続ける暁音さんを見ていると、こっちが辛くなってくる。
「どうしたの、悠里くん?」
「もしかしてだけど暁音さん、スクルドでもこんな感じのことを……」
僕が依頼をこなすようになった頃には、既に暁音さんのテレポーターという役割がギルド内に広まっている状態だった。
でも、そこに至るまで。
具体的には、僕がまだ受験勉強をしている時の、クラスBでテレポーターが広まってない時のこと。
名前を広めるため、スムーズな依頼進行のために彼女は、僕が合格することを信じて、たった一人でこんなことを繰り返し続けて居たというのか。
「……ごめん。僕のために、色々苦労をかけてくれたのに、気付かずあぐらをかいたままで」
「ううん、私が勝手にやったことだから」
新天地でパーティメンバーを集めるのが、こんなに難しい事だとは……。
僕が、安易に他の街にしようなんて言ったからだよな。
「参加する側じゃあダメ、なの?」
「ダメじゃないけど、私たちが条件に合致する方が稀だよ。億以上の依頼で募集をかけてる人たちは、だいたいSクラス希望。AとBじゃまともに扱ってもくれない。あとは定員もある。二人で入れるところは中々無いよ」
「じゃあ、受注主にならなきゃ行けないのは前提なんだ」
「そうだね」
「暁音さんは、スクルドの街でどうやって名を広めたの」
「Bから地道に飛び込み営業を繰り返して行ったかな。それで口コミで、広まってくれるのを期待してだよ」
「この街でそれをやってたら、来た意味がないよな」
せっかく稼ぎに来たのに、わざわざA以下の依頼を受けなきゃ行けないってのも本末転倒だよな。
何か手は……。
「やっぱり、スクルドに戻ろうか」
「でも、そしたらいずれ依頼がまた尽きるだけだよ」
「そっか……」
どの道、新天地開拓はしていかないと、スクルドの街だけでは依頼が尽きる。
手っ取り早く名を広める方法。
この状況を打開できる、起死回生の一手を。
「……やっぱり、大胆に行くしかないよな」
僕は酒場からギルド受付の方に戻る。
そしてボードから新しい依頼書を一つ取って、受付で受注し直した。
酒場エリアに戻ってきた僕の手には新しい依頼書の写しが。
「悠里くん、これって……」
それを見た暁音さんの目は丸かった。
まあ、驚くのも無理はないよな。
とりあえず意図は後で説明するとして。
「募集要項には、日帰り、クラス制限なしどなたでも参加可能、報酬は山分けです、っと」
あまりにも簡単すぎる要項を書き、僕は写しを酒場のボードに貼り出した。
貼ったのが僕だから、予想通り初めは見に来る人も居なかった。
が。
「はあ!?」
僕の次に依頼を貼りに来た冒険者がその写しに気づくと、そこからじわじわと人がボードに集まり始める。
そして二十分もすれば、その人だかりはトール像に集まる観光客に匹敵するくらいになった。
「ねぇ悠里くん、何であれを……」
あの人だかりに少し青ざめた顔をした暁音さんは、僕に理由を尋ねてくる。
なんで、そう聞かれたら答えは一通りになるな。
「決まってるじゃん。
ギルドみんなで挑むんだよ、七十億の賞金首に」




